プラグイン・エフェクトのシーンにおいて質量ともに大きな存在感を放つブランドWAVESが、AIサーチ機能搭載のミックス・アシスト・システム/オンライン・プラットフォーム、WAVES StudioVerseをリリース。ここでは、ビート・メイカー/プロデューサーのChaki ZuluにStudioVerse/StudioRackをテストしてもらい、使用したチェインを分析/レビューしていただきました。また、今回特別にオリジナル・チェインをStudioVerseにアップしてもらったので、ぜひお使いください!
StudioVerseはインスピレーションの宝庫です
今回使ってみたチェイン:Drum Bus - Roomy
“ルーム感の調整も行えるドラム・バスのベーシック・チェイン”
StudioVerse画面
StudioRack画面
上の画面がDrum Bus - RoomyをロードしたWAVES StudioRack。RACKセクションの最上段は空となっており、2段目にコンプのWAVES MV2、3段目にチャンネル・ストリップのWAVES SSL G-Channel、4段目にリバーブのWAVES TrueVerb、最終段にリミッターのWAVES L1 Limiterが用意されている。
Scan機能だけでなくキーワード検索も便利
今制作している楽曲がトラップなんですが、今回はこのトラップ・ビートのドラム・バスに使えるプラグイン・チェイン、Drum Bus - RoomyをStudioVerseから選んでみました。Scan機能で検索する方法もありますが、楽器名/音楽ジャンル名/エフェクト名のほか、“90s”や“Aggressive”、“Cinematic”といったキーワードでのタグ検索もできるので便利ですね❶。Drum Bus - Roomyは、検索欄に“Drum”と打ち込み、サジェスト機能に表示されたタグ“Electronic Drums”をクリックして発見しました。
Drum Bus - Roomyを選ぶ決め手となったのは、このプラグイン・チェインが演出する“ルーム感”です。この曲のラップ/ボーカル、そして上モノはリバービーな雰囲気だったので、ルーム感のあるドラムの方がマッチすると思いました。実際、当初ドライな質感だったドラムにDrum Bus - Roomyを施したことで部屋鳴り感が足され、ラップ/ボーカル、そして上モノとのなじみが良くなったように思います。
Drum Bus - RoomyをロードしたStudioRackのRACKセクションを見てみると、最初の段は空っぽになっていて、2段目にWAVES MV2が入っています❷。MV2は大枠としてはコンプというカテゴリーに入れられていますが、実は少し変わっていて、LOW LEVELスライダーを上げると音量の低いところだけが持ち上がる仕組みとなっているのです。一方のHIGH LEVELは、スライダーを下げれば下げるほど音圧が上がっていきます。簡単に言えば、一般的なマキシマイザーのように動作するものです。
Drum Bus - Roomyでは、MACROセクションにあるVibeノブにMV2のLOW LEVELスライダーとOUTPUTスライダーがアサインされています。もう少し詳しく説明すると、Vibeノブの値を上げればLOW LEVELスライダーも上がり、OUTPUTスライダーは下がるという設定になっています。よって、ドラムにおける低い音量……例えばハイハットの音量を持ち上げ、前面に押し出すようなイメージが分かりやすいかもしれません。
StudioVerseで“知識の共有”が行われている
MV2の後段には、SSL SL4000Gシリーズ・コンソールのEQセクションとダイナミクス・セクションをモデリングしたプラグイン、WAVES SSL G-Channelがスタンバイ❸。ここではシンプルにSSL G-ChannelにおけるLFゲイン・ノブがMACROセクションのBassノブに、LMFゲイン・ノブがMidノブに、HLFゲイン・ノブがTrebleノブにアサインされています。ちなみにデフォルトでは、LFセクションのEQポイントは47Hz、LMFセクションのEQポイントは1.1kHz、HMFセクションのEQポイントは6.33kHzに設定されていて、これらは自分のドラムにぴったりハマるよう、それぞれ微調整して使うのがお勧めです。
MACROセクションのRoom Amb.ノブは、RACKセクション上から4段目にあるリバーブTrueVerbのEarly Refスライダーにひも付いています❹。“Early Ref”というのは初期反射音の意味で、壁や天井に反射して聴こえてくる音のことです。現にRoom Amb.ノブでルーム感を調節できます。自分としてはここでルーム感を演出しすぎるとクラブのような大きな空間での鳴りが悪くなるので、ほどほどにしておくのがポイントかなと思います。好みで調節してください。
最終段には、リミッターのL1 Limitterが入っています❺。パラメーターのTHRESHOLDスライダーとOUT CEILINGスライダーが、MACROセクションのLimiterノブにアサインされていて、自分はリダクション量が大体3dBくらいになるように設定しました。最後にメイン・フェーダーで全体のボリュームを整えたら終了です。
Drum Bus - Roomyにおいて自分がいいなと思ったのは、チェイン自体がかなりシンプルなので直感的に素早く音作りができるというところ。そして、ルーム感も調整できるところです。あと、MV2のLOW LEVELスライダーにひも付くMACROセクションのVibeノブは好印象でした。
今回のチェインは普段自分がやっているのと同じような内容でしたが、StudioVerse全体としては、他人のチェインを自分のプロダクションに取り入れることでまだ知らないプラグインの使い方やミックスのTipsなどを発見することが十分に可能だと思います。まさに“知識の共有”が、StudioVerseの中で行われているのではないでしょうか。
今回は、納品する楽曲のミックスで使わせてもらったので実用的なチェインを選びましたが、もっと探せば“こんな音どうやって出すんだ?”というようなクリエイティブなチェインが見つかるかもしれません。StudioVerseはインスピレーションの宝庫だと思います。
使ってみよう! Chaki Zuluのオリジナル・チェイン
ドラム・バス用のチェインを作成しました。Drum Bus - Roomyとはまた違い、ひずみを意識したドラム・サウンドに特化しています。秘けつはWAVESのディストーション・プラグイン、MDMX Distortion ModulesのScreamerを使用したところ。通常のディストーションではなく、一癖あるカオティックなひずみがドラムのおいしい帯域を引き立ててくれます。ROLAND TR-808系キック・ベース単体や、上モノに使用しても面白いかも知れません。こだわらずに使ってください。
Chaki Zulu
【Profile】ビート・メイカー/プロデューサー。ヒップホップ・クルーYENTOWNのメンバーでもあり、同レーベルYENTOWNの創設者でもある。これまでにAwichやANARCHY、MIYAVI、SKY-HI、BE:FIRSTなど数多くのアーティストの楽曲を手掛けている。
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