ピノキオピーに学ぶ初音ミク V4Xの調声テクニック

ピノキオピーに学ぶ初音ミク V4Xの調声テクニック

ボカロPは、どのようにVOCALOIDなどの歌声合成ソフトを使いこなしているのか? 現役ボカロP7名がおすすめのテクニックを紹介。ここでは、ピノキオピーが調声テクニックを解説します。調声のビフォー/アフターを比較できる音源も掲載しているので、ぜひ参考にしてみてください。

テクニック 1:2つの声色を場面ごとに使い分けるクロスシンセシス・テクニック

◎使用ソフト:
DAW:PRESONUS Studio One 5
エディター・ソフト:YAMAHA VOCALOID4 Editor
音例に使用したボイス・ライブラリー:初音ミク V4X

◎調声のビフォー/アフター:


Step❶ 僕は初音ミク V4Xのボイス・ライブラリーのSoftとSolidを、曲の展開に応じて使い分けています。Softは柔らかい感じ、Solidは強めの声色なので、Aメロのようにそれほどテンションが高くないところではSoft、サビのように盛り上がる場面ではSolidで歌わせています。その際、両者をグラデーションのように徐々に入れ替えていける機能がクロスシンセシスです。最初はSoftの声だけで歌わせて、サビに向かって少しずつSolidを混ぜていくということができます。これを行うには、まずVOCALOID4 Editorでトラックを作成したら、シンガーとして“MIKU_V4X_Soft_EVEC/Solid_EVEC”を選びます。

Step❷ 次にコントロールパラメーターから“XSY/クロスシンセシス”を選びます。すると、画面下部にクロスシンセシスのコントロールパラメーターが表示されますが、その先頭部分を見ると、下側に“MIKU_V4X_Soft_EVEC”、上側に“MIKU_V4X_Solid_EVEC”と表示されていることが分かると思います。つまりオートメーションのグラフが上に行くほどSolidの声になります

Step❸ あとはコントロールパラメーターエリアの縦幅を入力しやすい大きさに調節して、曲の盛り上がりに応じたオートメーションを描いていきます。例えば、メロディが高い音に向かっていくようなときはSolidを多くして、逆に低い音に向かうときはSoftを多くするというようなイメージ。最も声を張っているような場面ではSolidだけにしたりという使い方です。逆に、曲全体のテンションが高いときはSolidを中心にして、Softを混ぜていくということもあります。クロスシンセシスで使うボイス・ライブラリーの組み合わせはユーザーが自由に組み合わせられるので、Solidを基本にして、Softを混ぜていくという設定も作れます。

テクニック 2:ベロシティで子音を短くして言葉を聴き取りやすくする

Step❶ 僕は歌詞を見なくても、歌だけで言葉が聴き取れるようにしたいと思っています。そのためのテクニックとして、子音を短くしてアタック感を強め、歌詞を聴き取りやすくします。この子音の長さを調節するパラメーターがベロシティです。VOCALOID4 EditorのベロシティはMIDIとは異なり、音の大きさではなく、子音の長さが変わるのです。手順としては、まずコントロールパラメーターの中から“VEL”を選ぶと、画面下部に棒グラフが表示されます。このとき、デフォルトでは同じ高さの棒グラフが並んでいます。

Step❷ この棒グラフの高さがベロシティの値を表しているのですが、棒グラフを低くすると子音が長くなり、高くすると子音が短くなるので、歌詞やメロディに合わせて、言葉が聴き取りやすくなるように調節していきます。特に、か行やた行、ぱ行などの破裂音はベロシティを上げ、子音を短くして歯切れよくすることが多いです。逆に繊細な感じを出したいときや、小さな声のニュアンスを出したいときは、ベロシティを下げて子音を長くします。特にフレーズの頭の部分や最後の部分で、そうすることが多いですね。ですから、1つのフレーズの固まりのベロシティは、低いところから始まって、高くなり、また低くなるという山を描いているような感じになります

ピノキオピーからのアドバイス

ピノキオピー

初音ミク V4Xに付属する“ブレス”を必ず入れるようにしています

 僕はボーカロイドの歌わせ方としては、人間らしくというよりも、平たんなくらいのほうが好きなんです。せっかくボーカロイドを使っているので、その感じは残っていたほうがいいかなと思っていて

 でも、ブレスは必ず入れるようにしています。“ブレス”は息継ぎの音のことで、初音ミク V4Xには5種類のブレスのオーディオ・ファイルがボイス・ライブラリーごとに付属していますので、それをDAW上でフレーズの冒頭などに配置して、曲に合わせてタイム・ストレッチでブレスのオーディオ・ファイルの長さを調整しています。すごく地味なテクニックですが、これは初音ミクらしさを残しつつ、歯切れ良くするのに効果的です。

ピノキオピー
【プロフィール】2009年に動画共有サイトにてボーカロイドを用いた楽曲を発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、イラストやMVの制作、他アーティストへの楽曲提供など多方面で活動している。

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