1997年に発売されたPlayStation用ソフトウェア『ファイナルファンタジーⅦ』。その発売から23年となる今年4月に、オリジナル・ストーリーを加えたリメイク作品『ファイナルファンタジーⅦ リメイク』(以下FFⅦリメイク)が発売されることとなった。リメイクに伴い、サウンド面では、オリジナル楽曲のアレンジのほか、書き下ろしの新曲が追加されている。本作で音楽を手掛けた中心人物の一人がスクウェア・エニックスのコンポーザー鈴木光人だ。前編では、ボストンのQディビジョン・スタジオにて敢行されたボーカル・レコーディングについて、鈴木に語ってもらおう。
Photo by Ryo Yamazaki, Nozomi Toki, Mitsuto Suzuki
鈴木光人
VOCAL RECORDING
「蜜蜂の館」はバーレスクをイメージしつつ
現代的なサウンド・デザインを目指す
原作の『FFVII』には「蜜蜂の館」というダンス・シーンがあり、リメイクでもこのシーンがあります。そこでの楽曲のボーカリストを決めるまでには数カ月かかりました。世界同時リリースなので英語という必須条件があって。そのほかチームの希望条件をまとめてボーカリストを探し始めました。
このシーンの音楽は、制作チームからのオーダーに具体的なイメージがありました。バーレスク……日本で言うと1970年代のキャバレーのような雰囲気の中で聴こえてくる歌というものです。ただ、ファイナルファンタジーは架空の世界なので、やはり現代的なサウンド・デザインが必要。そうなるとダンス・ビートはある程度出てくるので、ハウス系のサウンドに対応できるボーカリストを探しました。最初は東京から始まり、ロンドンやカナダ、LAのアーティストにもアプローチしましたね。やり取りはすべてサウンド・チームの土岐望に任せていたのですが、最終的にはボストン在住のアル・コープランドさんという女性シンガーにオファーしました。サンプルでいただいたアルバムがすごく良くて。自分が作ったトラックに彼女のボーカル素材を乗せて聴いて、これでいけるなと。やっぱり最初の感触は大事ですからね。
そのコープランドさんのボーカルを、彼女が拠点とするボストンで録音することになりました。スタジオの選定については、小さなプロジェクト・スタジオではなく、中規模の良いスタジオを出してほしいと依頼。ボストンがバンド・ブームだった1980~90年代に使われていたスタジオを調べたら、その一つが今回録音を行ったQディビジョン・スタジオでした。古いNEVEの卓が入っているし、何より雰囲気が良かった。しかもクライアントのリストにピクシーズが入ってて、もう即決でした(笑)。やっぱり僕らの気持ち的にも付加価値が出た方がいいので、ここで録ってみることに決めました。
レコーディングのとき、もともと僕はあまり細かい指示まで出すことは少ないです。今回は、コープランドさんに主旋律の譜面と、土岐の仮歌とシンセのメロを入れたデモだけ渡しました。あえてあまり情報や要望を出さずにその場でやろうという意図です。現地でコーディネートをしてくださった金坂征広さんが、“こんな感じでやりましょうか”と提案してくれるタイプの人だったから、すごくやりやすかったですね。もちろん僕の中でも明確な判断基準があるのですが、良い方向に変わるのは歓迎です。録音の進め方は結構体育会系な感じ。数本歌って決めるというレベルではなくて、千本ノック級に何回も録ってコープランドさんののどが心配になりましたが、最終的には素晴らしいテイクが録れました。
現地のエンジニアは、録りながら歌い方によってコンプの設定をバシバシ変えていたのが面白かったです。ハモリではメインのパートの設定から少し変えて、フェイクは思いっきりコンプレッションしたりとか。ある程度録音段階で設定を決めてくれたので、最終的に持ち帰ったのはメイン2本とL/C/Rのハモリ、それとダブルというような感じでした。“その場に集まったメンバーだからこうなった”という結果が欲しくてやっているので、一番良い雰囲気が出ているテイクを使えば、そんなに本数は要らないと思います。
Q DIVISION STUDIOS
『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』
スクウェア・エニックス
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CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI
LOGO ILLUSTRATION:Ⓒ1997 YOSHITAKA AMANO