ペアで30万円以下のモニター・スピーカーから選び抜かれた全11モデルを、音楽制作の第一線で活躍するエンジニアの染野拓氏、プロデューサー/コンポーザーのT.Kura氏が徹底レビュー! ここでは、TANNOY Gold 8を紹介します。
位相のエラーを減らし自然で正確な音を追求。BASS ADJUST機能で低周波数特性を調整可能
300WのクラスABアンプを搭載。ドライバーを独自に設計しており、クロスポイントの数を最小限に抑えることで位相のエラーを減らして、自然で正確なサウンドになるように設計している。また、スピーカー・ユニットを中央に配置することによるスウィート・スポットの広さも特徴だ。本体の前面下部には高域を調整するHFトリム・コントロールを、背面には低周波数特性を調整するBASS ADJUSTスイッチを備え、さまざまな環境で使用できるようになっている。オート・スタンバイ・スイッチも搭載。
SPECIFICATIONS
●形式:2ウェイ・パワード ●スピーカー構成:8インチ径ウーファー+1インチ径ツィーター ●周波数特性:54Hz~20kHz(±3dB)、40Hz~20kHz(-10dB) ●外形寸法:274(W)×429(H)×336(D)mm ●重量:14.0kg/1台
ドライ/ウェット成分の分解能が非常に高い 〜染野拓
Gold 8で非常に優れていると感じたところは、空間系エフェクトを施したときの、ドライ成分とウェット成分の分解能が非常に高いということです。例えば、実音とリバーブ成分、あるいは実音とディレイ成分などを奇麗に聴き分けることができます。また、ドラムにかかったルーム・リバーブの響きも非常にリアルで奥行きがあり、同軸タイプのため、M/S処理をしたときのMid成分の情報もよく分かります。
なお、6kHz付近以上の高域は硬めなので、生音を中心に構成したアコースティックな音楽との相性も良いでしょう。ボーカルの倍音やリム・ショット辺りはとてもリアルに聴こえます。また、低域は80〜100Hz付近がしっかり出ているのでドラムのキックがよく鳴りますし、本体自体が重いため、低域がピタッと止まるところも好印象です。
ステレオ感も忠実で、同軸タイプなのでぼやけない音像が得られます。ゲインを上げたときの色付き感はほとんどありませんので、録音時のモニターとしてもバッチリ。コスト・パフォーマンスにも優れているため、クライアント席用に2台目として導入するのもお勧めです。Gold 8はエンジニアから作家、ミュージシャンまで幅広く使えるスピーカーでしょう。
“音の面”がそろっていてシルキーなサウンド 〜T.Kura
Goldシリーズは、アメリカのミックス・エンジニアたちがよく使っているスピーカーというイメージが僕の中にはあります。実際にGold 8を試聴したところ、8インチ径のウーファーを搭載しているだけあって、どんな音楽でも自然に鳴らせる余裕さを感じました。また同軸タイプなので“音の面”がそろっており、バランスも良く、シルキーなサウンドであるため、ミックス・エンジニアが使いたくなる理由が分かります。耳に痛いピークがほとんど無いため、長時間の使用でも疲れにくいのが特徴の一つです。
設置をしているときに気付いたのは、Gold 8は設置環境をあまり選ばないモデルだということ。そのため、宅録環境での使い勝手も良いでしょう。どうしても壁に近い場所に設置しなければならない場合は、リア・パネルにあるBASS ADJUSTスイッチで低域を−4/−2/0dBから調整することができるため便利です。音質は全体的にクリアで、ゲインを上げていくと低域が自然にまとまっていき、テンションの上がるサウンドになります。何よりコスト・パフォーマンスに優れているため、ついつい購入してしまいそうなくらいGold 8は魅力的なスピーカーです。
レビュワー紹介
染野拓
レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛けている。
Recent Work
『Where is "LAGHEADS"?』
LAGHEADS
(LAGHEADS LABEL)
※全8曲のうち7曲のミックスを担当
T.Kura
プロデューサー/コンポーザー。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Crystal Kay、安室奈美恵、AI、三浦大知などの国内トップ・アーティストを手掛けるほか、1996年にプロデュースしたエリーシャ・ラヴァーンのシングル「Say Yeah!」がUKの『Blues&Soul』誌のチャートで1位を獲得。2010年には、EXILE「I Wish For You」で第52回日本レコード大賞を受賞。日本国内にとどまらず世界で活躍しているR&B/ヒップホップ・プロデューサー。
試聴環境
モニター・スピーカーの試聴は、前回の特集“はじめてのモニター・スピーカー選び”に続き、東京・御茶ノ水にある多目的スペースのRITTOR BASEで行なった。スタジオにはデスクとスピーカー・スタンドを用意し、全11モデルを個別にスタンドへ配置してレビュー。レビュワーの2人には、リファレンスとなる音源を再生したり、AVID Pro Toolsのセッションで作業したりして、各モニター・スピーカーの性能をチェックしてもらった。