BAUHAUS|音響設備ファイル【Vol.73】

BAUHAUS|音響設備ファイル【Vol.73】

世界中からファンが訪れる老舗ロック・バー、BAUHAUS(バウハウス)が2022年5月から新店舗で営業を再開している。1981年の創業以来、六本木エリア内で3回目となる移転だったが、今回はコロナ禍により2年近くも閉店を余義なくされ、経営的に困難な時期にテナント更新も重なるという危機的状況を乗り越えての復活劇となった。それを可能としたのがクラウドファンディングだ。しかも国内はもとより、海外からも多くの支援が集まり、開始4日目にして最初の目標額を達成したという。今回は代表取締役の各務亨氏、PAを手掛ける山路 けーじぇい氏、そして設計/施工を手掛けたアコースティックエンジニアリングの入交研一郎氏に、リニューアルに至ったいきさつや新店舗の音響面についてお話を伺った。

ステージはプロが作るもの

 BAUHAUSはハウス・バンドが毎夜、ハードロックやヘビーメタルの名曲を全力で演奏するというロック・バー。バンド・メンバーは店舗スタッフも兼ねており、各務氏はドラム、山路氏はボーカルとベースを担当する。またインバウンド客が多いことでも有名だが、それゆえコロナ禍は経営を直撃した。「昼営業を試みてもなかなか厳しく、固定費がかさむだけなのでお店を閉めざるをえませんでした」と各務氏。

 「三密自体が売りのようなお店ですから、コロナ禍に入った直後から、いざとなったらクラウドファンディングしかないと思っていたものの、再開してもお客様に来ていただけるかどうか分からないので踏み切れなかったんです」

 しかし、テナント更新期限が近づいたある日、各務氏は決断する。そのときの様子を山路氏は次のように振り返る。

 「配信ライブのリハーサル終わりで、各務が“唐突なことを言うようで申し訳ないけど移転しようと思う”と言い出しまして。そうしたら、その場のみんなが“やりましょう!”って」

 各務氏は「どこに移転するかも言ってないのに、みんなが“する!”って。言い出した自分がびっくりしました」と笑う。このとき既に、お店のお客さんだったビル・オーナーから物件は紹介してもらっていたものの資金はなかったそうだ。

 「そこですごく悩みましたが、 “BAUHAUSはこの世に必要ですか?”と問いかけるような気持ちでクラファンに踏み切ったところ、本当にたくさんのご支援をいただくことができました。ボランティアの方々が英語のWebページで海外に発信してくださったことも大きかったと思います」

 支援金は1円も無駄にはできないため、前店舗の解体はスタッフのみで行い、リサイクルなどの工夫で処分費を抑えたそう。また新店舗の設計や施工は山路氏とかねてから親交があり、ギタリストでBAUHAUSでの演奏経験もあったアコースティックエンジニアリングの入交氏に依頼。「自分もハードロックが好きですし、どんな音を出す店かも分かっていましたから、遮音工事は完璧に行いました」と入交氏は語る。

 「ライブ・ハウスと同じように、天井や壁、床などすべて二重構造とし、躯体から防振ゴムで支持した完全なフローティング構造にしています。遮音が中途半端だと、PAでローカットせざるをえなくなり、満足な音を出せなくなりますからね」

 その成果について「すごい話があるんです」と各務氏。

 「上の階にビルの管理事務所があるんですけど、そこの方から“まだコロナの影響で営業できないんですか?”と言われたんですよ。でも、それは営業再開後のことで、音を出していることに全く気付かなかったそうなんです」

BAUHAUSとアコースティックエンジニアリングの皆さん。左から5番目がBAUHAUS代表取締役兼ドラマーの各務亨氏、その右からPA兼ボーカル/ベースの山路 けーじぇい氏、アコースティックエンジニアリングの入交研一郎氏、高野美央氏

BAUHAUSとアコースティックエンジニアリングの皆さん。左から5番目がBAUHAUS代表取締役兼ドラマーの各務亨氏、その右からPA兼ボーカル/ベースの山路 けーじぇい氏、アコースティックエンジニアリングの入交研一郎氏、高野美央氏

 さらに、当初はステージもスタッフで作りコストを削減する予定だったと各務氏。それに対して入交氏は「ほかの場所はともかく、ステージはプロに作らせてほしい」と申し出たそう。

 「ステージが華奢な構造だとキックのマイクがベース・アンプやサブウーファーの音を床の振動で拾ったりしてステージの中で低音域が回り、演奏者がきちんとモニタリングできなくなってしまいます。だから、ステージは重くて硬い面材で剛性の高い構造を作る必要があるんです」

 またステージの壁は後から調整できるように着脱式の吸音パネルを設置。面積的には6割を覆う程度の配置にとどめ、ドラム背面の壁にはタイルによる反射面も設けて、デッドすぎない空間を構築したとのこと。山路氏はこのステージ上の音について次のように絶賛する。

 「音の分離がすごく良くて、お互いの音がよく聴こえるので演奏しやすいんです。でも、なえてしまうようなドライな音場ではないんですよ。お客様がゲスト参加されたときも、皆さん口をそろえてやりやすいとおっしゃいます」

 一方、客席側は天井こそグラスウールで吸音しているものの、メイン・スピーカー周りの壁はグラスウールほど吸音しない木毛セメント板を採用。ほかの場所もあえて反射面を残しているという。各務氏によれば、「音響機材は前の店舗と同じなのに、常連の方からは過去4店舗の中で一番音が良いと言っていただけています」とのこと。

ステージ。所狭しとギター・アンプやベース・アンプが並び、いつでも演奏を始められるように楽器もセッティングされている。アンプ類の後ろには要所に吸音パネルが配置されており、ドラムの背面部分にはタイルによる反射面も設置。的確なモニタリングが行えるように吸音しつつも、適度な響きを残して、演奏しやすくモチベーションも上がるアコースティック調整が施されている

ステージ。所狭しとギター・アンプやベース・アンプが並び、いつでも演奏を始められるように楽器もセッティングされている。アンプ類の後ろには要所に吸音パネルが配置されており、ドラムの背面部分にはタイルによる反射面も設置。的確なモニタリングが行えるように吸音しつつも、適度な響きを残して、演奏しやすくモチベーションも上がるアコースティック調整が施されている

コンソールはBEHRINGER X32。音響機材はすべて前店舗のままだそう。左の照明卓前にあるMIDIキーボードには照明のエフェクトがアサインされており、リズムに合わせてライティングを切り替えることができる

コンソールはBEHRINGER X32。音響機材はすべて前店舗のままだそう。左の照明卓前にあるMIDIキーボードには照明のエフェクトがアサインされており、リズムに合わせてライティングを切り替えることができる

メイン・スピーカーはELECTRO-VOICE TX2152(上段)、サブウーファーはTX2182(下段)

メイン・スピーカーはELECTRO-VOICE TX2152(上段)、サブウーファーはTX2182(下段)

パワー・アンプはDYNACORD L3600FD×2台(上のラック内)とQSC GX7×3台(下のラック内)

パワー・アンプはDYNACORD L3600FD×2台(上のラック内)とQSC GX7×3台(下のラック内)

フロア・モニターはELECTRO-VOICE ELX115(手前)とTX1152FM(奥)

フロア・モニターはELECTRO-VOICE ELX115(手前)とTX1152FM(奥)

配信ではエア・マイクを活用

 BAUHAUSは現在、動画配信に注力しており、4台のカメラのほか、OBS PROJECT OBS StudioやBLACKMAGIC DESIGN ATEM Software Control用のコンピューターを用意。ステージ斜め上の天井近くには大型ディスプレイを設置し、演者と視聴者の双方向コミュニケーションを試みているとのこと。さらに、山路氏は配信の音にも工夫を重ねている。

 「PAと演者を兼ねているので、配信用ミックスを別途用意するのは難しいためエア・マイクを活用しています。各チャンネルを配信用バスにまとめ、プリフェーダーでOBS Studioに送ると、ギター・ソロを上げたりといったミックスはFOHにだけ反映され、配信の音にはエア・マイクを通じて加わります。そのためラインとエア・マイクは6:4くらいのバランスにしています。またOBS Studio上ではIK MULTIMEDIA T-Racksで薄くマキシマイザーをかけていて、これは単にバランスが良いだけだと、ハードロックなどのジャンル的にはお客様が冷めてしまうという判断からです。ただ音圧を上げすぎても演奏のダイナミクスを損ねてしまい聴きづらいので、かける量は何度も試行錯誤しました」

 この努力が実り、配信のチャット欄で“音が最高”と評されることもあるそうで、「配信を来店モチベーションにもつなげていきたい」と山路氏。最後にオススメ・メニューを各務氏に伺ってみたところ、「例えば、バウジントニックなどいかがでしょうか。ジュニパーベリーというハーブをお店で配合しているんです」とのこと。パイ生地のピザをはじめフード・メニューも充実したBAUHAUS。ロックを全身に浴びたくなったら、ぜひ六本木に足を運んでみてほしい。

天井に取り付けられたエア・マイク、BEHRINGER C-2。配信用のミックスで活用されている

天井に取り付けられたエア・マイク、BEHRINGER C-2。配信用のミックスで活用されている
中小企業庁による事業再構築補助金に採択されたことを機に視聴者とコミュニケーションが取れる双方向配信事業を推進しているとのことで、店内には4台のカメラを設置。上の写真はいずれもBLACKMAGIC DESIGN Blackmagic Studio Camera 4K Plus。このほかにBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kが用意されている

手前の映像スイッチャーはBLACKMAGIC DESIGN ATEM Television Studio Pro 4K。コンピューターには動画配信ソフトのOBS PROJECT OBS Studioやスイッチング/コントロール・ソフトのBLACKMAGIC DESIGN ATEM Software Controlをインストール。配信にはハードウェア配信エンジンのBlackmagic Web Presenter 4Kを使用しているとのこと

手前の映像スイッチャーはBLACKMAGIC DESIGN ATEM Television Studio Pro 4K。コンピューターには動画配信ソフトのOBS PROJECT OBS Studioやスイッチング/コントロール・ソフトのBLACKMAGIC DESIGN ATEM Software Controlをインストール。配信にはハードウェア配信エンジンのBlackmagic Web Presenter 4Kを使用しているとのこと

ステージ前方の天井に設置されたディスプレイ。配信時のチャット画面表示やZoomを利用した双方向コミュニケーションなどに活用

ステージ前方の天井に設置されたディスプレイ。配信時のチャット画面表示やZoomを利用した双方向コミュニケーションなどに活用

客席後方にはサブステージとしても使えるように一段高くなっているエリアがある。ここは山路氏のDIYにより作られたとのこと

客席後方にはサブステージとしても使えるように一段高くなっているエリアがある。ここは山路氏のDIYにより作られたとのこと

テーブルは半円形になっているが、これは山路氏のアイディアで、自ら加工も行っているそう。カーブ側に座ってもらうことで、直線側を導線に利用するための策で、2卓を合わせて円形テーブルとしても使える

テーブルは半円形になっているが、これは山路氏のアイディアで、自ら加工も行っているそう。カーブ側に座ってもらうことで、直線側を導線に利用するための策で、2卓を合わせて円形テーブルとしても使える

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