Pro ToolsのオーディオMIDI化とBeat Detectiveでビート制作|解説:Cosaqu(梅田サイファー)

オーディオのMIDI化とBeat Detectiveでビート制作|解説:Cosaqu(梅田サイファー)

 梅田サイファーのCosaquです。私のAVID Pro Tools連載も最終回。過去の3回ではビートメイク、テンプレート、リミックスなどのトピックを紹介してきました。最終回は原点に立ち返り、再度、ビートメイクを取り上げたいと思います。

サンプルのグルーブを抽出してMIDIデータに適用

 ヒップホップにおけるビートメイクの手法の一つとしてサンプリングという文化があります。これは既存(過去)の曲から音や歌詞の一部を抜粋(サンプリング)して、ループや継ぎはぎで再構築することにより別の曲を作り出す手法です。古くはレコードやCDからサンプリングするのが主流でしたが、昨今ではspliceなどサンプル素材のサブスクリションサービスを利用してのビートメイクが手軽にできるようになりました。私もよく、そうしたサブスクサービスの素材を使ったり、そこから着想を得てビートを作ることがあります。

 このように、現代では簡単にかっこいいサンプルにアクセスできるようになった反面、ネタとして選んだサンプル素材を既に誰かが使っていたり、かぶってしまうこともあります。それはそれでサンプリングの面白さでもあるのですが、今回はspliceなどのサンプルを使ってオリジナルのビートを作る方法を紹介したいと思います。

 気に入ったサンプルを見つけたら、まずオーディオ素材をMIDI化してしまいます。この作業を行うメリットとしては、気に入った素材のメロディを元に音色を変えたり、質感を自在にコントロールできることが挙げられます。“メロディは気に入っているけど低域が物足りない”といったときに、MIDI化しておけば低域のしっかりしたベース音色を選ぶといったことが可能になるのです。

 MIDI化するには、オーディオトラックに読み込んだサンプルを右クリック(Mac:control+クリック)し、メニューが開くので“オーディオをMIDIとしてコピー”を選択、オーディオ>MIDI抽出プロパティ画面が開くので、変換タイプのメニューからパーカッシブやメロディック、ポリフォニックサステイン/ディケイなど素材に適したものを選びます。

MIDI化したいオーディオクリップを右クリック(Mac:control+クリック)してメニューを開き、“オーディオをMIDIとしてコピー”を選択する。あるいはトラックメニューから“MIDIを新規トラックへ抽出”を選択。トラック名の部分を右クリックして開くメニューからも“MIDIを新規トラックへ抽出”を選ぶことができる

MIDI化したいオーディオクリップを右クリック(Mac:control+クリック)してメニューを開き、“オーディオをMIDIとしてコピー”を選択する。あるいはトラックメニューから“MIDIを新規トラックへ抽出”を選択。トラック名の部分を右クリックして開くメニューからも“MIDIを新規トラックへ抽出”を選ぶことができる

上が“オーディオをMIDIとしてコピー”を選択した際に開く、オーディオ>MIDI抽出プロパティ画面。変換タイプ欄をクリックすると下の画面のようにメニューが表示され、素材に合わせた抽出方法が選べる。パーカッシブでは同一ノート、メロディックでは単音のメロディ、ポリフォニックサステイン/ディケイでは和音を抽出できる。設定後にOKをクリックすると、MIDIデータがクリップボードにコピーされる

上が“オーディオをMIDIとしてコピー”を選択した際に開く、オーディオ>MIDI抽出プロパティ画面。変換タイプ欄をクリックすると下の画面のようにメニューが表示され、素材に合わせた抽出方法が選べる。パーカッシブでは同一ノート、メロディックでは単音のメロディ、ポリフォニックサステイン/ディケイでは和音を抽出できる。設定後にOKをクリックすると、MIDIデータがクリップボードにコピーされる

 今回はベースのサンプルなのでメロディックを選択しました。その後、OKをクリックするとMIDIデータがクリップボードへコピーされるので、インストゥルメントトラックを作成して、ペーストすればオーディオのMIDI化は完了です。

上がMIDIデータ抽出元のベースのサンプルを読み込んだオーディオトラックで、下が抽出したMIDIデータをペーストしたインストゥルメントトラック。あらかじめインストゥルメントトラックを作成しておき、MIDIデータをペーストしたが、イベントメニューなどで“MIDIを新規トラックへ抽出”を選んだ場合は、“オーディオ>MIDI抽出プロパティ”画面でOKをクリックすると、インストゥルメントトラックの作成とMIDIデータのペーストが自動的に行われる

上がMIDIデータ抽出元のベースのサンプルを読み込んだオーディオトラックで、下が抽出したMIDIデータをペーストしたインストゥルメントトラック。あらかじめインストゥルメントトラックを作成しておき、MIDIデータをペーストしたが、イベントメニューなどで“MIDIを新規トラックへ抽出”を選んだ場合は、“オーディオ>MIDI抽出プロパティ”画面でOKをクリックすると、インストゥルメントトラックの作成とMIDIデータのペーストが自動的に行われる

 次は、Beat Detective機能を使います。これはオーディオ/MIDIデータのピークやパターンを検出し、さまざまな方法でそれを生かすことができる機能。ここでは、元サンプルから抽出したグルーブをMIDIデータに適用することで、音色を変えても元のグルーブはキープする狙いで使います。

 まず、Beat Detective画面を表示し、操作欄のメニューで“オーディオ”、その下のリストでは “グルーブテンプレートを抽出”を選びます。また選択欄では“選択範囲をキャプチャー”をクリックして対象となる範囲を指定。検出欄ではオーディオ素材に合わせた検出アルゴリズムを選択するのですが、今回はベースなので“低域を強調”を選びました。

Beat Detective画面。対象のクリップを選択して、イベントメニューから“Beat Detective”を選ぶか、ショートカットキーのcommand+テンキー8(Mac)/Control+テンキー8(Windows)で開く。ここでは操作欄でオーディオ(赤枠)、グルーブテンプレートを抽出(黄枠)を選んで、選択範囲をキャプチャー(緑枠)をクリックして対象範囲を指定。検出欄の“分析”では低域を強調(青枠)を選んで、分析する(白枠)をクリック。“分解能”でサブ拍(ピンク枠)を選び、感度(紫枠)を調整してトリガー位置を調節する。最後に抽出...(オレンジ枠)をクリックすると、グルーブが抽出される

Beat Detective画面。対象のクリップを選択して、イベントメニューから“Beat Detective”を選ぶか、ショートカットキーのcommand+テンキー8(Mac)/Control+テンキー8(Windows)で開く。ここでは操作欄でオーディオ(赤枠)、グルーブテンプレートを抽出(黄枠)を選んで、選択範囲をキャプチャー(緑枠)をクリックして対象範囲を指定。検出欄の“分析”では低域を強調(青枠)を選んで、分析する(白枠)をクリック。“分解能”でサブ拍(ピンク枠)を選び、感度(紫枠)を調整してトリガー位置を調節する。最後に抽出...(オレンジ枠)をクリックすると、グルーブが抽出される

 これで“分析する”をクリックすると感度と分解能を操作できるようになるので、“サブ拍”を選択してから、“感度”スライダーを動かします。すると、クリップ上に紫のラインでトリガー位置が表示されるので、適切な位置に設定。

Beat Detective画面で感度スライダーを動かすと、波形のアタック部分に紫の縦線が表示される。適切と思われる箇所に表示されるように調節する

Beat Detective画面で感度スライダーを動かすと、波形のアタック部分に紫の縦線が表示される。適切と思われる箇所に表示されるように調節する

 あとは“抽出...”をクリックし、開いた画面で“グルーブクリップボードに保存”を選べば、グルーブの抽出は完了です。

Beat Detective画面で“抽出...”をクリックすると右の画面が開くので、“グルーブクリップボードに保存”(赤枠)をクリック

Beat Detective画面で“抽出...”をクリックすると右の画面が開くので、“グルーブクリップボードに保存”(赤枠)をクリック

 MIDIデータへ適用するには、MIDIクリップを選択してクオンタイズウィンドウ(Mac:option+0/Windows:Alt+0)を開き、クオンタイズ グリッド欄でBeat Detectiveテンプレートを選択し、“適用”をクリックします。なお、Beat Detectiveの解析が100%正しいとは限りません。最終的には結果を耳で確認しながら、手動で調整していきましょう。

上の3画面はいずれもクオンタイズ画面。クオンタイズしたいMIDIクリップを選択して、ショートカットキーのoption+0(Mac)/Alt+0(Windows)を押すか、あるいはイベントメニューのイベント操作>クオンタイズ...で開く。抽出したグルーブテンプレートをグルーブクリップボードに保存したら、クオンタイズ画面のクオンタイズ グリッド欄(赤枠)をクリックし、開いたメニューから“Beat Detective テンプレート”(黄枠)を選択。すると、クオンタイズ グリッド欄の表示が、“グルーブクリップボード”に変更される(緑枠)。あとは“適用”(青枠)をクリックすればOK

上の3画面はいずれもクオンタイズ画面。クオンタイズしたいMIDIクリップを選択して、ショートカットキーのoption+0(Mac)/Alt+0(Windows)を押すか、あるいはイベントメニューのイベント操作>クオンタイズ...で開く。抽出したグルーブテンプレートをグルーブクリップボードに保存したら、クオンタイズ画面のクオンタイズ グリッド欄(赤枠)をクリックし、開いたメニューから“Beat Detective テンプレート”(黄枠)を選択。すると、クオンタイズ グリッド欄の表示が、“グルーブクリップボード”に変更される(緑枠)。あとは“適用”(青枠)をクリックすればOK

MIDIデータを再びオーディオ化 Beat Detectiveで分割&シャッフル編集

 今回は、リードシンセとパッドのサンプルも同じ手順でMIDI化しました。和音のパッドはポリフォニックサステインで解析しますが、倍音も読み取ってしまうことがあり、思わぬフレーズになることもしばしば。これを偶然の産物としてとらえてそのまま使うのも面白いです。もちろん、きっちり整理して使うこともあります。臨機応変に耳で判断していきましょう。

 ベース、リードシンセ、パッドのMIDI化が完了した後、ここでは音源にxfer records SERUMを使用し、いろいろな音色を試して選びました。その後、各トラックのMIDIクリップを右クリック(Mac:control+クリック)してメニューを開き、 “コミット...”を選んでMIDIデータを再びオーディオ化します。

インストゥルメントトラックを簡単にオーディオ化できるコミット画面。インストゥルメントトラックを右クリック(Mac:control+クリック)して表示されるメニューで、コミット...を選択して開く

インストゥルメントトラックを簡単にオーディオ化できるコミット画面。インストゥルメントトラックを右クリック(Mac:control+クリック)して表示されるメニューで、コミット...を選択して開く

 そしてベースのオーディオクリップでBeat Detective画面を開き、操作欄を“オーディオ”、その下のリストでは“クリップ分割”を選択。

コミット機能で再びオーディオ化した3トラックのパートのうち、一つを選択してBeat Detective画面を表示し、操作欄で“オーディオ”と“クリップ分割”(赤枠)を選択。検出欄の“分析”では“高分解能”(黄枠)を選び、“分析する”をクリック。その後、“サブ拍”を選んで、感度スライダーでトリガー位置を調節する。この操作が完了したら、その他のトラックのクリップもshiftキーを押しながら選択すると、同じ位置にトリガー位置が表示される。最後に“分割”(緑枠)をクリックすると、3トラックを同じ位置で分割できる

コミット機能で再びオーディオ化した3トラックのパートのうち、一つを選択してBeat Detective画面を表示し、操作欄で“オーディオ”と“クリップ分割”(赤枠)を選択。検出欄の“分析”では“高分解能”(黄枠)を選び、“分析する”をクリック。その後、“サブ拍”を選んで、感度スライダーでトリガー位置を調節する。この操作が完了したら、その他のトラックのクリップもshiftキーを押しながら選択すると、同じ位置にトリガー位置が表示される。最後に“分割”(緑枠)をクリックすると、3トラックを同じ位置で分割できる

 その他の項目は前述の要領で操作して、トリガー位置を表示させたら、リードシンセとパッドのクリップもshiftキーを押しながら複数選択します。するとベースと同じ位置にトリガーが表示されるので、Beat Detective画面右下の“分割”をクリック。するとベース、リードシンセ、パッドが同じ位置で分割されます。なお、ドラムなどの素材を分割する場合は、トランジェントが欠けないようにトリガーパッドを設定することもあります。

ベース、リードシンセ、パッドの3トラックを同じ位置で分割した状態。ここからシャッフルモードで組み替えを行って、オリジナルのフレーズを作っていく。各トラックはティックベースにして、3トラックのクリップを同時に動かせるようにグループを組んでおくとよいだろう

ベース、リードシンセ、パッドの3トラックを同じ位置で分割した状態。ここからシャッフルモードで組み替えを行って、オリジナルのフレーズを作っていく。各トラックはティックベースにして、3トラックのクリップを同時に動かせるようにグループを組んでおくとよいだろう

 ここまでの作業で、元のサンプルのグルーブをキープしつつ、クリップを並べ変えてオリジナルのビートを作る準備が整いました。分割した各クリップを、第1回で解説したシャッフルモードで組み替えていきます。各トラックはティックベースにしてテンポも変更可能なようにしておくと、元の素材からは想像もつかないようなビートを作ることができます。

 ここからさらにドラムなどのさまざまな素材を足したり、質感を加工したりすることで、より元のサンプルから変貌させることができます。このような手法はほんの一例なので、自由な発想でいろいろな作り方にトライしてみてください。

 全4回にわたってお届けしてきましたが、いかがでしたでしょうか? 私の場合はビートメイクからレコーディング、ミックスまでPro Toolsで完結させています。その最大の魅力はオーディオの扱いが簡単で、すべての作業を分け隔てなく行えることだと思います。私自身も、この連載をきっかけに魅力をさらに深掘りすることができました。それが皆さんに伝わり、音楽制作のヒントになれば幸いです! 短い間でしたが、ご愛読いただきありがとうございました!

 

Cosaqu(梅田サイファー)

【Profile】大阪の梅田駅にある歩道橋で行われていたサイファーの参加者から派生した集合体、梅田サイファーのメンバーであり、ビートメイカー/ラッパー/エンジニアとして活躍。梅田サイファー「KING」「かまへん」をはじめ、ヒプノシスマイクのどついたれ本舗「なにわ☆パラダイ酒」、さらに『キングオブコント2023』のオープニングなどの作曲をpeko,KennyDoesと共に手掛けるなど、活動は多岐にわたる。

【Recent work】

『RAPNAVIO』
梅田サイファー
(ソニー)

『BE THE MONSTER』
梅田サイファー
(ソニー)

 

 

 

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LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:15,290円(年間サブスク版)、30,580円(永続ライセンス版)|Pro Tools Studio:46,090円(年間サブスク版)、92,290円(永続ライセンス版)|Pro Tools Ultimate:92,290円(年間サブスク版)、231,000円(永続ライセンス版)

REQUIREMENTS
Mac
▪最新版のmacOS Monterey 12.7.x、またはVentura 13.6.x
▪M2、M1あるいはIntel Dual Core i5より速いCPU
Windows
▪Windows 10(22H2)、Windows 11(23H2)
▪64ビットのIntel Coreプロセッサー(i3 2GHzより速いCPUを推奨)
※上記は2023年12月時点

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