ROB PAPEN Blue III|2020年代生まれのソフト・シンセ12モデルを徹底レビュー

さまざまなメーカーから日々新しい製品が誕生しているソフト・シンセ。しかし数の多さから、まだ十分にその魅力を知られていない製品もしばしば。そこで本企画では、2020年代以降にリリースされたソフト・シンセ12モデルを、シンセに造詣が深い、毛蟹(LIVE LAB.)、Naive Super、林田涼太、深澤秀行の4名が紹介。ここでは、ROB PAPEN Blue IIIを深澤秀行がレビューします。

個性的な音色を備えるクロスフュージョン・シンセシス

ROB PAPEN Blue III|価格:14,960円 ※Blue、Blue II からのバージョンアップ版/4,950円

ROB PAPEN Blue III|価格:14,960円 ※Blue、Blue II からのバージョンアップ版/4,950円

Requirements
●Mac:macOS 10.13以降、M1 ARMプロセッサー対応
●Windows:Windows 7以降
共通項目:1,440×900以上のディスプレイ解像度、NKS対応
●対応フォーマット:AAX/AU/VST/VST3(WindowsではAAXは64ビットのみ)

概要

 FMシンセシスとサブトラクティブ・シンセシス(減算合成)を組み合わせたクロスフュージョン・シンセシスは、今となっては珍しくありませんが、Blueシリーズでできる音作りの幅は増すばかり。IIIにバージョン・アップしたことで、新たな波形だけでなく、フィルター・タイプやエフェクトも追加されました。中でもKarplus Strong Stringのモデリングが搭載されたのは、アップデートの大きな魅力の一つでしょう。

収録された音色のバリエーション

 5,000以上の作り込まれたプリセットが、カテゴライズされて“MANAGER”ページに集約されています。筆者が愛用してきた前モデルのBlue I やBlue IIのプリセットも確認できました。これらは順番に試奏していくだけで“一体どうやって作っているのか?”と驚嘆するばかりです。

キャラクター

 圧倒的にクリアな出音は、IやIIの頃から一貫して素晴らしいです。ほかのシンセシスに比べ中高域の解像度が高いということは、Blueシリーズがいかに細かな倍音をシンセサイズすることに長けているかを示す本質でもあります。

操作性

 前バージョンからGUIがリニューアルされ視認性が向上し、必要な情報へと簡単にアクセス可能です。ダイアルやフェーダーもXYパッドでアニメーション表示されているので、複雑になりがちなシンセシスを俯瞰(ふかん)できます。そしてBlue Ⅲでは、サンプルをオシレーター波形として扱えるようになりました。最大6つまでサンプル音源を読み込み可能で、“SAMPLES”ページでオーディオ・データの編集をすることができます。また、Blue IやIIの頃から一貫して“EASY”ページが用意されており、簡易的な音色編集はこちらで可能です。

▼サンプルを読み込めるSAMPLES機能

サンプルを読み込めるSAMPLES機能

Blue IIIから新たに加わった機能の一つで、メイン画面上にある“SAMPLES”を選ぶと画面が切り替わり、オーディオ・データを編集できる。最大6つのサンプルを読み込み可能

オシレーター

 FMシンセシスということを忘れてしまいそうになるほど、1つのオシレーターで多彩な倍音を作り出せるBLUE IIIのオシレーター。アップデートによりオシレーターごとにPANが搭載され、さらに“PWM”に代わって“SMA”と“SPEED”というツマミが追加されました。FMシンセシスを使わずとも、6オシレーターのシンセとして使えます。また、オシレーターごとにフィルターのバイパスが可能で、出力先のFXの選択などのルーティングも自由度を増しています。

フィルター/エンベロープ/その他、モジュレーション

 フィルターは、ベーシックなものからフォルマント・フィルター、コム・フィルター、リング・モジュレーターなどもあり、38種類のうち2つをパラレル/シリアルで接続可能。またオシレーターごとに出力先を変更できるので、フィルターをバイパスしてエフェクトに送るなどの信号処理もできます。モジュレーションはXYパッドが優秀。動きをテンポ・シンクで変えられ、モジュレーション・シーケンサーも搭載しています。各オシレーターやフィルターに固定されたLFOは14個で、自由にアサインできるLFOも4つ用意あります。

▼便利なXYパッド

便利なXYパッド

メイン画面の左下にもXYパッドが表示されているが、こちらも専用画面で調節可能。X軸、Y軸に割り当てるパラメーターを自由に選択できるほか、モーションのRECORD/PLAYにも対応する

独自の機能/特徴

 Karplus Strong Stringモデリング音源がオシレーターとして選べるようになったのは、大きな特徴です。弦の物理的な音声合成の一つで、これを選択するとオシレーターのパラメーター“SYM”が“COLOR”に変化。併せて“SHAPE”や“FEED”を使い、ダイナミックに音色を変化させられます。

総評

 アルペジエイターやコード・メモリーによるストラム機能、FXへのモジュレーション・スロットの追加など、ここでは紹介しきれないほど多機能ですが、綿密に作り込まれたプリセットを聴けば、Blue Ⅲが多様で音楽的な音色変化を作り出すために最も進化し続けているシンセの一つであることは疑いようがないでしょう。よく使われる王道シンセたちとは音色キャラクター的に全くかぶらないという点も、ぜひ次の候補として選択肢に加えていただきたい理由です。

 

深澤秀行
シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメ、ゲームのサウンドトラック、作品のリミックスまで幅広く手掛ける一方、「やのとあがつま」やモジュラー・シンセ・ユニット「電子海面」のメンバーとしても活動している。

製品情報

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