柊キライに学ぶVOCALOID5を使った調声テクニック

柊キライに学ぶVOCALOID5を使った調声テクニック

ボカロPは、どのようにVOCALOIDなどの歌声合成ソフトを使いこなしているのか? 現役ボカロP7名がおすすめのテクニックを紹介。ここでは、柊キライが調声テクニックを解説します。調声のビフォー/アフターを比較できる音源も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

MIDIノートの分割やベロシティなど駆使して、デュレーションやピッチカーブを自在に操る

◎使用ソフト:
DAW:
APPLE Logic Pro

エディター・ソフト:YAMAHA VOCALOID5 Editor
音例に使用したボイス・ライブラリー:GYNOID V4 Flower

◎調声のビフォー/アフター:


Step❶ 簡単なメロディをベタ打ちで用意してみました。歌詞は“いとし/いとし/あなたのパンが食べたい/食べたい/食べたい”です。これを用いて、いろいろな調声テクニックをお伝えしていきましょう。

 まずは歌詞の前半“いとし/いとし”をキビキビと発音させたいので、デュレーション(音の長さ)を調節してみたいと思います。ここは単純に“し”のノートを選択ツールで短くしましょう(黄枠)。そして“と”のベロシティを下げます(赤枠)。ベロシティは画面左下にあるコントロールパラメーターから“Velocity”を選択すればコントロールパラメーターエリアが表示されるので、そこで描き込むことが可能です。VOCALOIDでは、ノートのベロシティを下げるとその直前のノートのデュレーションが短くなる仕様になっています。これを利用して、“と”のベロシティを下げることで自動的に“い”のデュレーションを短くできるのです。

Step❷ メロディの一番最後に登場する“食べたい”の“い”も見てみましょう。ここはロング・ノートで終わる部分。イメージよりも若干速く音がフェードアウトしていくように感じたので、ノートの語尾を32分音符1つ分長く伸ばしてあげましょう。これでノートの語尾の音が長くなり、自然かつ抜けてくるような印象になったかと思います。ほんのちょっとの違いですが、これだけでボーカルの表情が変わりますので、私はこういったところを注意して調声しています。

Step❸ 次は、ノートのピッチをはっきり聴かせる方法。これは、特に低い音から高い音へ跳躍するときに有効です。ここでは“あなたのパンが食べたい”の“た→の”へ移る部分になります。普通に再生すると“の”のピッチがしっかり聴こえてきませんので、ここはよりはっきりとピッチ感を出していきたいと思います。

 具体的には、はさみツールで“の”のノートを分割します。そして最初のノートは“の”、後ろのノートは“-”(音引き)を入力しましょう(赤枠)。こうすることで、“の”のピッチがよりはっきりと聴こえるようになります。つまり“-”というノートを作ることによって、ピッチカーブを変更することができるのです。逆にピッチカーブを緩やかにしたい場合は、“ノートを分割しない”と覚えておくといいでしょう。

Step❹ 最後は、この“-”ノートの応用方法。例えば“いとし”の“し”の語尾をスパッと切りたいときなどに有効です。この“-”ノートを“し”と次のノート“あ”の間に入れてあげましょう。入力する音高は1〜2オクターブ下くらいの大体でOK。この状態で再生すると、“-”の音が鳴ってしまいますので、先述したDynamicsでこのノートのダイナミクスを0にしておきます。すると、“し”の語尾がスパッと切れた印象になったかと思います。つまり、歌詞とは関係無いノートを無音部分に挿入することによって、直前のノートのピッチカーブが急落するようになるのです。ノートの長さや分割、“-”ノートを応用することによって、イメージ通りの調声が可能ですので、皆さんもまねしてみてください。

柊キライからのアドバイス

柊キライ

どうしてその音を鳴らしているのか、その理由を説明できるようにするといい

 普段からいろいろな曲で使われているボーカルの、ピッチの動きやリズムに耳を傾け、“これをVOCALOIDで再現したら面白そう”というものを見つけてみるといいかなと思います。また、1つのメロディ・ラインから複数の表現が思いつくようにしておくのもいいかもしれません。そこから表現方法をディレクションし、さらに調声を磨き上げましょう。調声と同様に、作詞/作曲/編曲といった曲作りにおけるすべての工程も大切にしたほうがいいです。“どうしてその音を鳴らしているのか”、その理由をこじつけでもいいので説明できるようにするといいですね。また、常にほかの楽曲からアイディアや技術を吸収することも忘れないようにしておきましょう

柊キライ
【プロフィール】2019年に『ビイドロ』でデビューしたボカロP。同年に発表した『オートファジー』がヒットし、翌年公開の『ボッカデラベリタ』ではYouTubeにて1,000万回再生を達成。2020年以降、アーティストへの楽曲提供も精力的に行っている。

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