40mPに学ぶSynthesizer Vを使った調声テクニック

40mPに学ぶSynthesizer Vを使った調声テクニック

ボカロPは、どのようにVOCALOIDなどの歌声合成ソフトを使いこなしているのか? 現役ボカロP7名がおすすめのテクニックを紹介。ここでは、40mPが調声テクニックを解説します。調声のビフォー/アフターを比較できる音源も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

Synthesizer Vを使ってボーカルに“音楽的な”表情を付ける

◎使用ソフト:
DAW:
STEINBERG Cubase

エディター・ソフト:DREAMTONICS Synthesizer V Studio Pro
音例に使用したボイス・ライブラリー:AHS 小春六花

◎調声のビフォー/アフター:


Step❶ Synthesizer VはDREAMTONICSが開発した音声合成ソフトです。そもそも自分がSynthesizer Vを多用している理由は、何より“使い勝手が良い”からです。ベタ打ちの状態でも割とはっきりと歌詞が聴き取れるので、細かい調声をする必要がありません。仮歌がすぐに欲しい!と思ったときにもSynthesizer Vが重宝します。

 しかし、ベタ打ちした状態ではまだ“音楽的”とは言えませんので、ここからは専用エディター・ソフトのSynthesizer V Studio Proを使って、より音楽的になるように調声していきたいと思います。

 まずはVOCALOIDでもよく行われている“しゃくり上げ”から。歌い出しや離れた音に飛ぶところではボーカルのピッチが揺らぎやすいため、これをピアノロール上でも再現します。具体的には、ナイフツールでMIDIノートの子音と母音を分け、ピッチを半音くらい上げたり下げたりするだけでOK。子音の部分は32分音符を目安に切っていますが、特に決まりはないので聴いて判断するとよいでしょう。歌い出しではあえて高いノートを事前に挿入して、アクセントを付けてみました。これだけでも、より人間らしいボーカルに近付けたと思います(赤枠)。

Step❷ 次はSynthesizer V Studio Proならではの機能です。例えば“えがきだした”というフレーズにおいて、ベタ打ちの状態では、“だ”と“し”は同じ長さで再生され、なんだか機械的過ぎる感じがします。しかし、プロジェクト画面右端にある“音素”セクションを調整することで、“し”の音価を短くすることが可能なのです

 該当するMIDIノートを選択すると、音素である“a”“sh”“i”が音素セクションに自動表示されるので、スライダーを使って“sh”を95%、“i”を20%にしてみましょう。すると“し”が短く発音され、歌が自然に聴こえるようになります。最初にこの機能を知ったときは、なんて便利なんだ!と感動しました。これを使えば子音と母音のノートそれぞれを調整する必要がありません。スライダーを動かすだけで細かいニュアンスを効率的に設定できるこの機能は、自分がSynthesizer V Studio Proで重宝するものの一つです。

Step❸ パラメーターの調整も欠かせません。中でも重要になるのがテンション・パラメーター。文字通り、声のテンションを変更できる効果なのですが、値が高いと声を張り上げる感じ、値が低いと曇った感じの声になります。例えば歌い出しなどしっとり歌わせたいときは低めに、サビなど力強く歌わせたいときは高めに設定するとメリハリを出すことができます。画面下段のパラメーター画面で“テンション”を選択するとオートメーションが描けるので、試してみてください!

 また、声の吐息の量を調整できるブレスというパラメーターもよく使用します。音例の“ごおせええんふを”の“せええん”の部分はブレスを多め、テンションを低めに設定することで、局所的に裏声のようなニュアンスを表現しています(赤枠)。テンションとブレスのオートメーションを併用してあげると、ますます音楽的な表情を付けられるのでお勧めです!

40mPからのアドバイス

40mP

続けることが大事。自分の持ち味を軸にした音楽を

 Synthesizer Vは、より人間らしいサウンドを追求できる可能性があると思います。クリエイターがどのような音を求めるかにもよりますが、いろいろな音声合成ソフトの中にはSynthesizer Vという選択肢があるよ、ということを知っていただけたらうれしいです。調声では、歌詞の聴き取りやすさが一番大切だと思いいます。声の好みはさまざまなのでそれでいいのですが、やはり歌詞は聴き取れた方がいいでしょう。これからボカロPを目指す人、現在活動している人に伝えたいのは、“続けることが大事”ということ。才能ある人がひしめきあっている中で結果を出すのは大変かも知れませんが、自分の持ち味を軸に、あなたらしい音楽を作り続けてください!

40mP
【プロフィール】2008年より初音ミクを中心としたボーカロイド楽曲制作のほか、現在はボーカロイド楽曲のほかアーティストやアニメ、ゲーム、映画への楽曲提供、専門学校での特別講師など幅広く展開している。

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