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アル・ドイル(ホット・チップ)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

アル・ドイル(ホット・チップ)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

8月に8枚目となるアルバム『Freakout/Release』をリリースした、イギリスを拠点に活動するバンド、ホット・チップ。今作が制作されたRelax & Enjoyは、メンバーのアル・ドイルがイースト・ロンドンに作った新しいスタジオだ。木材の質感を基調とした空間を彩るのは、ホット・チップのサウンドを生み出す貴重な機材の数々。ぜひご覧いただきたい。

115dB以上の大音量を出力

 Relax & Enjoyを作りはじめたのはパンデミックの少し前で、完成まで1年ほどかかったそう。スタジオのあるビルには、元々別のスタジオを構えていたという。

 「20年ほど前からビル内の別のところにスタジオを持っていたんだけど、この場所が使えることになったので、よりプロフェッショナルなスタジオを作ることにしたんだ。パンデミックの間に、LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーと一緒にデザインから作った。だからジェームスがイギリスにいる間、ここは彼のスタジオになるんだ。普段はバンド・メンバーのジョー・ゴダードと運営しているよ」

 コントロール・ルームは広々とした空間で、壁際には多数のビンテージ・シンセを配置。中心にあるのは、コンソールのTRIDENT AUDIO TSM 32で、何でも自分たちの手で改造を行ったそうだ。

 「古いコンソールだからレコーディング側とテープ・リターン側に分かれているんだけど、リターン側にダイレクト・アウトを取り付けて最大56chミックスできるようにしている。サウンドもとても気に入っていてね。例えばNEVEのようなコンソールのプリアンプだと、ホットな良い音にはなるけれど、ある意味正直でなくなってしまう。その点、TSM 32はホットになりすぎないのがいい。EQも素晴らしくて、フル・パラメトリックEQだから直感的に作業できるんだ」

 モニター・スピーカーはTANNOY Super Red Monitor。「1980年代のイギリスでとても人気があったスピーカーだよ」と語る。

 「パワー・アンプはMCINTOSH MC2205を使っていて、115dBまで出せる。この部屋には十分すぎる音量だけど、さらにGENELECのサブウーファーも導入してTSM 32が低域を担わなくてよくなったから、もっと音を大きくできるんだ(笑)。ジョーは大音量でミックスするのが好きだから、彼をハッピーにしたかったのさ」

コンソールはTRIDENT AUDIO TSM 32で、その奥にメイン・スピーカーのTANNOY Super Red Monitorを配置。TSM 32右下のラックにオーディオI/OのLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)をセットしている。コントロール・ルーム、各ブースともDante接続されているそう。DAWは、ホット・チップの作品ではAVID Pro Toolsを用いているが、ドイルとゴダードは主にSTEINBERG Cubaseを使っているとのこと

コンソールはTRIDENT AUDIO TSM 32で、その奥にメイン・スピーカーのTANNOY Super Red Monitorを配置。TSM 32右下のラックにオーディオI/OのLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)をセットしている。コントロール・ルーム、各ブースともDante接続されているそう。DAWは、ホット・チップの作品ではAVID Pro Toolsを用いているが、ドイルとゴダードは主にSTEINBERG Cubaseを使っているとのこと

すべてのシンセが常時接続された状態

 2列に積み上げられているアウトボードは、ほぼすべてレコーディングの際のかけ録りに活用しているそう。

 「例えばドラムのタムにはゲートのDRAWMER DS201、キックやボーカルにはUNIVERSAL AUDIO 6176といった感じかな。マスター・バスにはMANLEY Stereo Variable Mu Limiter CompressorやTUBE-TECH SMC 2Bとか、常に幾つかのエフェクトをかけているよ」

2列に積み上げられたアウトボード類。パート名が書かれた付箋を張っている機材も多く、左側最上段にあるAPI 500互換モジュール(左からCAPI VP26×2/マイクプリ、API 550B×2/EQ、AML 54F50×2/コンプ)はピアノ用など、あらかじめどのパートにどの機材を使用するかがある程度決められているようだ。右側最上段のBLACK CORPORATION Deckard's Dreamなど、ラック型シンセも組み込まれている

2列に積み上げられたアウトボード類。パート名が書かれた付箋を張っている機材も多く、左側最上段にあるAPI 500互換モジュール(左からCAPI VP26×2/マイクプリ、API 550B×2/EQ、AML 54F50×2/コンプ)はピアノ用など、あらかじめどのパートにどの機材を使用するかがある程度決められているようだ。右側最上段のBLACK CORPORATION Deckard's Dreamなど、ラック型シンセも組み込まれている

 目がくらむようなビンテージ・シンセの数々については、ドイルいわく「どのパートに何を使うかは大体決まっているんだ」とのこと。

 「ベースはARP 2600を、パッドにはOBERHEIM OB-XAやSEQUENTIAL Prophet-5をよく使っている。何にでも使えるのはROLAND Jupiter-8、YAMAHA CS-80だね。ARP 2600、Jupiter-8、CS-80は『Freakout/Release』のどの曲にも何らかの形で登場していると思うよ。あとROLAND Paraphonic-505はベーシックなシンセだけど大好きで、ビッグでリッチなベースの音も出せるし、素晴らしいストリングスも出せるんだ。一番新しく手に入れたのはKORG Mono/Polyだけど、まだ何に使うかは分からないな(笑)」

奥からARP 2600、リズム・ボックスのROLAND CR-5000、ROLAND VP-770、WURLITZER 200。広いコントロール・ルームの壁際に並べるように、シンセ類がセットされている

奥からARP 2600、リズム・ボックスのROLAND CR-5000、ROLAND VP-770、WURLITZER 200。広いコントロール・ルームの壁際に並べるように、シンセ類がセットされている

ROLAND Jupiter-8。その下にはOBERHEIM OB-XAを用意

ROLAND Jupiter-8。その下にはOBERHEIM OB-XAを用意

上から、ROLAND Jupiter-4、SEQUENTIAL Prophet-5、YAMAHA CS-80

上から、ROLAND Jupiter-4、SEQUENTIAL Prophet-5、YAMAHA CS-80

上から、KORG Mono/Poly、ROLAND Paraphonic-505、YAMAHA CS70M

上から、KORG Mono/Poly、ROLAND Paraphonic-505、YAMAHA CS70M

 左側にMOOG IIICと、その上にシーケンサーのANALOGUE SOLUTIONS Oberkornを設置。右手前にROLAND System-100と、ROLAND TR- 808、KORG MS-20Mを配置している

 左側にMOOG IIICと、その上にシーケンサーのANALOGUE SOLUTIONS Oberkornを設置。右手前にROLAND System-100と、ROLAND TR- 808、KORG MS-20Mを配置している

 レコーディング・ブースは、ピアノとドラムを配置したブースと、ギターやボーカルなどを録音するブースの2部屋を用意。ドラムには、少し変わったマイクを用いている。

 「ドラム用のマイクはほとんど改造されたものなんだ。OKTAVA MK-012Sはボディはそのままだけど、電気系統やカプセルが変更されたものだね。TOSHIBA Type GもXAUDIAというリボン・マイクを改造する業者の手が加わっていて、実は4本持っている。有名なRCA 44-BXみたいな感じで、EQをうまくかけると豊かで優しいハイミッドが得られるんだ。僕はリボン・マイクでドラムとパーカッションを録音するのが大好きでね。オーバーヘッドはシンバルの音を拾うためではなく、ドラム・キットの全体像を捉えるためであって、だからドラマーの耳の位置とか、ちょっと変わった位置に立てている。すると素晴らしい音になるんだ」

Relax & Enjoyにあるレコーディング・ブースは2部屋。こちらは主にピアノとドラムを録音するブースで、ピアノにはJOSEPHSON ENGINEERINGのペンシル型コンデンサー・ペア・マイクのC42MPを立てている

Relax & Enjoyにあるレコーディング・ブースは2部屋。こちらは主にピアノとドラムを録音するブースで、ピアノにはJOSEPHSON ENGINEERINGのペンシル型コンデンサー・ペア・マイクのC42MPを立てている

主にボーカルやギターを録音するブース。奥にある大きなスピーカーと右側のアンプは、1970年代後半にロバート・モーグが作ったというMOOGのシンセサイザー・アンプ。ドイルいわく、「世界に15台くらいしかないんじゃないかな。たまに面白いことをやりたいときに、MOOG IIICをこのアンプに通すんだ。貨物船の上にあるフォグ・ホーン(霧笛)みたいな音になって最高だよ(笑)」

主にボーカルやギターを録音するブース。奥にある大きなスピーカーと右側のアンプは、1970年代後半にロバート・モーグが作ったというMOOGのシンセサイザー・アンプ。ドイルいわく、「世界に15台くらいしかないんじゃないかな。たまに面白いことをやりたいときに、MOOG IIICをこのアンプに通すんだ。貨物船の上にあるフォグ・ホーン(霧笛)みたいな音になって最高だよ(笑)」

JOSEPHSON ENGINEERINGのコンデンサー・マイク、C705。ドイルのメインとなるボーカル・マイクで、「もっと高級なマイクも持っているけれど、C705とUNIVERSAL AUDIO 6176を組み合わせれば、やりたいことの大半ができるよ」と語る

JOSEPHSON ENGINEERINGのコンデンサー・マイク、C705。ドイルのメインとなるボーカル・マイクで、「もっと高級なマイクも持っているけれど、C705とUNIVERSAL AUDIO 6176を組み合わせれば、やりたいことの大半ができるよ」と語る

リボン・マイクのTOSHIBA Type Gは、1950年代に製造されたもので、ドイルは改造されたものを4本所有する

リボン・マイクのTOSHIBA Type Gは、1950年代に製造されたもので、ドイルは改造されたものを4本所有する

 新たなスタジオ環境で制作された『Freakout/Release』。これまでの制作とどのような違いがあったのだろうか。

 「僕たちはいろいろなシンセやリズム・マシンを試すのが好きだから、求める通りの音楽を作り上げるまでかなりの時間がかかる。でも、ここではすべての機材がいつでもコンソールにつながっているし、セッティングの時間がいらなくてとても楽にレコーディングできたんだ。あとほとんどのスタジオと逆になっていて、コントロール・ルームが広くてレコーディング・ブースが狭い。ブースの広い商業的なスタジオだと、ドラム・セットが数種類あってマイクの立て方もさまざまにできたりすると思う。そういうフレキシブルさはないかもしれないけど、構わないさ。ここのサウンドが僕たちのサウンドだからね。好きなサウンドに専念しているからこそ、うまくいっているよ」

Equipment

 DAW System 
DAW:STEINBERG Cubase、AVID Pro Tools
Audio I/O:LYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(n)

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:AMS NEVE 1073DPA、API 3124+、NONLINEAR AUDIO FG500、RUPERT NEVE DESIGNS Portico 511、他
Compressor: AML 54F50、EMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、TRIDENT AUDIO Stereo Limiter Compressor、UREI LA-4、他
EQ:API 550B、ASHLY SC-66A
Delay:DELTALAB Effectron II ADM 1024
Chorus:MU-TRON Bi-Phase、ROLAND SRE-555
Reverb:BRICASTI DESIGN M7、EVENTIDE Reverb 2016、LEXICON 480L、SOUNDGAS Type 636
Filter:ELECTRIX Filter Factory
Multi-Effects:EVENTIDE H3000-D/SX
Channel Strip:RUPERT NEVE DESIGNS Shelford Channel、他
Others:MXR Pitch Transposer Model 129(ピッチ・シフター)、THERMIONIC CULTURE Culture Vulture(ディストーション)、他

 Recording & Monitoring 
Mixer:TRIDENT AUDIO TSM 32、ASHLY LX-308B、他
Monitor Speaker:TANNOY Super Red Monitor、AURATONE 5C、他
Microphone:SELECTRO-VOICE 635A、JOSEPHSON ENGINEERING C705、C42MP、OKTAVA MK-012S、TOSHIBA Type G、他

 Instruments 
Keyboard:WURLITZER 200
Synthesizer:ARP 2600、BLACK CORPORATION Deckard's Dream、KORG Mono/Poly、OBERHEIM Matrix-1000、OB-XA、他
Sequencer:ANALOGUE SOLUTIONS Oberkorn
Rhythm Machine:ELEKTRON Analog Rytm MKII、ROLAND TR-808

 

アル・ドイル(ホット・チップ)

アル・ドイル(ホット・チップ)
イギリスのエレクトロ・ポップ・バンド、ホット・チップのギター/シンセ担当。4月に開催されたコーチェラ・フェスティバルに出演し、8月には8作目のスタジオ・アルバム『Freakout/Release』をリリースした。LCDサウンドシステムにも参加している。

 Recent Work 

『Freakout/Release』
ホット・チップ
(ビート)

次に欲しい機材は…?

 もう置く場所がないし、新しい機材を手に入れるのはしばらくやめようと思っているんだ。それよりも忙しくてなかなか時間が無いけれど、今あるもので必要があるものを改造したいよ。あとジョーがEuroRackの巨大なコレクションを持っていて、それを置きたいけれどまだ場所が確保できていなくて。窓にカーテンを取り付けたりして部屋鳴りも調節できたらと思う。というように、ほかにできることをやりたいかな。既に機材は十分持っているからね。

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