ライブにおいてキーボーディストが核に据える鍵盤楽器は、88鍵盤のステージ・ピアノ/キーボードが多く、それを軸に、オルガン専用機やシンセなど、複数台並べるスタイルがよく見受けられる。場合によってはステージ・ピアノ/キーボード1台のみで臨むこともあるが、最近のモデルは、どんなシチュエーションにおいても、十分対応し得る機能を備えたものになっている。今回は、そんな最新のステージ・ピアノ/キーボード4台を堀江博久と櫻打泰平がクロス・レビュー。各キーボードの弾き心地や音色、機能面について、実際に使用する場面を想定してコメントをしてもらったので、ぜひ導入の指針としていただきたい。
新搭載の鍵盤と分かりやすいインターフェースで高い演奏性を実現
NORDのステージ・ピアノのラインナップの中で、ほかのモデルとは一線を画す独特のフォルムをまとったNord Grand。新搭載されたGrand Hammer Action鍵盤には、トリプル・センサーが備わっており、打鍵時のハンマーの感触や鍵盤の動きを確実に捉えてスムーズでダイナミックな演奏感を得ることができるという。また、ライブ・ステージでの操作性や機能面も充実しており、ストリングスやブラス、シンセなど幅広い音色を収録したサンプル・セクションと高品位なステレオ・エフェクトを搭載。NORD製品に共通する分かりやすいインターフェースや軽量設計は踏襲しながら、より高い演奏性を追求した一台だ。専用ソフトのNord Sound Managerを使って、新たな音色をNORDのWebサイトから入手することもできる。
オープン・プライス(市場予想価格:528,000円前後)
ピアノ・セクション
10種のグランド・ピアノ、9種のアップライト・ピアノ、10種のエレクトリック・ピアノ、クラビネット、デジタル・ピアノを選べるピアノ・セクション。ピアノ弦の共鳴や専用ピアノ・フィルター、3種類のベロシティ・カーブ、ペダルなど、ピアノのよりリアルな演奏性を実現するための機能が集約されている。
サンプル・シンセ・セクション
ストリングス、ブラス、シンセ、クワイアなど、多彩な音色をメモリー容量512MBで内蔵したサンプル・シンセ・セクション。アタックやディケイ、リリースなど、基本的なエディットも行うことができる。またNORDのWebサイト上に用意されたNord Sample Library 3.0から音色をダウンロードすることも可能。
エフェクト・セクション
エフェクトはEFFECTS 1、EFFECTS 2(写真)、DELAY、EQUALIZER、AMP/COMP、REVERBの各セクションに分かりやすく分類。コントロール・ペダルへのアサインや、タップ・テンポによるディレイ・タイムも設定できる。ピアノ/サンプルの各セクションに対して独立してかけることが可能となっている。
スプリット/レイヤー機能
スプリットやレイヤーなど、ライブ・ステージに役立つ機能が充実しており、専用のノブ、ボタンで即座に対応可能。スプリット・ポイントはLEDで表示されるので視認しやすく、切り替わりポイント周辺でクロスフェードさせられる。音色を含めたこれらの設定は、ライブモードとして、5プログラムを保存しておくことができる。
SPECIFICATIONS
■同時発音数:120音(ピアノ・セクション)、46音(サンプル・シンセ・セクション) ■サイズ:1,286(W)×168(H)×387(D)mm ■重量:20.9kg ■付属品:Nord Triple Pedal
鍵盤タッチと出音のスムーズさで夢中になれる1台 〜堀江博久
僕のNORDの機材遍歴は、初めて手にしたのがNord Rackで、その後Nord Electro、2008年からNord Stageを使っています。ピアノ、エレピ、オルガン、シンセ音色など、ライブで重宝していますね。このNord Grandは僕が持っているNord Stageよりも進化した機種ですが、まず何も考えずに演奏してみた印象は、触った瞬間に夢中になれた、ということです。どんな楽器でも触ったときに“あ、夢中になれるな”という感覚があると、もっと弾いていたくなるし、純粋に楽しいですよね。Nord Grandは鍵盤タッチから出音までの感覚がしっくりきて、それが要因かもしれません。あとこの操作パネルが斜めになっているのは、触ってみて使いやすいなと思いました。目線が鍵盤を弾いている手の延長線上に行くので、覗き込むこともなく見えるし、より演奏に集中できるんじゃないでしょうか。この平らなトップ・パネルも、小型のシンセやコンパクト・エフェクターなどを置いて使えば演奏や音色の幅が広がりそうですね。
Nord Grandの鍵盤タッチは、“グランド・ピアノ”の演奏感により近づけるために、鍵盤やハンマーの感触などの機能面を強化しているということで、実際にファクトリー・バンクのグランド・ピアノ音色を弾いてみたらすごくしっくりきました。NORDは僕が持っているNord Stageもそうですが、NORDのWebサイト上のNord Piano Libraryから、好みのピアノ音源を無償で入れ替えられるのもポイントだと思います。エレピ音色に関しては、僕はRHODESやWURLITZERの実機を持っていて、レコーディングやライブでよく使っているんですけど、Nord Grandのエレピ音色も弾いていてしっくりきましたね。エレピは、エフェクターでの音作りにすごく時間をかけるのですが、Nord Grandはエフェクト・セクションが独立していて操作しやすいです。RHODESにフェイザーやフランジャーを、WURLITZERにはトレモロをかけてみましたが、そのかかり方も素晴らしいです。そして3バンドEQで、バンド・アンサンブルの中でも音のヌケ具合を調整できるので、このエフェクト・セクションは音色作りの要として重宝するでしょうね。コンパクト・エフェクターなど、外部に出すこともありますが、内蔵エフェクターでここまで音作りができるのは、いろいろなキーボーディストにとってありがたいと思います。
Nord Grandは、何より弾いていて夢中になれるステージ・ピアノでした。鍵盤を弾いたときに伝わる音色のニュアンスは、グランド・ピアノもエレピもとても自然でしたし、エフェクトによる音作りもしやすい。ステージでしっかり存在感を出せる一台だと思います。
高い表現力と存在感ある音色で即戦力として活躍 〜櫻打泰平
まずはこのデザインと鍵盤タッチから、自分にすごくなじみのある印象を受けました。僕は子供のころから生のピアノをずっと弾いてきたので、その感覚に近かったというか。プロになってからは、レコーディング・スタジオやライブでいろいろなピアノを弾いてきたのですが、ピアノ・セクションのKBD TOUCHで“HEAVY”にしたらあのスタジオのBÖSENDORFERに近いなとか、“MID”はあのSTEINWAYの感じだったなとか、“LIGHT”はバーで出会ったあのアップライト・ピアノみたいだな、など、僕がこれまで弾いたことのあるピアノの記憶が呼び起こされ、そういうキャラクターに変えられるのはすごく良かったです。鍵盤タッチもベロシティの段階がとてもスムーズな印象で、自分がこう演奏したいというニュアンスにきちんと応えてくれる。幅広い表現力にしっかり対応できる鍵盤ですね。あと、3つのペダルを搭載したNord Triple Pedalが同梱されているとのことで、より本物のグランド・ピアノをほうふつとさせてくれました。
音作りという点で、エフェクト・セクションは重宝すると思います。RHODESの素の音色は、年代、モデルごとに押さえるべき音色が入っていましたが、それをさらに拡張させるには、エフェクトは欠かせないですしね。操作もしやすいし、効きも良い。タップ・テンポ搭載のディレイでミニマルっぽいフレーズを演奏してみましたが、楽しくて没入してしまいましたね。もちろんピアノにも、サンプル・シンセ・セクションの音色にもそれぞれ独立してかけることができるので、僕のように、外部エフェクターをよく使うキーボーディストでも、内蔵エフェクトだけで音作りをすごく楽しむことができる。この内蔵エフェクトの技術の進化は素晴らしいですね。
僕はこれまでNORDの製品を所有したことがなかったのですが、今回、予備知識なく触ってみても、ピアノ・セクションのピアノやRHODESなどの音色の微妙なニュアンス設定から、サンプル・シンセ・セクションのエディット、エフェクト・セクションによる音作りまで、説明書を読まずとも簡単に行うことができました。当然、ライブ中に説明書を読む余裕はないので、ステージ・ピアノをとっさに操作する際に、Nord Grandのような分かりやすさはとてもありがたいです。パネルが斜めになっているのも操作しやすく、トップ・パネルにも機材を置けるのもメリットですよね。存在感もありながら、見た目以上に軽量化が図られているので、僕が今後行うライブ・ステージに導入すれば即戦力で活躍する1台だと思いました。
Reviewer
堀江博久
鍵盤弾き。国内外問わずさまざまなアーティストとのセッションを行い、一方で、自身が曲を書き、歌うNEIL AND IRAIZAを1995年に結成。並行して、SINGER SONGER、pupa、the HIATUSなどのバンド活動も行ってきた。2013年自身のソロ活動としてアルバム『At Grand Gallery』を発表したほか、近年は、Cornelius、LOSALIOS、高橋幸宏、GREAT3、Curly Giraffeなどでプレイ。キーボーディストとしてだけでなく、プロデューサー、アレンジャーとしてアーティストからの絶大な支持を得ている。
櫻打泰平
1992年7月4日 富山県氷見市生まれ。Suchmosの鍵盤奏者。2013年から2018年までSANABAGUN.に在籍。クラシック音楽のみならずロック、ジャズ、R&B、ヒップホップなどの幅広い音楽に習熟している。現在、自身がリーダーを務め、2021年より活動を開始した鍵盤、トランペット、ウッド・ベースからなるドラムレス・バンド“賽(SAI)”に加え、劇伴音楽の作編曲(Disney+、NHK合同制作ドラマ「拾われた男」)のほか、STUTS、Rei、七尾旅人などのアーティスト・サポートなど、幅広い分野にて活動中。
動画でサウンドをチェック!
本企画は、YouTubeチャンネル「キーマガTV!」連動企画です。公開中の「キーマガTV! Vol.14」ではNORD Nord GrandとNord Piano 5 88を使用した堀江博久と櫻打泰平のセッションをお楽しみいただけます。
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