UVI Falcon(v2.8)|2020年代生まれのソフト・シンセ12モデルを徹底レビュー

さまざまなメーカーから日々新しい製品が誕生しているソフト・シンセ。しかし数の多さから、まだ十分にその魅力を知られていない製品もしばしば。そこで本企画では、2020年代以降にリリースされたソフト・シンセ12モデルを、シンセに造詣が深い、毛蟹(LIVE LAB.)、Naive Super、林田涼太、深澤秀行の4名が紹介。ここでは、UVI Falcon(v2.8)を毛蟹(LIVE LAB.)がレビューします。

膨大な機能を有するハイブリッド・シンセ

UVI Falcon(v2.8)|価格:42,000円(349ドル)

UVI Falcon(v2.8)|価格:42,000円(349ドル)

Requirements
●Mac:macOS 10.14以降
●Windows:Windows 10以降
●共通項目:iLokアカウント
●対応フォーマット:AAX/AU/VST/VST3/スタンドアローン

概要

 メーカー・サイトに“無限の可能性を持つ”とあるように、17のオシレーターに100以上のエフェクト、モジュレーションを組み合わせ、どこまでも深く、どんなアイディアにでも対応する、UVIのフラッグシップとも言えるハイブリッド・シンセがFalconです。今回は2022年秋にアップデートされたバージョン2.8を中心に検証していきます。

収録された音色のバリエーション

 バージョン2.8では後述する新機能を駆使した“Organic Texture 2.8”というプリセット集が追加されました。アルペジオ、ベース、ベル、パッド、プラック、シーケンスなどなど、一通りのサウンドが追加……と言うものの、そもそものプリセットが1,500以上という膨大さ。膨大なサウンド・ライブラリーを旅するだけでも、想像力が大いに刺激されます。

キャラクター

 あらゆるサウンド・キャラクターを構築可能、と言えるほど複雑にレイヤー可能。その複雑さは、加算、バーチャル・アナログ、FMなどのオシレーターを、種類と数の制限なく組み合わせられる、エンベロープやLFOなどのモジュレーションをFalcon上のほぼすべてのパラメーターに割り当てられる、というほどです。筆者の好みで言うと、楽曲のメインとなる強烈なサウンドではなく、アルペジオやアンビエンスなど、“ほかの楽器の後ろに忍ばせるようなサウンド”としての使用にも魅力を感じます。複雑にレイヤーされたサウンドが裏にあることによって、表の楽器が立ち楽曲の世界観に深みを与えるのです。

操作性

 Falconには、プリセットのカテゴリーによって専用のGUIが搭載されています。新たに加わった“Organic Texture 2.8”は、シンプルで明るいデザインとなっていて、トーンの調節は大きな“texture”と“timbre”という2つのノブに機能を集約。エンベロープのa(attack)、d(decay)、s(sustain)、r(release)のほかはモジュレーション・ホイールの設定がある、非常にシンプルな画面なので、誰でも簡単に操作できるでしょう。タブを切り替えれば細かな設定も可能なので、プリセットから音を作り込んでいくこともできます。

▼シンプルな操作性のOrganic Texture 2.8

プリセットのOrganic Texture 2.8は、音色調節を主に2つのノブに集約し、簡単に加工可能。より作り込みたい場合は、メイン画面上部にある“EDIT”などのタブを選ぶことで画面が切り替わる

プリセットのOrganic Texture 2.8は、音色調節を主に2つのノブに集約し、簡単に加工可能。より作り込みたい場合は、メイン画面上部にある“EDIT”などのタブを選ぶことで画面が切り替わる

オシレーター

 “Texture”という新たなオシレーターがバージョン2.8から登場。あらかじめ用意されているサンプル、または自分で用意したサンプルを2つまで読み込めます。2つをミックス、または個別でも使用でき、ピッチ、再生位置の調節、逆再生、フィルターなどを備え、好みのサウンドを強化する心強い存在です。

▼サンプルから新たな音を生成するTexture

オシレーターのTexture。数百種類を収録する内蔵サンプル、または自分で用意したオーディオ素材を読み込ませ、画面上のパラメーターで音を作る。2つのサンプル/オーディオ素材を読み込んで、両者のミックス度合いを調節可能

オシレーターのTexture。数百種類を収録する内蔵サンプル、または自分で用意したオーディオ素材を読み込ませ、画面上のパラメーターで音を作る。2つのサンプル/オーディオ素材を読み込んで、両者のミックス度合いを調節可能

フィルター/エンベロープ/その他、モジュレーション

 エフェクトも、グラニュラー、ピッチ・シフター、コンプ、ディレイといった7種類が追加されました。ディレイは単体製品としても発売されている“Dual Delay X”に加え、“Diffuse Delay”“Velvet Delay”という2つのアンビエンス感が好印象。搭載エフェクト数の合計は100を超え、それだけでも驚異的です。

独自の機能/特徴

 新たなシーケンサーやスクリプトもたくさん加わっています。“伝統的なビデオゲーム・アルペジオ・サウンドを生成する”という“Chip Arp”をベル系のサウンドで鳴らしてみると、すぐさま“あのパワーアップ音”が。こういう遊び心も楽しいです。モジュレーション・ホイールを使って弦楽器をかき鳴らす効果を再現する“Strum Wheel”など、実用的なものも収録しています。

総評

 もともと膨大で強力、かつ破格であったハイブリッド・シンセサイザー、Falcon。アップデートされたバージョン2.8は、拡張を飛び越えて生まれ変わりといっても過言ではないと思います。バージョン・アップを繰り返すたびに生まれ変わるFalconの、この先の進化にもぜひ期待したいです。

 

毛蟹(LIVE LAB.)
LIVE LAB.所属の作曲/編曲/作詞家。ReoNaなどさまざまなアーティストへ楽曲提供を行うほか、スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』のCMソングやBGMにも参加する。

製品情報

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