コンデンサーマイクとは?「中身」と「仕組み」をわかりやすく解説!

コンデンサーマイクとは?「中身」と「仕組み」をわかりやすく解説!

コンデンサーマイクのカタログには、どのようなパーツやコンポーネントを使っているかが製品の特徴として書かれています。それを読んで、何だかすごそうだと感じても、肝心のサウンド・キャラクターを連想できる人はどれほどいるでしょう? パーツやコンポーネントがいかに音に関わってくるか、マイク選びの指針にできるよう、レコーディング/ミキシング・エンジニアの中村公輔氏が解説します。

カプセルとは?

 カプセルとはマイクの受音部のことで、音波を音声信号に変換する役割を担うものです。コンデンサー・マイクの場合は、ダイアフラム(振動板)と呼ばれる薄い膜とバック・プレート、絶縁体、テンション・リングなどを含んだセットをカプセルと言います。

 ダイアフラムは、マイラー・フィルムなどでできた薄い膜に金属を蒸着させたもので、口径によりキャラクターがかなり変わってきます。口径1インチ(25.4mm)程度のものがラージ・ダイアフラム、その半分くらいのものがスモール・ダイアフラムと大雑把に分類されています。

コンデンサー・マイクのカプセルの仕組み図

コンデンサー・マイクのカプセルは、ダイアフラム、ダイアフラムを囲うテンション・リング、絶縁体、バック・プレートなどから構成されます。ファンタム電源や専用の電源ユニットで、ダイアフラムとバック・プレートに電圧をかけて両者の間に電気を蓄えておき、音を受けたダイアフラムが動くと電圧が変化することで音声信号を得る仕組みです。ダイアフラムはいわば可変電極で、バック・プレートは固定電極。この仕組みが電子部品のコンデンサーと同様であることから、コンデンサー・マイクと呼ばれます

ラージ・ダイアフラムの特徴

 ボーカルのレコーディングには、ほとんどのケースでラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクが使われます。これはラージ・ダイアフラムの方が感度が高く、中域を繊細に捉えることができるため。また、マイク自体から発生するセルフ・ノイズ(等価ノイズ・レベル)が低くなるので、小さい音までクリアに拾えるのが大きな理由です。

 セルフ・ノイズが大きいと、ウィスパー・ボイスのように小音量で歌う場合、声が小さすぎてノイズが目立ったり、極端な例ではノイズに埋もれてしまったりすることが考えられます。ラージ・ダイアフラムであれば、面積が広く柔らかいため振動しやすく、細かな音量変化も逃さずにキャプチャーできるのです。また、小さい音も拾えるということは、壁の反射などリバーブ的な要素まで録れるということ。結果、奥行きのある音につながりますし、マイクを離していったときに“距離感”が見えるような音になるわけですね。

 こう言われると、ラージ・ダイアフラムは良いところばかりに聞こえるかもしれませんが、大音量への耐性や低域/高域の再現性は、スモール・ダイアフラムに分があります。

スモール・ダイアフラムの特徴

 ダイアフラムが大きいと、重いので振動板が軽快に動かず高域への反応が鈍くなったり、音波の回折(波が背後へ回り込む現象)によって濁りが生じて原音を正確に捉えられなくなってしまいます。ダイアフラムが小さければ、このような問題は起こりにくいため、すっきり奇麗な高域が得られます。スモール・ダイアフラムのマイクがアコースティック・ギターやシンバルなどの録音によく使われるのは、単に小さくて取り回しが良いからだけでなく、高域の再現性の高さを見越してのことなんですね。

 というわけで、スモール・ダイアフラムでエアリーなウィスパー・ボイスを録音できたら最高だろうなと思ってしまうのですが、感度が低いのでマイク・プリアンプの音量ツマミをある程度は上げないと適正レベルにならず、ノイズとの戦いになってしまいます。この辺りをダイアフラムの形状で改善したり、大小2つのダイアフラムを搭載した2ウェイ方式にして解消している機種も近年は見受けられます。

各ダイアフラムの利点

 ラージ・ダイアフラム 

感度が高くて中域を繊細に捉える
セルフ・ノイズが低く、小さい音までクリアに収音

 スモール・ダイアフラム 

大音量に強い
高域への反応が良く、奇麗な高音が得られる

 ラージ・ダイアフラムは、その高域特性により少しザラッとした質感になるような部分が、むしろ良さだと思っています。イメージとしては、中域がおいしくて奥行き感や面積の広さを感じるのがラージ・ダイアフラム、高域まで奇麗に伸びていて、すっきりシャープな印象になるのがスモール・ダイアフラムと思ってもらえれば、大体正解だと思います。また、各マイク・メーカーは、ダイアフラムの口径による特性を加味して、サウンドを独自にブラッシュアップしていると考えられます。

テンション・リングの素材

 テンション・リングの素材によっても、音が変わってくると言われていますね。最初期モデルのカプセルには真ちゅう製のリングが使われ、ある時期からナイロン製のリングに変わったマイクが存在します。初期のものは高域がかなり持ち上がったブライトなサウンドですが、ナイロンに変わってからは音が柔らかくなったのです。

 ナイロンになってからもダイアフラムのチューニングなどで音色にマイナー・チェンジが加わっているので、リングだけの話とは言えないところがありますし、後のモデルの方が汎用性の高い音になったという評価もあるため、最終的には好みの領域かもしれません。とは言え、リングが金属やセラミックだとコストがかかるのは事実なので、こだわりポイントとしてカタログに挙がっている場合は、気合いを入れて良いものを作っている可能性が高そうです。

なぜ電源が必要か?

 コンデンサー・マイクを使用するためには、ファンタム電源や専用の電源ユニットが必要です。それらについては後ほど詳述しますが、そもそもなぜ電源が要るのでしょう?

 コンデンサー・マイクはダイアフラムとバック・プレートがコンデンサーの電極のように働き、音圧でダイアフラムが動いたときに信号電圧が作られる仕組みになっています。そのため、エレクトレット・コンデンサーのようにバック・プレートへ半永久的に電荷を蓄える仕組みがあるものを除いては、カプセルそのものが電源を必要とします。

 また、指向性が変えられる機種は、バック・プレートを挟んで2枚のダイアフラムが表裏にあり、そこにかける電圧を調整することで指向性を得ているため、ダイナミック・マイクとは違って電源なしでは成立しません。

 そして出力される信号が大変微弱なので、そのまま伝送するとケーブルを引き回したときにノイズの多い音になってしまうことから、マイク内部のアンプ回路で増幅したり、インピーダンスを下げたりして対応しています。そのためどうしても電源が必要になってきます。

アンプ回路の意味

 ものすごく小さいレベルで伝送した場合、途中で侵入してくるノイズに対して、信号のレベルが低すぎてしまうことが考えられます。そうすると、後ろにつないだマイク・プリアンプで増幅したときに、音声に対してノイズが大きすぎるという問題が発生してしまいます。それを避けるために、あらかじめ適切な音量に上げてから伝送することで、音声に対してノイズのレベルを低く保つのです。そのために、内部でアンプ回路が使われています。

コンデンサー・マイクのカプセルから出力される信号はとても微弱なため、カプセルの後段にアンプを設置し、増幅してから伝送する

コンデンサー・マイクのカプセルから出力される信号は、とても微弱。そのままマイク・プリアンプに伝送すると、ケーブルを通る際にノイズが多くなってしまいます。そこで、カプセルの後段にアンプを設置し、増幅してから伝送。これによりノイズの少ない音が得られます

 このアンプ回路には真空管型とソリッド・ステート型があり、真空管マイクと呼ばれている機種は前者を使ったものです。ソリッド・ステート型は単にコンデンサー・マイクと呼ばれることが多いですが、こちらはアンプ回路にFETなどのトランジスターが使用されています。

ファンタム電源と専用電源

 コンデンサー・マイクに使う電源は、48Vのファンタム電源が一般的。ミキサーやマイク・プリアンプからマイク・ケーブルを通して電源供給するもので、電源専用のケーブルを必要としない幽霊のような供給方式であることから、ファンタム=お化け電源と呼ばれています。

 ファンタム電源は、ソリッド・ステート型のマイクが登場して以降、使われるようになりました。それ以前のコンデンサー・マイクは真空管型で、専用の電源ユニットで電源供給する仕様です。真空管のアンプは48Vよりも高い電圧で駆動させる必要があるため、現在の真空管マイクも専用の電源ユニットを要します。真空管マイクのセッティングは、マイク→マイク・ケーブルに電源ラインを追加した専用ケーブル→電源ユニット→マイク・ケーブルという形。ファンタム電源をかけると破損する可能性が高いので、注意が必要です。

真空管マイクを使用する際のセッティングの模式図

真空管マイクを使用する際のセッティングの模式図。専用の電源ユニットには、マイク入力と音声出力が装備されています。マイク入力にマイクをつなぐと電源が供給され、音を入力すれば音声出力からマイク・プリアンプなどに伝送できる形です。マイク・プリアンプでファンタム電源をかけると破損の原因になるため、注意しましょう

真空管型とソリッド・ステート型

 一般的に、真空管マイクは柔らかく温かいトーン、ソリッド・ステート・マイクはニュートラルな音質で低ノイズと言われており、実際に大筋ではそういう傾向です。

 昔の録音物を聴くと、かなり音が丸くローファイなものが多いので、真空管マイク=昔っぽい音と想像しがちですが、当時のテープやマイク以外の録音機材の性能が今より低かったこともあり、現在の機材との組み合わせで聴いてみるとハイファイに感じることが多いです。これは、今でもボーカル録音にビンテージ・マイクがよく使われていて、古くさい音になっていないことからも分かると思います。

 高品質な真空管マイクでは高音も低音も十分に録音でき、その上で耳に痛くないスウィートな音質が得られます。また偶数次倍音が多く、自然に魅力的なエンハンス感が出る特徴があるのです。それに、真空管はトランジスターと違って差し替えによる交換が可能なので、キャラクターを変えて楽しむ人もいます(メーカーは推奨していないはずですが)。

 ソリッド・ステートの方は、真空管に対して少し硬質でフラットな印象。マイクによっては奇数次倍音が加算されて、前に出るような張り付き感のものもあり、ポップス系のボーカルに向いていることがあります。真空管マイクの方が高級というイメージかもしれませんが、真空管と電源ユニットでどうしてもコストが高くなってしまうからなので、どちらが上という話ではありません。狙った音に合うマイクを選ぶのが良いと思います。

真空管型とソリッド・ステート型の特徴

 真空管マイク 

耳に痛くないスウィートな音質
偶数次倍音が多く、魅力的なエンハンス感が出る

 ソリッド・ステート・マイク 

やや硬質でフラットな印象の音
奇数次倍音が加算され、音が前に出る傾向

トランスありとトランスレス

 コンデンサー・マイクには、トランスを搭載するものと非搭載=トランスレスのものがあります。ソリッド・ステート以前の真空管の時代には、マイクの出力インピーダンスを下げるのにトランスが唯一、利用可能な部品だったため、古いマイクでは大抵トランスが使われています。

写真下部に見える金属芯+コイルのパーツがトランス。筆者所有の真空管マイクNEUMANN GEFELL CMV563のもので、マイクの出力インピーダンスを下げるために使われます。高品質なトランスが採用されていると、音に味やまとまり感が出て魅力的な響きになります

写真下部に見える金属芯+コイルのパーツがトランス。筆者所有の真空管マイクNEUMANN GEFELL CMV563のもので、マイクの出力インピーダンスを下げるために使われます。高品質なトランスが採用されていると、音に味やまとまり感が出て魅力的な響きになります

 高品質なトランスを使うと、高音質かつ味やまとまりを感じるような素晴らしいサウンドになりますが、反面かなり高価になります。安価で小型のトランスを使うと、この“まとまり”がデメリットになり、ダイナミック・レンジが狭まったり、ひずみや飽和という形で現れてしまいます。

 この部分を安価で高性能なソリッド・ステートで代替したのがトランスレスのモデルで、コスト効率良く同等の機能を実現しています。1970年代頃までの味付けを好むならトランスあり、コスト・パフォーマンス重視で高性能なものを求めるならトランスレスのマイクを選ぶのがよいでしょう。

 

中村公輔
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。近年は、折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。アーティスト活動も行い、neinaの一員としてドイツの名門=Mille Plateauxなどから作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。

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