2011年、テキサスを拠点に誕生した音響機器ブランドのWARM AUDIO。“良い製品を良い価格で提供する”というコンセプトを掲げ、往年の名機とされるマイクやアウトボードを再現し、入手しやすい価格帯で提供している。その品質が確かであるのは、多くのクリエイターやエンジニアの所有機材として目にする機会が増えていることからも明らかだ。今月と来月の2回にわたり、コンデンサー・マイクにスポットを当てて紹介する。シンガー・ソングライターの中田裕二と、スタジオ・サウンド・ダリのエンジニア、大野順平氏の協力の下、実際に試した所感を語ってもらった。
Photo:Takashi Yashima
WA-87 R2 〜クリアかつ滑らかな高域
今回は、WARM AUDIOがリリースする5本のマイクを試してもらった。いずれもドイツ製ビンテージ・マイクを意識したものだ。まずは中田の楽曲「Deeper」のオケをバックに、ボーカルでWA-87 R2をテスト。WARM AUDIOのマイクを初めて使用したという中田は、歌い出した瞬間からその歌いやすさに驚いたそうだ。
「高域がクリアかつ滑らかで、すごく歌をコントロールしやすかったです。歌いやすい音って人それぞれかと思いますが、僕の場合は高域がしっかり聴こえてきたので歌いやすくて。繊細さもあるから、きっと女性ボーカルにも合うんじゃないかな。気持ち良く歌をレコーディングできるマイクですね」
大野氏も「出っ張っているところが無くて、高域がシームレスにつながっている印象です。オケとのなじみが良くないマイクだとリバーブをかけたくなるんですが、WA-87 R2には必要ないと感じましたね」と続けた。
次にアコースティック・ギターをテスト。コード・ストロークよりもアルペジオが映え、ボーカルと同じく繊細な印象だったようだ。大野氏いわく、「ミッドレンジの張り出しが控えめで、その分高域が奇麗。バイオリンやピアノにも合うんじゃないでしょうか」
SPECIFICATIONS
●指向性:単一/双/無 ●PAD:−10dB ●ローカット・フィルター:80Hz ●周波数特性:20Hz~20kHz ●SN比:−117dB ●外形寸法:約62.2(φ)×241(H)mm ●重量:897.5g ●付属品:専用木製ケース、ショック・マウント・ホルダー
WA-47 〜速くて抜けのいいローミッド
続いてはWA-47をテスト。普段から中田のボーカルをNEUMANN U47で録ることもあるというから期待大だ。テストの際、「思わず歌い上げてしまいましたよ」と中田は絶賛する。
「パワーがまず違いますよね。音が濃密で、ついついエモーショナルに歌ってしまうマイクです。ちゃんと音を拾ってくれるので、そこまで声を張らなくても十分に録音できるという強みもあると思います。中域のしっかりした感じとかは、本当にビンテージ・マイクの雰囲気。歌っていて、普段使っているマイクと何も遜色がなかったです」
同じく大野氏もWA-47に太鼓判を押す。
「まさに僕が知っている中田さんの歌声でしたね。“歌をちゃんと歌にしてくれる”と言えるマイクかなと。ローミッド辺りの低い部分がすごくしっかり出ていて、なおかつ速い。ローミッドにスピード感があるので、前に出てくるけれどもこもらないんです」
アコースティック・ギターのテストにおいても大野氏は「低域があるから太いということでもなく奥行き、立体感がある。本当に良いマイクですね」と評価すれば、中田も「アコギのおいしいところを捉えてくれる。弾き語りに最適な太い音です」と、その性能を評する。
SPECIFICATIONS
●指向性:9パターン(単一/双/無+6種類のミックス・パターン) ●周波数特性:20Hz~20kHz ●SN比:82dBA ●外形寸法: 60(φ)×254(H)mm ●重量:1.02kg ●付属品:専用木製ケース、ショック・マウント、電源モジュール、電源モジュール用7ピン・ケーブル
WA-47jr 〜存在感のあるミッドレンジ
WA-47の兄弟機とも言えるWA-47jrは、WA-47と違って電源モジュールを必要としないFETタイプだ。中田がボーカルをテストしてみた印象は「ハイファイで現代的な音楽より、少しレトロ感のある音楽に合いそうです。しっかりした中域の太さもあって、本チャン用でも全く問題ないレベルがこの価格帯で手に入るのは衝撃です。子音がいい具合にマスキングされるのでラップにもいいのでは」とのこと。
今回はアコースティックの生音と、アンプから出力したエレキの2種類のギターをテスト。大野氏は「上の方のチリチリ、サラサラした成分が少なく、ガッチリとアコギの音を捉えてくれます。ミッドレンジの存在感もあるので、エレキらしい音を録るのにも良いと思います」と語る。
SPECIFICATIONS
●指向性:9パターン(単一/双/無+6種類のミックス・パターン) ●周波数特性:20Hz~20kHz ●SN比:85dBA ●外形寸法:52(φ)×254(H)mm ●重量:498g ●付属品:専用ケース、ショック・マウント・ホルダー
WA-67 〜色気を持った本気度が伝わるサウンド
次はWA-67について。中田は、「オールド・マイク感が一番強いなと。ジャズ・ボーカルとか狙いがはっきりした音楽でこそ映える。色気があるような印象で、メーカーの本気度が伝わってくるマイクですね」と語る。一方、大野氏は「逆にロック・ボーカルも合いそう」と話してくれた。
「高域を抑えてくれるので、ハイミッドの辺りを喉から出すような人の方が良さそうです。中域から下も力強く、ギターがガンガン鳴っているような曲の中で歌うのに合っているんじゃないでしょうか。ドラムのトップにステレオで立ててみるのも面白いと思いますし、パワーのあるストロークで弾くアコギの録音にも向きそうです」
SPECIFICATIONS
●指向性:単一/双/無 ●スイッチ:−10dB PAD、ローカット・フィルター ●周波数特性:20Hz~20kHz ●SN比:78dBA ●外形寸法:65(φ)×240(H)mm(実測値) ●重量:858g(実測値) ●付属品:専用木製ケース、ショック・マウント・ホルダー、ハード・マウント・ホルダー、電源モジュール、電源モジュール用7ピン・ケーブル
WA-84 〜ナチュラルな音質で幅広く対応
最後はスモール・ダイアフラムのWA-84。大野氏は、想像と第一印象が異なっていたと語る。
「形や価格帯から既にEQで色付けされた音なのかなと思っていたんですが、すごくナチュラルでした。低域もちゃんとあるのでドラム周りにも良さそうです。高域がキラキラと強調されていることもないので、金物を録るのにも向いているのでは。もちろんアコギにも良かったですし、ディストーションがかかったエレキのバッキングにダイナミック・マイクとコンビで使ってみるのも良いと思います」
SPECIFICATIONS
●指向性:単一 ●PAD:−10dB ●周波数特性:20Hz~20kHz ●SN比:78dBA ●外形寸法:20(φ)×130(H)mm(実測値) ●重量:122g ●付属品:専用ハード・ケース、ショック・マウント・ホルダー、ウインド・スクリーン、マイク・クリップ
ここまでのテストを終え大野氏は「どうしても先入観でビンテージを求めてしまうと思うんです。でも、これだけ優れたマイクが入手しやすい価格で手に入るんだから、もっとフラットに考えて“良いマイクだから使おう”という気持ちがすごく大事だと感じました」と振り返る。確かなクオリティを備え、それぞれに個性を持つWARM AUDIOのコンデンサー・マイク。次月でも引き続き、その魅力をお届けしよう。
中田裕二
【Profile】椿屋四重奏のボーカル&ギター/ソングライターとしてキャリアをスタートし、バンド解散直後からソロ活動を開始。自身のルーツである歌謡曲やニューミュージックを軸に楽曲制作を行う。
大野順平(スタジオ・サウンド・ダリ)
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、SUGIZO、浜端ヨウヘイらの作品を数多く手掛けるほか、大森靖子やMAPA、LUNA SEAといった個性的なアーティストの作品に携わる