10種類のシェイプ・カーブを搭載
FDBKでサイン波を加えることが可能
Berzerk Distortionは10種類のシェイプ・カーブを備えたひずみエフェクトです。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VST/VST3で動作します。シェイプ・カーブは、サチュレーターのような音に味付けをするタイプから、バキバキにひずみまくるタイプまで用意。そこに、FDBK/DYN/EQセクションで音のひずみに動きを付加します。一般的なひずみエフェクトは、入力される元音の要素がひずむだけであまり面白い動きが作れないのですが、Berzerk Distortionは元音にピッチ・エンベロープがかかったサイン波のような音を追加して元音に無い変化や倍音を付け加えることができ、すごく面白いひずみを発生させることができます。これは斬新なアイディア! 音を調整するエンジニアのエフェクトというよりは、クリエイター目線のエフェクトと言えるでしょう。
パネル上段はひずみの選択と調整セクションです。INPUTノブは入力音が小さいときに調節します。INPUTノブの上にあるスイッチを切り替えればM/S処理も行えるので、例えばドラム・ループなどでサイドだけひずませて、ミッドのキックとスネアはひずませない、といった技が使えます。
中央に鎮座するのがDRIVEノブとひずみのシェイプ・カーブを表示する窓です。DRIVEノブを中心から右に回すとシェイプ・カーブが激しくとがってきて、音も激しくなります。左に回すとなだらかになり、マイルドでこもった方向に。Driveノブはひずみの強弱だけでなく、カラーも変わる感じです。
CHARACTERではシェイプ・カーブの種類を選択可能。その下のDENSITYは、上げていくとシェイプ・カーブに細かいトゲトゲが生えてきて高域のチリチリ感が増えていきます。そしてGO!ボタンは、なんと選んだシェイプ・カーブをランダムに変化させます。10種類で満足いかなかった場合はこれを押すことでさらに選択肢が増えるということなのです。
お楽しみの中段セクションです。前述したサイン波を追加できるのがこの中段に表示されるFDBK。簡単に言うと、音が入力された際、それをトリガーとしてブーンというサイン波とピッチ・エンベロープを発生させます。音が発生するニュアンスとしては、ギターのオート・ワウを想像してもらうと分かりやすいでしょう。例えば、バス・ドラムなどの打楽器にかけて激しくひずませると極悪トラップ系になるわけですね。音が入るたびにLOW/HIGHで設定した音高の間を、SPEEDで設定した時間で移動します。LOW/HIGHは周波数またはピッチのどちらでも設定可能です。
右側のLP/HPノブはトリガー音へのフィルターで、うまく調節すればハイハットだけで動作させることなども可能です。また、TYPEをSINからINに変えると元音がFDBKに入り、リング・モジュレーターをかけたような音になります。シンセなどにかけると音に奇妙な変化を付けられて面白いですね。
ダイナミクスに応じてひずみ方が変化
アタックだけひずませることもできる
個人的により楽しめたのが次のDYNセクション。ここでは2つのスイッチとTHRESHOLDノブを調節して入力音に対してのひずみのかかり方を変えられるのです。ちょっと説明がややこしいのですが、中央の窓に描かれているカーブを見ると理解できます。2つのスイッチのうち、UP/DOWNスイッチはコンプとエキスパンダーなのです。UPのときにはスレッショルド以下の小さい音に対してのみカーブのボリュームが適用されます。DOWNはダイナミクス・エフェクトのエキスパンダーと同じ。スレッショルドを高くすると、まさにエキスパンダーのようにブツブツと音の途切れるドラム・ループになるのです。RIDER/DYNスイッチでは、DYNでスレッショルド以下の音にのみひずみがかかり、RIDERではスレッショルドを越えるとひずみがかかるように設定できます。これによって、スネアのアタックだけひずませたり、むちゃくちゃ太くなるコンプ・サウンドに変えたりと、DYNセクションはどちらかというとエンジニアのミックス技ですごく重宝しそうなパラメーターです。効果の具合はBLENDノブで調整できます。
EQセクションは最後のアウトプット前のポストEQです。LOW/MID/HIGHの3バンドEQとなっており、ここでも細かな音色の調整が行えます。
続くアウトプット・セクションにあるのが、TEMPERATUREとMIX、OUTPUTノブです。TEMPERATUREは英語で温度の意味。上げていくと音が丸く太くなって、まさに熱い感じになるのです。その横のMIXは文字通り元音とのブレンド具合を調節し、OUTPUTで最終的なレベルを設定します。
Berzerk Distortionは、FDBKを使って飛び道具的に激しい音を作るのが簡単でとても楽しいのですが、シンセをちょっとだけサチュらせて音色を濃いめにする、淡白なドラムを少しワイルドにさせるなど、そういった調整にもすごく役に立つと感じました。特にDYNセクションとEQセクションはひずみのかかり具合を細かく調節できるので、ただ単にひずませるプラグインよりも自由度が高いと思います。僕の今後の音作りシーンで登場する機会も多いかもしれません。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)