Make Hits Lab|音響設備ファイル【Vol.77】

Make Hits Lab

JR高田馬場駅から徒歩2分の防音マンションの一室に、音楽制作スタジオMake Hits Labはある。2019年にスタジオ・オーナー/運営会社Make Hits Production代表の谷正太郎氏が開設し、2020年5月に現在の場所に移転した。Make Hits Labは−106dBの防音性能を備え、24時間音出しが可能。またBYOD(Bring Your Own Device)スタイルを採用しているため、ユーザーはラップトップを持ち込むだけでスタジオにあるハイエンド機材をリーズナブルに利用することができるそう。今回は、谷氏にこのスタジオの魅力や導入機材のこだわりなどを伺った。

Photo:Takashi Yashima

誰が来てもスムーズにセットアップが行え作業に素早く取り組めることを意識

 もともとDJ/エンジニアとして活動していた時期もあったという谷氏。その後は作家マネージメント業に携わり、2019年にMake Hits Productionを開業した。実は以前から“音楽制作スタジオを作りたい”という思いがあったと語る。

 「20代のときからスタジオで作業することも多かったので、私自身、スタジオが大好きなんです。特に高価なスピーカーに関しては小さい頃から憧れがありましたね」

 Make Hits Labが高田馬場に移転してから約3年がたつ今、現にトラック・メイキングやソング・ライティング・セッション、ボーカルやギターなどのレコーディング、ミックス・ダウン、映像作品の編集など、あらゆる用途で利用されているという。Make Hits Labにおいて、谷氏が一番意識したのは“誰が来ても簡単に音を出せること”だと話す。

 「Make Hits Labは、いわゆるBYOD方式を採用しています。APPLE MacBookやMacBook Proといったラップトップを持ち込んでいただき、オーディオ・インターフェースに接続するだけで、Make Hits Labにあるほとんどの機材をコントロールすることが可能です。つまり、誰が来てもスムーズにセット・アップが行え、スタジオ作業に素早く取り組めるというメリットがあります」

 谷氏がこの点に着目した理由は、自身の経験に基づくものだったという。

 「主に2つの理由が挙げられます。一つは、大きなスタジオでは常駐のエンジニアの方がいることも多く、その方がいらっしゃるまで電源が入らないとか、音が出せないといったことが過去によくあったからです。もう一つは、海外で行われたソング・ライティング・キャンプに参加したときに、BYOD方式のスタジオが非常に多かったから。作曲家やクリエイターのラップトップには、既に彼らが使い慣れたソフトウェアやプラグインがインストールされているので効率的に作業を進めることができます。こういった理由からMake Hits Labは、いつでもユーザー自身でシステムに接続でき、作業が行えるBYOD方式を取り入れました」

Make Hits Labのメイン・デスク

メイン・デスク。キーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S49 MK2がスタンバイ。デスク左奥にはNATIVE INSTRUMENTS Maschine Mikro MK3の姿も見える。またモニター・スピーカーやオーディオI/Oはそれぞれ2系統ずつ用意され、ユーザーの好みに合わせて使い分けができるようになっているという。スピーカー・スタンドはACOUSTIC REVIVE YSS-90HQを使用。PCディスプレイは4K対応のEIZO FlexScan EV2785を導入しているため、映像作品の編集/MA作業にも対応できるそうだ

音楽制作スタジオMake Hits Labのオーナー兼、Make Hits Production代表の谷正太郎氏

音楽制作スタジオMake Hits Labのオーナー兼、Make Hits Production代表の谷正太郎氏。作家マネージメントも行っている。漫画家の手塚治虫の大ファン。谷氏は「2019年にスタジオを高田馬場へ移転したのも、この地が手塚治虫氏にゆかりのある土地だからです」と語る

モニター・スピーカーやオーディオI/Oなど厳選した機材のみを備える

 スタジオ機材の選定についても、谷氏自身が行っているそうだ。スタジオ内を見渡すと厳選された機材がそろっている。まずはモニター周りについて伺った。

 「モニターは2系統あります。1つはGENELEC 8331AMとサブウーファー7350APMの組み合わせで、GLM(Genelec Loudspeaker Manager)でキャリブレーションしています。8331AMを導入したのは、近年多くのスタジオがこのThe Onesシリーズを置いているからです。ほかのスタジオとモニターをそろえることによって音質の差が少なくなり、正確な意見のやりとりが実現できます。また外スタジオで作業する場合でも、スピーカーの音色や特性を理解しているため作業にスムーズに取りかかることが可能です」

 8331AM自体が持つ音質はもちろん、GLMによる音場補正効果は特に素晴らしく感じたという谷氏。

 「周波数特性がほぼフラットになった印象ですごく効果的でした。また8331AMと7350APMの位相がピッタリ合い、低域〜超低域にかけてのディティールも分かりやすくなりましたね。空間の再現力も上がったため、ショート・リバーブやディレイのかかり具合もより緻密に調整できるようになったと思います。この環境で作業するとモチベーションが上がるのはもちろん、正確なジャッジがしやすくなりました」

同軸3ウェイ・タイプのパワード・モニターKS DIGITAL C88-Reference(写真左)と、GENELEC 8331AM(同右)

同軸3ウェイ・タイプのパワード・モニターKS DIGITAL C88-Reference(写真左)と、GENELEC 8331AM(同右)

サブウーファーはGENELEC 7350APMを設置。音場補正ソフトのGLMでキャリブレーションし、8331AMとのバランスを最適化しているという

サブウーファーはGENELEC 7350APMを設置。音場補正ソフトのGLMでキャリブレーションし、8331AMとのバランスを最適化しているという

 もう一系統のモニターは、3ウェイ・パワード・タイプのKS DIGITAL C88-Referenceだそう。

 「C88-Referenceは輸入代理店のスタジオイクイプメント様とのコラボ企画で現在設置しているものになります。8331AMとはまた違った方向性のサウンドを持っており、おいしい帯域をしっかり鳴らしてくれるスピーカーです。サブウーファー無しでも迫力のある低域を出すことができます。両者とも素晴らしいモニターなので、ぜひ体験してほしいです」

 これらはモニター・コントローラーのGRACE DESIGN M905で切り替えているそうだが、谷氏は「初めて試した瞬間、心底感動しました」と話す。谷氏はこう続ける。

 「それまでのモニター・コントローラーと比べ、音質の差は明らかでした。音像がより明瞭になり、センターの位置も非常に分かりやすくなったんです。価格は一桁上がりますが、これは高くない買い物だと思いましたね」

M905のリモート・コントローラー。10系統の入力から一つを選んでモニター可能で、スピーカー出力(XLR)は3系統を用意している

M905のリモート・コントローラー。10系統の入力から一つを選んでモニター可能で、スピーカー出力(XLR)は3系統を用意している

ラックには、上からチャンネル・ストリップのRUPERT NEVE DESIGNS Shelford Channel、パワー・ディストリビューターのTASCAM AV-P250S、オーディオI/OのLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(N)8、UNIVERSAL AUDIO Apollo X6、マスター・プロセッサーのSOLID STATE LOGIC Fusion、GRACE DESIGN M905のメイン・ユニットを格納する

ラックには、上からチャンネル・ストリップのRUPERT NEVE DESIGNS Shelford Channel、パワー・ディストリビューターのTASCAM AV-P250S、オーディオI/OのLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(N)8、UNIVERSAL AUDIO Apollo X6、マスター・プロセッサーのSOLID STATE LOGIC Fusion、GRACE DESIGN M905のメイン・ユニットを格納する

スタジオの角に設けられたボーカル・ブース。モニター・ヘッドフォンは、左からSONY MDR-7506、BEYERDYNAMIC DT 990 Pro、YAMAHA HPH-MT8を用意している。また写真では見えないが、SONY MDR-CD900STも備えている

スタジオの角に設けられたボーカル・ブース。モニター・ヘッドフォンは、左からSONY MDR-7506、BEYERDYNAMIC DT 990 Pro、YAMAHA HPH-MT8を用意している。また写真では見えないが、SONY MDR-CD900STも備えている

スタジオのメイン・マイクはSONY C-800G/9X。谷氏は「高域の解像度が非常に高いマイクです」と話す。これまでに、ボーカリストやラッパーだけでなく、VTuberや声優などのレコーディングを行っているそう

スタジオのメイン・マイクはSONY C-800G/9X。谷氏は「高域の解像度が非常に高いマイクです」と話す。これまでに、ボーカリストやラッパーだけでなく、VTuberや声優などのレコーディングを行っているそう

 このようにMake Hits Labには選りすぐりの機材が完備されている。オーディオI/Oについて、谷氏はこう語る。

 「24ビット/192kHz対応のLYNX STUDIO TECHNOLOGY Aurora(N)8と、UNIVERSAL AUDIO Apollo X6をユーザーの好みで選べるようになっています。Aurora(N)8は高精度のクロックを内蔵している点がポイントです。一方のApollo X6は、UADプラグインAntares Auto-Tune Realtime Advancedを使った二アゼロ・レイテンシーでのかけ録りが魅力です。UAD-2 Satellite Octo Coreを2基用意しているので、マシンに負荷をかけずに100種類以上のUADプラグインをご利用いただけます」

 最後に谷氏はこう話してくれた。

 「ビンテージ機材への憧れもありますが、誰が来ても一定のクオリティで簡単に扱えるスタジオというのを最優先に考えているので機材は厳選しています。現在、期間限定でポイントが2倍貯まるMEMBER'S CARD CAMPAIGNを実施中です。詳しくはMake Hits LabのWebサイトの“ABOUT”ページをご覧ください。これからも、このスタジオで制作される作品が多くの人々に感動や喜びを届けることができるよう、スタジオ作りに力を入れたいと考えています」

別室のワーキング・スペース。マネージャーや、関係者スタッフが事務作業をしたり、アーティストやメンバーが待機するための場所だという

別室のワーキング・スペース。マネージャーや、関係者スタッフが事務作業をしたり、アーティストやメンバーが待機するための場所だという

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