こんにちは、三浦康嗣です。今回はクリスマスの定番曲、「ウィンター・ワンダーランド」をオーケストラ音源でアレンジしたときのことを書いていきたいと思います。
インタラクティブな仕掛けを音楽で盛り上げる
以前、あるアパレル・ブランドのクリスマス・イベント用楽曲を毎年制作していたのですが、今回ご紹介する「ウィンター・ワンダーランド」もその一環で手掛けたものです。その年は、ビルの壁面にインタラクティブな花火の映像をプロジェクション・マッピングするという趣向でした。参加者は魔法のつえ的な役割のスティックを渡されて、それを壁に向かって振ると花火が打ち上がる映像と音が流れるという仕掛けです。これを音楽と連動させようという企画で、プロジェクト・チームのメンバーと話し合った結果、オーケストラによるアレンジがよいということになりました。
それまで本格的なオーケストレーションを行ったことはなかったのですが、まずはNATIVE INSTRUMENTS Kontakt用のオーケストラ音源、Symphony Series - Collectionを用意するところから始めました。
この音源にはString Ensemble、Brass Ensemble、Woodwind Ensemble、Percussionなどが含まれていて、ストリングスは60人、ブラスは32人、木管は36人といういずれも大きな編成。豊かな響きがありつつ、芯のあるサウンドも出るので、響きが散漫になりやすい屋外でも、しっかりと鳴らせます。
メロディの構成は、最初にブラス&木管、次にグロッケン、シロフォン、ビブラフォン、ティンパニなどのパーカッション、そして最後にストリングスという3つのセクションで順番に2回演奏していくことにしました。これに合わせて参加者も3組に分かれてもらい、最初はブラス&木管のチーム、次にパーカッションのチーム、最後はストリングスのチームといった具合にそれぞれが音楽に合わせてスティックを振って花火を打ち上げ、最後は全チーム同時に、といった趣向です。
各セクションは、メロディを打ち込んだ後に、ハーモニーやオブリなどを足していく形でアレンジしました。主旋律にいろいろなフレーズを足していく中で、和音が聴こえてくるという作り方です。またメロディに関しては、ブラス&木管は最初にホルンとクラリネットから始まって、音域によって楽器がころころ変わるようにしました。使用したのはバスーン、オーボエ、フルート、チューバ、トロンボーン、トランペットなど。パーカッションに切り替わったら、最初はティンパニ、グロッケン、シロフォン、ビブラフォンが一斉に鳴り出します。これは楽器が変わったことを印象付けるためで、その後は各楽器が主旋律を演奏していきます。そして、そのパーカッションの雰囲気を受ける形で、ビオラとチェロがピチカートの演奏で主旋律を引き継ぎ、後半はレガートのバイオリンが入ってくるという流れにしました。
このオーケストレーションでまずポイントとなったのは、音量のオートメーションでした。
最初にミニマムとマックスの値を決め、その間をペンシル・ツールで書いていったのですが、今から思えば、もっと抑揚をつけたほうが、よりオーケストラ感が増したのではないかと思います。しかし、屋外で鳴らすことや、ほかに花火の音などが鳴ることも考えて、あまり小さくはできなかったという事情がありました。
編集モード切り替えとソロセーフの活用方法
この曲では、冒頭でイベント参加者全員が練習するためのセクションを設けたり、主旋律を取る楽器の順番を入れ替えて試してみたり、途中にブレイクを入れて緩急を付けたりと、各セクションをどのように並べていくかという構成作りもポイントとなりました。そんなセクション構成の試行錯誤では、普段からGRIDモードとSHUFFLEモードという2つの編集モードを使い分けています。
通常はクリップがグリッドに吸着するGRIDモードを使用していますが、構成を入れ替える場合は対象範囲のトラックを全選択してコピーした後に、挿入したい位置にカーソルを置き、F1キーを押してSHUFFLEモードに切り替えてからペーストします。
SHUFFLEモードはクリップ同士がぴったりくっつくので、直前のクリップとの間に隙間が空くことを防げます。その後、GRIDモードに戻したいときはF4キーを押せばOKです。
SHUFFLEモードやGRIDモードのほかにも、ファンクション・キーのショートカットは便利な機能が多いので、覚えておいて損はありません。特にF5のズームやF10のペンシルは多用するツールです。また、F6のトリム、F7のセレクタ、F8のグラバーの3つを使いこなせるようになると作業が確実に速くなります。
この3つ(あるいは2つ)は同時に押すと、クリップの上半分でセレクタ、下半分でグラバー、左右両端下半分でトリムになります。Pro Toolsユーザーの方は、この3つ同時押しの状態をデフォルトとする派も多いのではないでしょうか。筆者は以前、この3つをショートカットで切り替えて使っていましたが、現在は同時押しの状態で使っています。しかし、知り合いのエンジニアはショートカットで切り替えて使っており、いったん体になじむとその方が素早く操作できるそうです。
もう一つ楽曲制作でよく使うのがソロセーフです。
通常、あるトラックをソロにした場合、ほかのトラックはミュートされますが、ソロセーフにしておいたトラックだけはミュートされません。例えば、この「ウィンター・ワンダーランド」では、クリスマス曲らしくスレイベルが“シャンシャンシャンシャン”とリズムを刻んでいます。そこで、特定のトラックをソロにして聴く際にも、リズムを確認するためにスレイベルだけはソロセーフにしてミュートされないようにしていました。ソロセーフにするには、Macであればcommand+ソロ・ボタンをクリック、WindowsならControl+ソロ・ボタンをクリックするだけです。
また、このソロセーフはマルチティンバー音源を使用する際にも必要です。音源をインサートしたインストゥルメントトラックと各パートを鳴らすための複数のMIDIトラックがある場合、インストゥルメントトラックをソロセーフにしておかないと、どれか一つのMIDIトラックをソロにしたい場合、インストゥルメントトラックもミュートされてしまいます。
さて、来月は最終回。声のみを使って制作した楽曲についてご紹介する予定です。お楽しみに。
三浦康嗣(□□□)
【Profile】□□□主宰。スカイツリー合唱団長。□□□のほぼ全ての楽曲の作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱・トラックメイクを手掛けている。2023年1月には初のソロ・シングル『Sundaynight』をリリース。現在、立体音響スタジオの設立に向けて動いており、2023年中の完成を目指している。「サウンド&レコーディング・マガジン」のYouTubeチャンネルでは、Pro Toolsでのフィールド・レコーディング素材を使った曲作りのセミナー動画を配信中。
【Recent work】
『Sundaynight』
三浦康嗣
【動画セミナー】
『Pro Toolsでフィールドレコーディング素材を使ったトラックメイク』
AVID Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:13,900円|Pro Tools Studio:41,900円|Pro Tools Ultimate:83,900円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools Ultimate搭載の機能を継続して利用可能
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15.7以降、M2/M1および INTEL Dual Core I5以上
▪Windows:Windows 10以降、64ビット INTEL Core I3 2GHz以上
▪共通:8GB RAM