Pro ToolsでのNatural Lag「What Time」のアレンジ工程 〜前編〜|解説:MEG.ME

Natural Lag「What Time」のアレンジ工程 〜前編〜|解説:MEG.ME

 こんにちは、音楽クリエイターのMEG.ME(めぐみー)です。今月から全4回にわたり、Avid Pro Toolsを使用した私の実際の作編曲の様子を通じて、その魅力とテクニックをご紹介していきますのでよろしくお願いいたします!

デモのボーカルトラックからMIDIデータを抽出してガイドメロディに

 Pro Toolsとの出会いは十数年前。私は、当時から現在に至るまで、ゼロイチの作曲から編曲、そして納品までをほぼすべてPro Toolsで行なっています。レコーディング、ミックス、マスタリングツールとして優れたPro Toolsですが、制作においても素晴らしく、近年追加された機能により、打ち込み作業も格段に効率アップしました。

 第1〜2回は、編曲を担当させていただいたNatural Lagの「What Time」という楽曲の編曲工程を見ていただこうと思います。なお、バンド曲ですのでメンバーが担当するドラム、ベース、ギターは差し替え前提で進めていきます。

 まずPro Toolsを立ち上げますが、その際のセッションファイルは、すぐに作業ができるようにあらかじめ作ってある編曲用テンプレートを使用します。

編曲用テンプレートの一部。ダンス系やポップス系など、楽曲ジャンルに応じて複数用意している。なお、この曲では、エンジニアの方とのデータのやり取りを含め、全工程でPro Toolsを使用している

編曲用テンプレートの一部。ダンス系やポップス系など、楽曲ジャンルに応じて複数用意している。なお、この曲では、エンジニアの方とのデータのやり取りを含め、全工程でPro Toolsを使用している

 こうしたテンプレートは曲のジャンルによって常に数種類用意していて、この曲ではストリングスが入ったバンドサウンドのテンプレートを選びました。マスター、クリック、メロディ、ドラム、コード、ピアノ、ベース、ストリングスなど必要と思われるトラックを用意してあり、各トラックにはよく使うプラグインもインサートしてあります。もちろん、制作の過程でプラグインは適宜変更していきます。

ストリングス入りのバンド系編曲用テンプレートを開いたところ。上からクリック、メロディ、ドラム、ベース、基本コード、ピアノ、ソロ音色のバイオリン×2/ビオラ/チェロ/ダブルベース、そしてアンサンブル系のバイオリン×2/ビオラ/チェロと並ぶ。その下はストリングスをまとめるためのAUXトラックでBus 1-2の信号を受け取るように準備されている。さらにその下はセンド&リターン用のAUXトラックで、ディレイのWAVES H-DelayとリバーブのVALHALLA DSP ValhallaRoomを用意。そのほか、各トラックにはギター用にNATIVE INSTRUMENTS KONTAKT Factory Library 2のRock Guitar、ソロ系ストリングスにはBEST SERVICE EMOTIONAL VIOLIN/VIOLA/CELLO、アンサンブル系ストリングスにはNATIVE INSTRUMENTS SESSION STRINGS PRO 2の各音源をインサート。もちろん、制作の工程では必要に応じてプラグインを入れ替えていく

ストリングス入りのバンド系編曲用テンプレートを開いたところ。上からクリック、メロディ、ドラム、ベース、基本コード、ピアノ、ソロ音色のバイオリン×2/ビオラ/チェロ/ダブルベース、そしてアンサンブル系のバイオリン×2/ビオラ/チェロと並ぶ。その下はストリングスをまとめるためのAUXトラックでBus 1-2の信号を受け取るように準備されている。さらにその下はセンド&リターン用のAUXトラックで、ディレイのWAVES H-DelayとリバーブのVALHALLA DSP ValhallaRoomを用意。そのほか、各トラックにはギター用にNATIVE INSTRUMENTS KONTAKT Factory Library 2のRock Guitar、ソロ系ストリングスにはBEST SERVICE EMOTIONAL VIOLIN/VIOLA/CELLO、アンサンブル系ストリングスにはNATIVE INSTRUMENTS SESSION STRINGS PRO 2の各音源をインサート。もちろん、制作の工程では必要に応じてプラグインを入れ替えていく

 また、AUXトラックを作り、リバーブやディレイなどを用意しておいても使い勝手が良くなります。センド&リターンでそれらをほかのトラックと共有できるので、各トラックに個別に挿していくより格段にCPU負荷が少なく、また同じプラグインを使うので楽曲全体にまとまりが出ます。同じグループに属するトラックたちは、バスで送ってAUXトラックにまとめておくと扱いやすいでしょう。

 さて、まずは届いた楽曲のデモのボーカルデータをインポートし、マーカー情報を追加。マーカーを入れておくと、同じセクションのコピペが楽になり、メモリーロケーション画面でいつでも選択した箇所に移動できるので便利です。そしてここで、2022年からPro Toolsに統合されたcelemony melodyneを使います。これはデモボーカルのピッチとタイミングを整えて、ガイドメロディをMIDIで書き出すためです。以前ならば、デモを耳コピしてガイドメロディを打ち込むところですが、melodyneを使えばその必要はありません。ボーカルトラックのエラスティックオーディオのメニューから“Melodyne”を選択すると、瞬時にエディタ画面にmelodyneが表示されます。

 また、melodyneのオプションメニューで、“DAW内の選択範囲に追従”と“DAW内の選択範囲にズーム”にチェックを入れておけば、統合以前のmelodyneよりもはるかにエディット画面が見やすくなります。

赤枠のエラスティックオーディオ部分をクリックすると、melodyneがエディタ画面に表示される。melodyneのオプションメニューで、“DAW内の選択範囲に追従”“DAW内の選択画面にズーム”(黄枠)にチェックを入れるとPro Tools側での選択範囲がmelodyneにも自動的に反映されて表示されるので、作業効率が格段にアップする

赤枠のエラスティックオーディオ部分をクリックすると、melodyneがエディタ画面に表示される。melodyneのオプションメニューで、“DAW内の選択範囲に追従”“DAW内の選択画面にズーム”(黄枠)にチェックを入れるとPro Tools側での選択範囲がmelodyneにも自動的に反映されて表示されるので、作業効率が格段にアップする

 このように、統合されたことでPro Toolsとmelodyneの行き来がスムーズになって操作ストレスが減り、作業効率がアップしました。melodyneで編集したオーディオクリップをインストゥルメントトラック(またはMIDIトラック)にドラッグするだけで、編集が反映されたMIDIノートとして抽出できます。

上段がmelodyneでエディットしたオーディオトラック、下段がガイドメロディ用のインストゥルメントトラック。赤い矢印のようにオーディオクリップをドラッグ&ドロップするだけで、MIDIデータに変換される

上段がmelodyneでエディットしたオーディオトラック、下段がガイドメロディ用のインストゥルメントトラック。赤い矢印のようにオーディオクリップをドラッグ&ドロップするだけで、MIDIデータに変換される

melodyneで編集したオーディオクリップをインストゥルメントトラックもしくはMIDIトラックへドラッグ&ドロップすると表示されるダイアログ。このままOKをクリックすれば、MIDIノートが抽出される

melodyneで編集したオーディオクリップをインストゥルメントトラックもしくはMIDIトラックへドラッグ&ドロップすると表示されるダイアログ。このままOKをクリックすれば、MIDIノートが抽出される

MIDIエディタ画面を活用して複数トラック間のピッチやタイミングを確認

 ダンス系打ち込み曲では、次にリズムトラックを制作しますが、今回はコード展開が複雑なポップスなので、基本コードの打ち込み作業を優先しました。コードに使う音色は本アレンジで使う予定のないエレピを選択。MIDI鍵盤を弾いて大まかにリアルタイムレコーディングした後、細部をクオンタイズしたり、ステップ入力でフレーズを整えたりして仕上げていきます。この曲では、楽曲オーダーの完成形イメージと、デモのシンプルなコード進行のイメージが違ったので、コード付けからスタート。イントロや間奏などは後ほど考えるとして、まずは歌が入るAメロからサビまでを作りました。

 この基本コードに合わせて、次はアレンジのコアとなるピアノを打ち込みます。MIDIエディタでは、TRACKS(トラック)欄で選択した各トラックのノートを色違いで重ねて表示できるので、コードから音程が外れたり、リズムがズレたり、ミスタッチがあればすぐに分かります。視覚と聴覚の両方で確認できて分かりやすいですね。歌メロとの絡みも確認しやすく、音のぶつかりなども回避できます。

赤枠部分で選択したトラックのMIDIデータを1画面に表示した状態。各トラックのMIDIデータは色分けしており、赤がメロディで、基本コードが黄色、ピアノが青紫となっている。なお、ガイドメロディの音源は、オケ中でも埋もれにくいという理由から、NATIVE INSTRUMENTS Massiveのデフォルト音色を使用。またピアノの音源にはSPECTRASONICS KEYSCAPEを採用し、バンドサウンドでも埋もれないように音に輝きのあるプリセット、LA Custom C7-Rockを選択

赤枠部分で選択したトラックのMIDIデータを1画面に表示した状態。各トラックのMIDIデータは色分けしており、赤がメロディで、基本コードが黄色、ピアノが青紫となっている。なお、ガイドメロディの音源は、オケ中でも埋もれにくいという理由から、NATIVE INSTRUMENTS Massiveのデフォルト音色を使用。またピアノの音源にはSPECTRASONICS KEYSCAPEを採用し、バンドサウンドでも埋もれないように音に輝きのあるプリセット、LA Custom C7-Rockを選択

 曲全体のコード展開がつかめてきたところで、歌のないイントロや間奏、エンディングも仮で打ち込みます。ピアノは、なるべくクオンタイズをしなくて済むように縦を意識して演奏。打ち込みでは自分が満足いくまで何度でもトライできるのが生演奏より好きなところです。テンポを下げて弾きやすくしたり、後でいかようにもエディット可能で、“タイミングをそろえたい、でもカッチリしたくない”という場合は、クオンタイズのStrength(強さ)を70〜80%にすることも。そろいすぎた音をバラしたいときはRandomize(ランダマイズ)でタイミングをずらせます。

クオンタイズ画面。赤枠のStrength(強さ)でグリッドにどれくらい近づけるかを、黄色枠のRandomizeでランダマイズを可能。ちなみに、エレクトロ系ではカッチリ感を出すためにStrength100%でクオンタイズする場合もある

クオンタイズ画面。赤枠のStrength(強さ)でグリッドにどれくらい近づけるかを、黄色枠のRandomizeでランダマイズを可能。ちなみに、エレクトロ系ではカッチリ感を出すためにStrength100%でクオンタイズする場合もある

 ピアノがある程度まとまったら、基本コードのトラックをミュートして、リズムを作ります。グルーブを生むのにベロシティの細かい調整は必須で、実際に指で弾いた方が簡単に生ドラムのイメージに近くなります。ただ、デモドラムなので、ロールやゴースト以外はほぼStrength 100%でクオンタイズ。また作ったグルーブを維持したいので、同じリズムパターンが続くときはコピペし、セクションごとに基本的なパターンを作った後でフィルを作ります。シンバルはキック、スネア、ハイハットの3点を打ち込んでから追加。フィルを作る際は、TRACKS欄でピアノとメロディを選択し、両者を照合するとキメを合わせたりするのに目視もできて便利です。

フィルを作る際は、メロディ、ドラム、ピアノの各トラックを同時に表示して、キメのタイミングなどを合わせていく。茶色がドラムのトラックで、音源はTOONTRACK SUPERIOR DRUMMER 3、プリセットはPremier Rock

フィルを作る際は、メロディ、ドラム、ピアノの各トラックを同時に表示して、キメのタイミングなどを合わせていく。茶色がドラムのトラックで、音源はTOONTRACK SUPERIOR DRUMMER 3、プリセットはPremier Rock

 続いて、デモのベースを鍵盤で打ち込みます。後から生に差し替える場合でも、ある程度音作りを進めておくと打ち込みもうまくいきます。その際はやはりMIDIエディタで基本コードトラックとピアノトラックのノートと照らし合わせて弾くと動きを作りやすいです。ベースもデモなのでタイミングは100%でクオンタイズします。

 さて、次回はストリングスの打ち込みからデモの完成、そしてレコーディングを経ての曲の完成までをご紹介していきます。お楽しみに!

 

MEG.ME

【Profile】3歳からピアノ、7歳で作曲を始める。数々のコンクールで受賞歴を持ち才能が注目される中、大学では作曲を専攻し音楽知識をさらに深める。その後、シンガーソングライターの活動を経て、2011年8月よりMEG.ME名義で作家活動をスタート。クラシックからポップスまで多様なジャンルを得意とし、ミュージカルや舞台音楽なども手掛けるほか、キーボーディストとして世界各地で演奏活動をするなど、作詞/作曲/編曲家、プレイヤーとしてマルチに活躍するクリエイター。

【Recent work】

『GRLOW』
Natural Lag
(avex)
Da-iCEのメンバー花村想太がボーカルを務めるバンドNatural Lagの初フルアルバム。本連載のお題であるMEG.MEが編曲を手掛けた楽曲「What Time」も収録

 

Avid Pro Tools

AVID Pro Tools

LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac
▪最新版のmacOS Monterey 12.7.x、またはVentura 13.6.x
▪M2、M1あるいはIntel Dual Core i5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのIntel Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2023年12月時点

製品情報

Avid Pro Tools

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