単一指向/無指向/超指向を選択可能
出力部にはUS製カスタム・トランスを内蔵
M60 Master Stereo Setは、2000年に復活して以降のTELEFUNKEN初となる、真空管非搭載のソリッド・ステート・コンデンサー・マイクです。TELEFUNKENが特許を持つサーキットをベースに、クラスAのディスクリート・アンプを搭載しています。出力部にはアメリカ製カスタム・トランスを採用。入念に選び抜かれたパーツ類には金メッキが施され、手作業で基盤に組み込まれているとのこと。20Hz〜50kHz(±2dB)というワイドな周波数特性を持ち、限りなく低く抑えられた自己雑音レベルとひずみ率により、クリーンなサウンドを実現しているそうです。
このマイクの大きなポイントは、スモール・ダイアフラム搭載の同社真空管コンデンサー・マイク、Ela M 260と同様のTK6Xカプセル・システム採用していること。3つのヘッド・カプセルTK60(単一指向)、TK61(無指向)、TK62(超指向)が用意されており、簡単に脱着が可能です。
TK60は150Hz〜7kHzにわたりフラットな周波数特性となっており、8kHz周辺にスムーズで歯切れの良いピークを持っています。オーバー・ヘッドやハイハット、ライド・シンバルといった金モノはじめ、ピアノやギターにも適したアコースティック楽器向きのカプセルです。
TK61は無指向なので楽器のアンビエンス、あるいは空間全体の収音に適しているカプセルです。20Hz〜5kHzの周波数特性はフラットで、TK60と同じく8kHz辺りに滑らかで歯切れの良いピークを有しています。
指向性を狭角に絞ったTK62はライブ・ステージで有効ですし、レコーディングでもかぶりが多い場合に活躍するカプセルです。150Hz〜3kHzにかけてフラットな特性で、6kHzにわずかなディップがあります。こちらもほかのカプセルと同じく8kHzに鮮やかなピークがあるので、TK6Xカプセル・システムの特徴なのでしょう。
このステレオ・セットには、作りの良いモルデッド・ジッパー・ケースが付属。ペアリングされたM60 FETをはじめ、小型ケースに入ったTK6Xカプセル・システムが2本分、TELEFUNKENのケーブル(XLR)が2本、サスペンションが2つ、ウィンド・スクリーンが2つ収められています。TELEFUNKENの名にふさわしい高級感あふれるケースです。
華やかで力強いアメリカンな音色
立ち上がりと強弱の表現力も見事
さて、実際にスタジオで使用してみましょう。まず単一指向のTK60でアコースティック・ギターを録音してみました。久し振りに驚いた、というか耳を疑ったというのが第一印象。華やかな味付けが素晴らしく“ああ、こういうサウンドで録れれば良いよな……”という気持ちをくみ取ってくれているかのようなサウンドなのです。もちろんスペック上で分かる通り8kHz辺りにピークがあるのですが、周波数特性だけでは分からないきらびやかな倍音成分を有しています。音の立ち上がりや強弱の表現力も見事。マイキングに関してはオンマイク寄りの方が好印象でした。ただし、ナイロン弦のクラシック・ギター収音などでは、かなり色付けを感じました。向き不向きがあるタイプのマイクだと思います。
次はピアノで試してみましょう。こちらもギター同様、ハリやつやを表現するのに最高のマイクです。フォルテシモで弾いた場合は、ソロで聴くと高域の倍音がいささかトゥー・マッチに感じることがありました。使用する楽曲も考えて使う必要がありそうです。
ギターとピアノでそれぞれカプセルを交換してみたところ、サウンドの方向性は統一されていました。その中で最も周波数レンジ豊かなサウンドだったのは、無指向のTK61。デッドな鳴りの部屋、もしくは遮音板が使える部屋で録る場合には、TK61も良い選択肢になり得ます。
タイミング良く大編成のストリングスのセッションがあったので、弊社スタジオにおけるストリングス録音の大定番マイク、DPA MICROPHONES 4006と比較してみました。聴き慣れた4006より少し華やかなサウンドで、若干音像が前にくる印象。左右間のつながりが素晴らしいのは、さすがステレオ・ペアリング・モデルです。
M60 Master Stereo Setは華やかさと力強さ、そしてメリハリ感の表現を得意とするマイクでした。ドイツで設立されたTELEFUNKENはアメリカで復活をとげたのですが、まさにアメリカらしいサウンド。今回は試せませんでしたが、コンガなどのパーカッションやドラムにも相性が良さそうです。いろいろ試したいと思わせてくれるマイクでした。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年4月号より)