NORD Nord Piano 5 88 〜堀江博久と櫻打泰平が徹底試奏|ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー

Nord Piano 5 88 〜堀江博久と櫻打泰平が徹底試奏|ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー

ライブにおいてキーボーディストが核に据える鍵盤楽器は、88鍵盤のステージ・ピアノ/キーボードが多く、それを軸に、オルガン専用機やシンセなど、複数台並べるスタイルがよく見受けられる。場合によってはステージ・ピアノ/キーボード1台のみで臨むこともあるが、最近のモデルは、どんなシチュエーションにおいても、十分対応し得る機能を備えたものになっている。今回は、そんな最新のステージ・ピアノ/キーボード4台を堀江博久と櫻打泰平がクロス・レビュー。各キーボードの弾き心地や音色、機能面について、実際に使用する場面を想定してコメントをしてもらったので、ぜひ導入の指針としていただきたい。

2つのピアノ音源とサンプル・シンセ音源でさらに進化したシリーズ最新機

 Nord Pianoシリーズの最新機種。独立した2つのピアノ音源と2つのサンプル・シンセ音源を搭載し、前機種の2倍のメモリー容量となった本機は、トリプル・センサー装備の鍵盤と新搭載されたバーチャル・ハンマー・アクション・テクノロジーにより、弾き心地がより実際のピアノに近づくよう調整されている。内蔵ピアノ音源は、9種のグランド・ピアノ、9種のアップライト・ピアノ、10種のエレクトリック・ピアノを搭載。新設計のサンプル・シンセ・セクションには管楽器やストリングス、ベース、ギター、アナログ・リードなどが追加された。専用ソフトのNord Sound Managerを使えば、NORDのWebサイト上に用意された音色をダウンロードすることも可能。同一機能の73鍵モデルもラインナップ。

オープン・プライス(市場予想価格:528,000円前後)

【Top】中央のプログラム画面を挟んで左にピアノとサンプル・シンセの音源セクション、右にエフェクト・セクションを分かりやすく配置。ソフト・ペダル、ソステヌート・ペダルも装備したサステイン・ペダル=Nord Triple Pedalも同梱する。

【Top】中央のプログラム画面を挟んで左にピアノとサンプル・シンセの音源セクション、右にエフェクト・セクションを分かりやすく配置。ソフト・ペダル、ソステヌート・ペダルも装備したサステイン・ペダル=Nord Triple Pedalも同梱する。

【Rear】右からヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、オーディオ出力L/R(フォーン)、モニター入力(ステレオ・ミニ)、MIDI IN/OUT、USB(Type-B)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、コントロール・ペダル入力(TRSフォーン)

【Rear】右からヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)、オーディオ出力L/R(フォーン)、モニター入力(ステレオ・ミニ)、MIDI IN/OUT、USB(Type-B)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、コントロール・ペダル入力(TRSフォーン)

プログラム・セクション

プログラム・セクション

 完全に独立した2系統のピアノ・セクションと2系統のサンプル・シンセ・セクションを搭載。それぞれをスプリット、あるいはレイヤー設定することで同時使用が可能となっており、分かりやすいインターフェースと自由度の高いエフェクト・ルーティングにより、求める音色を素早く作り出すことができる。

ピアノ・セクション

ピアノ・セクション

 ピアノ・セクションは同時発音数120音で、9種のグランド・ピアノ、9種のアップライト・ピアノ、10種のエレクトリック・ピアノのほか、クラビ音色、デジタル・ピアノ、マリンバ、ビブラフォンを収録。NORDのWebサイト上に用意されたNord Piano Libraryから音色を入手することも可能だ。

サンプル・シンセ・セクション

サンプル・シンセ・セクション

 サンプル・シンセ・セクションはメモリーが前モデルの512MBから1GBに拡張された。ソロの管楽器やストリングス、ベース、ギターのほか、シンセ・リードやベースなど、幅広いサウンドを収録しており、新機能のユニゾンでは、幾つかのサンプルを重ねたような、アンサンブル音色を生成できる。

エフェクト・セクション

エフェクト・セクション

 ピアノ/サンプル・シンセの各セクションのいずれのレイヤーにも自由にアサインできるエフェクト・セクション。幅広い種類は前機種から踏襲されているが、リバーブはBOOTHとCATHが加わり5種類に。高音域を強調または低減するBRIGHT/DARKという2つのモードも搭載された。

SPECIFICATIONS
■同時発音数:120音(ピアノ・セクション)、40音以上(サンプル・シンセ・セクション) ■サイズ:1,287(W)×120(H)×342(D)mm ■重量:18.5kg ■付属品:Nord Triple Pedal

ライブから制作まで幅広くインスピレーションを与える一台 〜堀江博久

堀江博久

 Nord Piano 5は、ピアノ音源とサンプル・シンセ音源をそれぞれ2系統ずつ選ぶことができるので、合計4つの音色を同時アサイン可能なんですね。僕はライブにおいて、音色の作り込みもすごくしますが、スプリットやレイヤーの機能を使って、1つの鍵盤で同時に複数の音を演奏することもよくやっているんです。なので、今このNord Piano 5を試奏しているときに、ピアノ・セクションでピアノとRHODES、そしてサンプル・セクションでストリングスとパッドをアサインして演奏してみたんですけど、その操作性も分かりやすく、レイヤーさせながら音作りをしていくのも楽しくて入り込んでしまいました。各セクションの音色やそれらによるスプリットなどのセットを曲ごとにプリセットとして保存して、呼び出して使うことができるLive Modeも便利です。僕がこれまでやってきたことがそのまま実現可能なので、すぐにでもライブやレコーディングで活躍できると思います。

 ピアノ音色の音作りで良いと思ったのは、“ピアノ・フィルター”です。音色を演奏する曲のアンサンブルにうまくなじませるために、BRIGHTにしたりSOFTにしたり、曲ごとに選ぶことですぐに音色のニュアンスを変えることができ、これはNORDの昔の機種から同等の機能がありますが、本機でも踏襲されていて良いですね。また、僕はリバーブを外部エフェクターに出してかけることが多いのですが、Nord Piano 5の内蔵リバーブは種類も多いですし、BRIGHT/DARKモードのかかり具合は好印象でした。特にピアノで作りたい音色のイメージがしやすく、実際のステージでも使ってみたいと思いましたね。中でも“CATH(カテドラル)”の響き方が良くて、アンビエントやインスト系のピアノ曲に合うんじゃないでしょうか。あとは、AMP/COMPセクションのひずみ系は、3つのアンプから種類を選べますし、効きがすごく良くてびっくりしました。昔のキーボードは、内蔵エフェクトがちょっとデジタルっぽくてプリセット音色となじみにくい印象だったのですが、今は音色も進化していますし、それとのなじみ具合は素晴らしいですね。ライブでは、できるだけコンパクトなシステムで動かないといけないときがあるので、内蔵エフェクトの進化は、そういったときにもありがたいです。

音色によくなじむひずみを得られるAMP/COMPセクション

音色によくなじむひずみを得られるAMP/COMPセクション

 まずはピアノ音色に引き込まれて演奏を楽しむことができましたし、サンプル・セクションでそのほかの音もカバーしており、音作りの楽しさもありましたね。ライブで弾く際も、創作をする際も、音色からインスピレーションを受けて臨むことはとても多いので、ライブから制作まで、幅広く活躍する1台だと思います。

バンド・サウンドの中で負けないパワーのある音を出せる 〜櫻打泰平

櫻打泰平

 まず弾いてみて感じたのは、打鍵してから聴こえる音がダイレクトで気持ち良かったことです。指回りの良い鍵盤タッチで弾きやすく、その鍵盤タッチは、ダイナミック・カーブを3種類(MID/LIGHT/HEAVY)から選ぶことができ、効きが良くてびっくりしました。ピアノやRHODESはHEAVYにすると、より実機に近いニュアンスで弾けましたね。

 音色自体もバンドに負けない、パワーがある音をしていると思いました。特にピアノのプリセットは繊細なタッチでもしっかり芯のある音なので、恐らくサンプリングしている時点で、良い意味でコンプをかけているのかもしれませんね。位相の感じもとてもスムーズで奇麗です。プリセットが厳選されている分、どのサウンドもキャラクターがあり、特にRHODESの音は、僕はこれまで実機を何台も所有してきたんですけど、この年代のあの個体、というのが分かるくらいポイントを押さえたプリセットになっていました。そしてサンプル・セクションの音色も、おまけということはなく、各種ライブ時に必要になる音色はそろっていますね。しかも、これらをそれぞれ2系統ずつアサインできるということで、僕は普段はレイヤーなどの機能を使うことはしていないのですが、今、ピアノとシンセをレイヤーした音を弾いてみたら、これは結構使えるな!と思っちゃいました。しかも音色はダウンロードして入れ替え可能というのも便利ですね。

 僕はこれまでキーボードの内蔵エフェクトに関しては信用してきていなかったんですけど……今回使ってみたら、どんどんインスピレーションが湧くサウンドになっていくんですよ。これには驚きました。演奏者が欲しい音が分かっているというか、つまみ一つでイメージした音にできる。例えば、僕は普段、鍵盤をモノ・アウトでテープ・エコーのコンパクト・エフェクターに入力して、そこでステレオ感を調整していたのですが、Nord Piano 5でも同じことができてしまいましたね。あとリバーブは深くかけても位相が悪くならないし、音像も遠くならず、存在感はしっかり維持されたので、さすが技術の進歩はすごいと感じました。こういった音作りがしやすいと、演奏にも影響しますし、創作においてもアイディアが湧いてくると思いますね。

内蔵リバーブのサウンドはBRIGHTとDARKの2種類を用意

内蔵リバーブのサウンドはBRIGHTとDARKの2種類を用意

 僕はライブ時に、鍵盤の存在感を出すために結構音作りをして戦っていることが多いんですけど(笑)、Nord Piano 5は、デフォルトでバンド・サウンドの中で存在感を出せると思いました。今サポートしているSTUTSくんのバンドはいろいろなサウンドが鳴っているんですけど、これなら負けないサウンドで戦えそうですね。

Reviewer

堀江博久
櫻打泰平

堀江博久
鍵盤弾き。国内外問わずさまざまなアーティストとのセッションを行い、一方で、自身が曲を書き、歌うNEIL AND IRAIZAを1995年に結成。並行して、SINGER SONGER、pupa、the HIATUSなどのバンド活動も行ってきた。2013年自身のソロ活動としてアルバム『At Grand Gallery』を発表したほか、近年は、Cornelius、LOSALIOS、高橋幸宏、GREAT3、Curly Giraffeなどでプレイ。キーボーディストとしてだけでなく、プロデューサー、アレンジャーとしてアーティストからの絶大な支持を得ている。

櫻打泰平
1992年7月4日 富山県氷見市生まれ。Suchmosの鍵盤奏者。2013年から2018年までSANABAGUN.に在籍。クラシック音楽のみならずロック、ジャズ、R&B、ヒップホップなどの幅広い音楽に習熟している。現在、自身がリーダーを務め、2021年より活動を開始した鍵盤、トランペット、ウッド・ベースからなるドラムレス・バンド“賽(SAI)”に加え、劇伴音楽の作編曲(Disney+、NHK合同制作ドラマ「拾われた男」)のほか、STUTS、Rei、七尾旅人などのアーティスト・サポートなど、幅広い分野にて活動中。

動画でサウンドをチェック!

 本企画は、YouTubeチャンネル「キーマガTV!」連動企画です。公開中の「キーマガTV! Vol.14」ではNORD Nord GrandとNord Piano 5 88を使用した堀江博久と櫻打泰平のセッションをお楽しみいただけます。

製品情報

【特集】ステージ・ピアノ&キーボード4製品クロス・レビュー