西本智実&イルミナートフィルハーモニーオーケストラ @ グローバルリング シアター【コンサート見聞録】

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池袋西口公園に誕生した野外劇場のグローバルリング シアター。YAMAHAの音場支援システムAFCが使われた音響の下で、西本智実&イルミナートフィルハーモニーオーケストラの公演が開催された。音響スタッフの話とともにAFCシステムの真価に迫ってみよう。

Tokyo Music Evening Yube
DATE:2020年11月1日(日)
PLACE:池袋西口公園野外劇場 グローバルリング シアター
TEXT:今井悠介 PHOTO:小原啓樹

 

その空間が持つ響きを増幅させるAFC
演目に合わせて響きを変えられる

 池袋西口公園にあるグローバルリング シアターは、2019年にリニューアル・オープンした野外劇場。コンサートや演劇、ダンスなどの演目に対応するステージを持ち、広場中央の噴水を囲むように8chサラウンド・システムが構築されている。このグローバルリング シアターの音響を支えているのが、YAMAHAの音場支援システム=AFC(Active Field Control)。空間の響きの長さや広がりを自然に変化させることができる技術で、野外でもホールのような残響を得ることが可能になっている。グローバルリング シアターでは、クラシック・コンサートを楽しめるプログラム“Tokyo Music Evening Yube”が定期的に開催されており、響きが重視されるオーケストラではこのAFCが重宝されているようだ。11月1日に行われた、西本智実&イルミナートフィルハーモニーオーケストラの公演におもむき、AFCがどのようにコンサートで活用されているのかスタッフへ話を聞いた。

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グローバルリング シアターのステージ全景。当日はステージ上に弦楽器や打楽器、木管楽器が位置し、2階のバルコニーに金管楽器という配置になっていた。ステージの上部には大型のディスプレイがあり、演奏の様子が映し出されて道行く人にも見えるようになっている。ディスプレイの左右にはメイン・スピーカー、ステージ横にある黒い柱にはサラウンド用のスピーカーがスタンバイ

 まずはAFCがどのようなシステムになっているのか、YAMAHAの橋本悌氏に解説していただこう。

 

 「電気音響と信号処理の技術を使い、空間そのものの音響特性を変えるシステムです。主に残響を変化させます。日本には多目的ホールと呼ばれる場所がたくさんありますが、行われる演目によって適した響きは変わってきます。同じ空間でもいろいろな用途に対応できるように考えて生まれたのがAFCです」

 

 AFCの信号処理を行うのは専用のプロセッサー。「リバーブのような仕組みとは違っています」と話すのは、YAMAHAの高橋顕吾氏だ。

 

 「リバーブは別の空間の信号を加えるものですよね。しかし、AFCはその場所の響きを増幅させて残響を調整します。そのため、音場再現でなく“音場支援システム”と謳っているのです」

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AFCのコアであるプロセッサー。グローバルリング シアターにはAFC3というモデルが導入されているが、現在は最新のAFC4が登場している。グローバルリング シアターでは、PAミキサーからの2ミックスも入力できるように、シグナル・プロセッサーYAMAHA MXR7-Dでマトリクスを組んで対応しているが、AFC4では標準で2ミックス(ライン入力)が受けられるようになったとのこと

 具体的なセットアップについて、橋本氏がこう続ける。

 

 「演奏者の近い位置に指向性のあるマイクを、遠い位置に無指向性のマイクを設置するのが基本です。どちらのマイクで収音された音もAFCで処理されますが、指向性のあるマイクの音は初期反射音としてステージに向いたスピーカーから、無指向性マイクの音は残響音用として天井に配置された幾つものスピーカーから再生します。天井のスピーカーからの再生音は再度無指向性マイクで収音され、音響フィードバックを発生させます。その空間の反射音が何度もAFCによって処理されることで、自然さを保ったまま響きを増幅することができるのです」

 

 しかし、これらはあくまでホールなど屋内空間での使用を考えた基本的なセットアップ。橋本氏によると、野外劇場であるグローバルリング シアターにおいては、また違った設計になっているそうだ。

 

 「ステージの天井に8本のマイクが用意されています。それらで収音した音をAFCでプロセッシングして響きを加え、メインのL/Rと円形に並んだスピーカーから再生する設計です。また、PAでの2ミックスをAFCに送れるようにライン入力系統も用意しました。グローバルリング シアターは野外でそもそも響きがほとんど無いので、AFCもリバーブに近い使い方になっています」

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ステージの天井には、AFC用マイクのAUDIX SCX1HCが8本つられていた。このマイクで拾った音をAFCプロセッサーで処理してスピーカーから再生する

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メイン・スピーカーは小型ラインアレイのNEXO GEO M10。L/Rで6本ずつセットされている

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グローバルリング シアターの後方。会場を囲うリングを支える柱部分にサラウンド・スピーカー用のONE SYSTEMS 108.HTHが2本ずつ配置されている。メイン・スピーカーを合わせた計8chのサラウンド・システムだ

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YAMAHA音響事業本部 プロオーディオ事業部 空間音響グループの橋本悌氏(写真左)と高橋顕吾氏(同右)

より自然な響きを得るため
天井マイクとPAの2ミックスを混ぜた

 公演でPAを担当したのはFaithの須藤健志氏。当日のAFCの設定について伺った。

 

 「西本さんの公演は9月に1度行いました。そのときはPA卓の2ミックスのみをAFCで処理して再生する、という形を採りましたが、今回はより自然な響きを得るために天井のマイクも使っています。AFCで処理された2ミックスと天井のマイクの音がじわっと混ざっていくイメージです。野外なのに響きが生まれるという不思議な空間が作れるのは面白いですね」

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PAを担当したFaithの須藤健志氏

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PA卓はYAMAHA QL1を使用。配信用のミックスにはTF1が用意されていた

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バイオリンの前に立てられたAKG C414B ULS。弦セクションにはC451Bもセットされていた

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木管楽器セクションに立てられていたSHURE KSM137

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金管楽器の持ち場にはSHURE SM57がスタンバイ

 リハーサル中、須藤氏はAFCのパラメーター設定をAPPLE iPadから行っていた。Wi-Fi経由でネットワーク接続することで、AFCプロセッサーの設定をリモートで操作することができるようだ。

 

 「初期反射音や残響音、直接音、そしてAFC自体のオン/オフができ、ボリュームも操作可能です。また、プリセットとしてConcert HallとCathedralの2つを用意してもらっていて、その日の演目に合わせて変えたりしています。使い方に正解は無いので、まだいろいろと試している段階ですね」

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AFCのパラメーターはAPPLE iPadからリモート・コントロールできる。プリセットによる設定のリコールや、初期反射音や残響音のレベルを個別に調整可能

 リハーサルを終えた西本智実にも話を聞くことができた。指揮者として、AFCで作られたオーケストラの響きはどのように感じたのだろうか?

 

 「地面から響くというよりは、少し宙に浮いたところが響くような印象を受けました。それも新鮮で、とても心地良いです。何より素晴らしいのは、野外にもかかわらず別の空間にいるようなサウンドを、演奏者や観客の方々だけでなく、道行く人たちも含めてみんなで一緒に体験できること。音で瞬間移動ができる可能性を感じました。AFCを使った公演は今回で2度目ですが、今度は深い洞窟のような響きの中での演奏も体験してみたいですね」

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指揮を担当した西本智実。イルミナートフィルハーモニーオーケストラでは、彼女が芸術監督と首席指揮者を務めている

MUSICIAN
西本智実(conductor)、イルミナートフィルハーモニーオーケストラ

STAFF
主催:豊島区
PA:Faith

 

illuminartphil.com

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