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はるまきごはんに学ぶ初音ミク V4Xのボーカル処理テクニック

はるまきごはんに学ぶ初音ミク V4Xのボーカル処理テクニック

ボカロPは、どのようにVOCALOIDなどの歌声合成ソフトを使いこなしているのか? 現役ボカロP7名がおすすめのテクニックを紹介。ここでは、はるまきごはんが調声テクニックを解説します。調声のビフォー/アフターを比較できる音源も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

ハイの抜けと透明感を持たせつつ耳に心地良い初音ミク V4X向けのボーカル処理

◎使用ソフト:
DAW:
STEINBERG Cubase Pro

エディター・ソフト:YAMAHA VOCALOID4 Editor for Cubase
音例に使用したボイス・ライブラリー:CRYPTON 初音ミク V4X

◎調声のビフォー/アフター:


Step❶ ボーカロイドの歌を作った後、必要になるのはオケとのミックスです。ここでは僕が普段、初音ミク V4Xの声に施している音作りを紹介します。ミックスのやり方はソース(もともとの音)のキャラクターによってさまざまなので、あくまで一例として参考にしてもらえるとうれしいです。

 まずは初音ミク V4Xの声をモノラルのオーディオに書き出し、それに対してピッチの補正を行います。ボカロだからピッチは元から正確と思われがちですが、よく聴くと微細なヨレがあるので、曲に合わせて気になる部分を補正します。使用プラグインはCELEMONY Melodyne AssistantやSTEINBERG Cubaseに付属のPitch Correct。前者はより自然な歌声にするための詳細な補正に使いますが、今回の音例ではシンプルな手段としてPitch Correctを用いています。Speedというパラメーター(スケールに合わせるまでの速さ)を70辺りまでにしておけば、ビブラートなどの部分がケロらずに済むと思います。

STEINBERG Pitch Correct

STEINBERG Pitch Correct

 このPitch Correctを通すとハイが落ちて少しこもった印象になるので、Pitch Correctを使う場合は、調声の際にハイの成分を多く含む設定にするのもよいと思います。自分は“BRE”や“CLE”などのパラメーターで、息成分を多く含んだハイの強い音作りをするので、以降の処理はそういったボーカルに対するものという前提で読みすすめてください。

Step❷ ボカロの声は、往々にして人の声よりも線が細く、子音がすごく強くて母音が弱かったり、ダイナミクスが独特だったりするので、コンプを深めにかけることで扱いやすくなると思います

 僕がよくやるのは“2段がけ”=2種類のコンプをかけるという手法です。最近は初段にSOFTUBE Tube-Tech CL 1B MKIIを使うことが多いです。これはTUBE-TECHのアナログ・コンプCL 1Bを再現したプラグインで、透明感を守りながら細い声を太くすることが可能です。こうした“味付け”にはアナログ・エミュレート系のコンプがマッチすると思います。プリセットはファスト・アタック&リリースでレシオ4:1のKK Lead Vocal。これを声に合わせて調整しつつ、-5~-3dBのゲイン・リダクションになるようかけています。

SOFTUBE Tube-Tech CL 1B MKII

SOFTUBE Tube-Tech CL 1B MKII

 その後段にはWAVES Renaissance Compressorを使用。あまり色付けが感じられないコンプなので、シンプルに音量をならす目的で挿しています。リダクションは-3~-2dBに収まる程度。この2段目のコンプは、かけなくてよいと思えば外してもよいと考えます。ソースによりけりです。

WAVES Renaissance Compressor

WAVES Renaissance Compressor

Step❸ コンプの次は、アナログEQを再現したプラグインをかけます。今回使ったのはWAVESのAPI 550B。ここでは3kHz辺りのハイミッドを切って、12.5kHz以上のハイエンドを持ち上げています。耳に痛いところを抑えつつ抜けは強化する、といったイメージでしょうか。API 550Bを使うのは、ブースト/カット共に音楽的なまとまりが得られるから。これがよく言われる“アナログ・エミュレート系ならではの温かみ”なのかもしれませんが、少なくとも無色透明に増減する感じの一般的なデジタルEQとは違うテイストが魅力です。

WAVES API 550B

WAVES API 550B

Step❹ EQに続いては、倍音を作り出すプラグインでハイエンドの抜けやきらびやかさをフォローします。その種のプラグインは、今回の音例では使っていないのですが、最近のお気に入りを紹介しておくとサチュレーター/トーン・コントローラーのTONE PROJECTS Kelvinが重宝しています。エンハンサー系のプリセットAiry Exciter [HL]をエディットして使うことが多く、10kHz辺りのサチュレーションを少し下げて、耳に痛くならないようにするのがポイントです

TONE PROJECTS Kelvin

TONE PROJECTS Kelvin

 倍音生成系のプラグインは、製品によってキャラクターがさまざまななので、KelvinのほかにもNOMAD FACTORY CosmosやWAVES Aphex Vintage Aural Exciterなど、曲の印象に合ったものを選んで使っています。例えばコーラスをあえて薄い音にしたいときは、シャリシャリした質感も得意なAphex Vintage Aural Exciterを選ぶような要領です。

Step❺ 倍音系プラグインの後段にはディエッサーを挿します。初音ミク V4Xの声には10kHz辺りに歯擦音(耳につくサ行の音)があるので、ディエッサーの後にプラグインEQのFABFILTER Pro-Q3を挿して、その周波数アナライザーを見ながら抑えるべき帯域を探ります。

 使用するディエッサーはWAVES DeEsser。歯擦音の抑え方が個人的に最もしっくりくるプラグインです。設定については、初音ミク V4Xにかける場合、10kHz辺りを-12~-6dBの範囲でリダクションすることが多く、それ以上リダクションすると不自然になりがち。先述の通り、僕は初音ミク V4Xの声をあらかじめ明るく作ることがあるので、こういったディエッシングが必要になるのかもしれません。効果のほどは、音例で確かめてみてください。

WAVES DeEsser

WAVES DeEsser

Step❻ 自分が調声した初音ミク V4Xの声の周波数的な特徴は、最も低い膨らみが300Hz周辺にあります。それ以下には特徴的な帯域が見受けられないので、オケの音数が多い楽曲であれば、150Hz辺りから下をPro-Q3で大胆にローカットすることが多いです。音数の少ないバラードであればその必要はないかもしれませんが、しっかりと切っておくとモワッとした成分を抑制できてクリアに聴こえます。

FABFILTER Pro-Q3

FABFILTER Pro-Q3

 その後、Cubase付属のDualFilterを使用。少し強引ですが、音例00:08辺りのロング・トーンにかけてみました。ローカットのカットオフ周波数をオートメーションで徐々に上げていくことで、声が自然に減衰していくような雰囲気を演出しました。こういう装飾系もしくは飛び道具系のプラグインはインサート・スロットの最後段に挿し、オートメーションで目的の個所のみにかかるよう設定しています。

STEINBERG DualFilter

STEINBERG DualFilter

Step❼ ここまではインサートでの音作りを見てきましたが、最後に空間系エフェクトのセンド&リターンでの処理についても紹介します。まずはリバーブ。一般的には残響成分のハイを抑えることが多いと思いますが、僕は“残響のローを抑えてハイを出す”といった処理をすることが多く、使用するアルゴリズムもボーカルでよく使われるであろうプレート系ではなくテイルの長いホール系が好みです。これを“オケ中で歌の残響がほのかに聴こえる”といった加減でかけるのが、はるまきごはん流(?)です。今回使ったプラグインは、1980年代発売のデジタル・リバーブLEXICON 480Lを範としたRELAB DEVELOPMENTのLX480 Completeです。

RELAB DEVELOPMENT LX480 Complete

RELAB DEVELOPMENT LX480 Complete

 リバーブと併用したディレイはVALHALLA DSP Valhalla Delay。ポイントはSTYLE(ディレイ音の響き方にバリエーションをつけるパラメーター)をDualに設定したところです。これによりディレイのこだまが左右へ広がり、中央定位の声にぶつからなくなります。かかり具合はリバーブよりも浅めですが、先のDualFilterをかけた部分などにオートメーションで深くかかるようにすると雰囲気が出ます。

VALHALLA DSP Valhalla Delay

VALHALLA DSP Valhalla Delay

はるまきごはんからのアドバイス

はるまきごはん

トレンドを追いかけるのではなく自分が好きなものを突き詰める

 本稿ではボーカル向けプリセットから始めるテクニックが中心となりましたが、初音ミクをはじめとするボカロの音作りは“歌の処理”という観念にとらわれず、“新種の楽器”と割り切って行うのがよいと思います(あくまで処理の話)。人に説教くさいことを言うのは苦手なのですが、ボカロPを目指す方は、はやりを気にせずに曲を作ってほしいです。トレンドを担うアーティストには、自分が好きで追求してきた音楽が時代の流れの中でトレンド化した部分もあると思うし、はやっているからといって好きじゃないものを作っても、心に響く作品はできないと思っています。自分が好きなものを突き詰めていくことが、自分は一番面白いです。

はるまきごはん
【プロフィール】札幌市出身のミュージシャン/イラストレーター/アニメーター。作詞/作編曲、イラスト、映像、アニメ制作などを手掛ける。2022年にゲーム・アプリ、アルバム、ライブを連動させた最新作『幻影シリーズ』を発表。スープ・カレーが好き。

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