1997年に発売されたPlayStation用ソフトウェア『ファイナルファンタジーⅦ』。その発売から23年となる今年4月に、オリジナル・ストーリーを加えたリメイク作品『ファイナルファンタジーⅦ リメイク』(以下FFⅦリメイク)が発売されることとなった。リメイクに伴い、サウンド面では、オリジナル楽曲のアレンジのほか、書き下ろしの新曲が追加されている。本作で音楽を手掛けた中心人物の一人がスクウェア・エニックスのコンポーザー鈴木光人だ。後編ではビクタースタジオで行われた金子飛鳥率いるAska Stringsによる大編成のセッションの様子を中心に、鈴木に語ってもらった。
Photo by Ryo Yamazaki, Nozomi Toki, Mitsuto Suzuki
鈴木光人
STRINGS RECORDING
現代の音像を持つトラックのすき間に
ストリングスが見事に絡み合う
バイオリン奏者の金子飛鳥さんには、ストリングス・アンサンブルのアレンジを6曲、そのほかにエレキバイオリン&アコースティックのバイオリン・ソロをお願いしました。アンサンブルは飛鳥さん率いるAska Stringsです。飛鳥さんとやるときは、先に編成を決めず、飛鳥さんがアレンジを詰めながら臨機応変に決めていきます。今回はある程度大きい編成の方が面白そうという話はしていたのですが、結局は総勢23人の8-6-4-4-1編成になりました。飛鳥さんとはここ10年、年に1度くらいのペースで一緒に仕事をさせてもらっていますが、今回の編成が一番大きかったですね。飛鳥さん自身もこれだけの編成は久しぶりだとおっしゃっていました。
Aska Stringsは、飛鳥さんのアレンジをはじめ演奏内容もかなり高度。基本はプレイバックでの確認はせずに、録ったらそのまま次に行くような感じで、すごい速さで進みます。しかも録りながらその場でいろいろ変わっていくので、最終形態は実は僕にも分からないんです。そして一つ言えることはライブ要素を含むレコーディングはとても刺激的です。シーンに合わせて尺が決まっている曲だと、後からエディットする余地はありません。しかも、僕自身がトラックにいろいろな音を入れている。でも飛鳥さんがすごく細かく作り込んでいるからトラックのすき間にストリングスが見事に絡み合うんですよね。飛鳥さんに依頼するときは、とにかく曲が良い感じに育つ方向性を委ねます。想像以上のものが来るので、自由度を求めて、出てくるものを楽しみにしてお願いしています。なくてはならないパートの一つです。
MIXING AND MASTERING
僕が担当しているキラー・チューンは
すごく変わったバランスで成り立っている
『FFⅦリメイク』に関して、実際の音楽制作は1年半くらい前から始めましたが、その時点で流行しているスタイルでやっても、ゲームが出るころには時代遅れになってしまいます。もちろん現代的なサウンド処理やリズムは意識しますが、アレンジはあまり流行に寄せたりしないよう心掛けました。今回僕が担当しているキラー・チューン的な曲は、時代が入り混じったバランスですべてが成り立っていて、それをゲームと合わせたときにユーザーが聴いたらどう思うかな?という楽しみはあります。『ファイナルファンタジー』の世界はさまざまな要素が絡み合っているので、いろいろなバランスができるのが作り手の面白いところでもありますね。
ミックス・エンジニアは、松田正博さんと新保正博さん。Aska Stringsの録音は青柳延幸さんで、とても繊細なマイク・アレンジなのに録り音にすごくガッツがありました。
今回、海外版に同梱されるCDのマスタリングを先行して12月に行いました。その中の1曲はファズが炸裂する曲で、ほかは僕以外のコンポーザーによる泣かせる曲や荘厳な感じの曲が多くて。どういったバランスにまとまるのか楽しみと不安が同居していたのですが、『FFVIIリメイク』という作品に対する共通認識なのか、良い具合にまとまるんですよね。もちろん選曲の妙や、マスタリング・エンジニアの小泉由香さんの腕もありますが、一緒に仕事をしている人たちみんなでリメイクしていると、あらためて思いました。
現代は一人で音楽制作を全部完結することもできますけど、僕自身はそれだと予定調和で面白くない。飽きちゃうんです。だから自分に無い要素や、魔法が起こる瞬間を捕まえる。そのためになるべく多くの人とセッションして、レコーデ
ィングをしています。たまたま周りにとがった人が多いからできるんですけどね。今回は『FFVIIリメイク』の制作を例にしていますが、実は弊社のサウンド・チームにもそういう作り方をする人はあまり居ないし、時間もかかります。決して楽な方法ではありませんが、苦労した分だけ得るものがあると思っています。
『FFVIIリメイク』も多くの人がかかわっていますが、僕のパートで自由な作り方ができるのは、ほかのアレンジャーやコンポーザーが基本ラインを押さえてくれているからです。作品全体ではそのバランスがバラけるほど面白いし、僕は作品に幅を持たせる部分を求められているので、全力で応えようと思って取り組んでいます。泣かせるとか、熱くさせるとか、そういうシーンに求められる音楽と、僕が担当している音楽は少し異質な形だから、“薬”であれば“毒”でありたい、その中で光ればいいなぁと思っています。
VICTOR STUDIO 301
『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』
スクウェア・エニックス
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CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI
LOGO ILLUSTRATION:Ⓒ1997 YOSHITAKA AMANO