2022年4月、東京タワー内にオープンした複合施設、RED° TOKYO TOWER。XR映像システムを活用したイベント・スペースや、eスポーツをはじめさまざまなアトラクションが楽しめるゾーンを備え、新たなエンターテインメント体験を提供している。
撮影◎小原啓樹
RED° TOKYO TOWERの特徴を語る上で注目すべきポイントの1つは音。3Dサウンド・デザイナーの瀬戸勝之氏によって、ロビー、エントランス、エスカレーターといった動線から、ラウンジ、イベント・スペースにいたるまでトータルの音響がデザインされているのだ。
「設計段階から設計士の方と話し合いながら、音響面の監督としてプランニングしていきました。まず、どこにいても均等にいい音で聴けることが基本です。それに加え、サプライズとして次世代の3Dサウンドを楽しんでもらえたらと思っています」
瀬戸氏がそう語るサウンド・デザインのために設置されたスピーカーは実に236本。そのうちの161本はTANNOYの製品が選ばれている。その選定理由について「まず僕の中でブランドとしての信頼度が高い」とし、こう続けた。
「際立った特徴として、高周波の音が出せることが挙げられます。僕は、たとえシーリング・スピーカーでも良い音を出したいと考えていて、そのために、音のコンテンツを作るときにもDSDで収録したり、高周波が録れる自作のマイクを使ったりしています。システムを考えるときも“ハイサンプリングの音源が再生できること”を心掛けていて、それに合うスピーカーがTANNOYにはあるのです」
例えば、通路に設置されたシーリング・スピーカーCMS 503DC BMの周波数特性は74Hz〜54kHz。高周波の再生に対応していることが分かる。瀬戸氏は、心理学者や脳科学者とともに、高周波や超低周波といった可聴域外の音が人体に与える影響を研究しており、その考えを音響システムのプロデュースにも生かしているのだ。 なお、RED° TOKYO TOWERのTANNOYスピーカーはすべてLAB.GRUPPENの2chアナログ・アンプ、CA1202とCA602で駆動している。こちらも合わせて81台に上る。
3Dサウンドの体験はエントランスから始まる。鳥居のトンネルをイメージさせる連続した門型オブジェと玉砂利に囲まれ、LEDディスプレイの通路を進む。スピーカーはオブジェの外側にある。150cmの高さにAMS 5ICTを12台設置、床置きでAMS 5ICTを11台、ADAM AUDIOのサブウーファーと交互に設置されている。
「LEDディスプレイに表示される映像の動きに合わせて音が連動するようになっています。上下、左右、前後の音の動きが体験できます」
低い位置にスピーカーを設置することで、従来のサラウンドにはない縦の動きを表現でき、より立体的にポイントが作れるようになるという。これは瀬戸氏のプランニングでも重要視されている点だ。
「例えば、風が吹いている中、下の方で虫が鳴いている、上の方で鳥が鳴いているというような演出が可能になります」
エントランスを抜けた先に広がるラウンジにも、低い位置にスピーカーがある。スペースの中央に設けられている白いテーブルの下にAMS 5ICTが4台設置されているのだ。天井には碁盤の目状にAMS 8DCが18台設置されており、エスカレーターに向かう通路側の天井にはAMS 5ICTが10台設置されている。ラウンジには巨大なLEDディスプレイがあり、IMAGICA EEXが制作した映像に合わせて瀬戸氏がプロデュースした3Dサウンドが展開される。
最上階にはRED° TOKYO TOWER SKY STADIUM(以下、SKY STADIUM)というイベント・スペースが設けられている。大型4面LEDディスプレイを備えるほか、XR映像システムVizrtを用いるなど、リアルのイベントとXR映像配信が行える空間だ。使用スピーカーの数は120本。TANNOYは天井に碁盤の目状でAMS 6DCを26台設置、壁面下部にAMS 5DCが28台設置されている。
「SKY STADIUMは、フロア内のどこに行ってもリスニング・ポイントがある状況を作りながら、全体のサラウンドを組んでいます。フロアを8つのゾーンに分けていて、それぞれ個別にサラウンドを作ることもできるし、ゾーンをまたいで音を動かすこともできる。もちろん全体で1つのサラウンド空間にもできます」
瀬戸氏の言う「次世代の3Dサウンド」は、こうした桁違いのスピーカー・システムから生み出されている。解像度の高い音質とともに、ぜひ体験してほしい。
主な使用機材
- コンソール:Avid VENUE|S6L-48D、VENUE|S6L-24C
- スピーカー:TANNOY AMC 6 ICT×8、AMS 5 ICT×48、AMS 8DC×18、AMS 6DC×26、AMS 5DC×28、CMS503DC BM×2、CVS301×18、OCV6×13
- アンプ:LAB.GRUPPEN CA1202×72、CA602×9
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2023年改訂版』より転載しています。
1980年代より、長年にわたって全国の専門学校等で教科書としてご採用いただいている音響/映像/照明の総合解説書『音響映像設備マニュアル』。2年振りとなる本改訂版では、随所を最新情報にアップデートしました。