さまざまなメーカーから日々新しい製品が誕生しているソフト・シンセ。しかし数の多さから、まだ十分にその魅力を知られていない製品もしばしば。そこで本企画では、2020年代以降にリリースされたソフト・シンセ12モデルを、シンセに造詣が深い、毛蟹(LIVE LAB.)、Naive Super、林田涼太、深澤秀行の4名が紹介。ここでは、SOFTUBE Statement Leadを毛蟹(LIVE LAB.)がレビューします。
優れた操作性と即戦力のサウンド
Requirements
●Mac:macOS 11以降
●Windows:Windows 10/11
●共通項目:64ビット、iLokアカウント
●対応フォーマット:AAX/AU/VST/VST3
概要
その名の通り、現代~新しい時代の音楽のためのリード・シンセ。ソース・セクションにて2つの波形をレイヤーして音作りを行い、3種類のフィルターやモジュレーション・シーケンサー、そしてSOFTUBEが最も得意とするであろうエフェクトを備え、洗練されたGUIで新しいサウンドを創出できます。
収録された音色のバリエーション
派手で明るめのサウンドが多い印象です。“Lead”と銘打ってはいるものの、ポリフォニックなプリセットも多く、パッドやシーケンス系も非常に質が高く、即戦力だと思います。流行の80's、90'sフィーリングを持つ歌もの、エレクトロやトランスはもちろん、ポップスやロックに個性的な1トラックを追加するなど、オールジャンルに対応してくれるでしょう。
キャラクター
ソース・セクションに割り当てられる波形は90種類。2つをレイヤーして組み合わせるため、非常に音作りの幅が広いです。またレイヤーせず単体でも十分な太さがあり、扱いやすいエフェクトと合わせて強烈なサウンドが作れます。
▼2つの波形を組み合わせるソース・セクション
操作性
GUIの良さは、Statement Leadの特筆すべき項目かもしれません。ソースの選びやすさ、ミキサーの扱いやすさ、フィルター、シーケンス部の視認性の良さ。各セクションの主要なパラメーターを幾つかの大きなノブとしてまとめる潔さもあり、優秀かつ容易な操作性で、音の変化をすぐに実感できます。“一から音を作ってみたい”というシンセ入門者の方が、初めての一歩としてチョイスするのも良いと思います。
オシレーター
先述の通り、90種類の波形=サウンドをソース・セクションにて組み合わせて音を生成。この90種類の波形は、希少なビンテージ・シンセから録音/処理されたものを使用しているとのこと。アナログ系、デジタル系の計11種類のカテゴリーに分かれています。A/Bからなる2つのソースのうち、Bに対してのみDetuneやオクターブのUp/Downがかけられる仕様です。また、“ANALOG DIRT”というセクションが組み込まれており、アナログの質感やノイズを足すことが可能。“Tape Recorder”“TV Screen”などから種類を選べ、フィルター経由か直接アウトプットか出力先を選択できるようになっており、味付けとして効果を発揮してくれます。
フィルター/エンベロープ/その他、モジュレーション
フィルターは画面中央上部にディスプレイのように表示され、リアルタイムでフィルターの動きを視認できます。フィルターのタイプ、エンベロープやレゾナンスまですべて反映されるので、とても分かりやすいです。フィルターの種類自体はローパスのみとなっていますが、この“分かりやすさ”に絞った設計は、“楽器を触り、音を作る楽しみ”を思い出させてくれますね。
▼直感的に扱えるフィルター・セクション
独自の機能/特徴
SOFTUBEと言えば、やはりプラグイン・エフェクトも有名です。Statement Leadにも、DRIVE(ドライブ)、REVERB(リバーブ)、DELAY(ディレイ)、MULTIBAND(マルチバンド・コンプ)、SPATIALIZATION(モノ・メーカー/ステレオ・イメージャー)の5種類のエフェクトが搭載されています。これらも手軽なワンノブ操作、視認性が高い画面表示などよくまとめられていて扱いが簡単です。特にMULTIBANDやSPATIALIZATIONは、あまりにも気持ち良いかかり具合なので、かけ過ぎには注意。さすがSOFTUBEというクオリティです。
総評
自由度はもちろん大事ですが、自由すぎても(特に初心者であればあるほど)何から手を付けていいか分からなくなってしまいますよね。Statement Leadは、“新たな”シンセシストが最初に発する“声”として、最適なものであるように感じました。何よりも、触って、鳴らして、音を変えるのが楽しいソフト・シンセというのは、それだけで貴重な存在です。
毛蟹(LIVE LAB.)
LIVE LAB.所属の作曲/編曲/作詞家。ReoNaなどさまざまなアーティストへ楽曲提供を行うほか、スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』のCMソングやBGMにも参加する。