低レイテンシーでの入力モニタリングや
ループバックを専用ドライバーで実現
注目すべきは、低価格帯のモデルでありながら徹底的に音質を重視している点。同社上位機種にも採用されているESS Sabre32 Ultra DACテクノロジーの搭載により、ダイナミック・レンジはライン・アウトが120dB、ヘッドフォン・アウトが115dBと、同社上位機種に迫るスペックを実現している。
コンピューターとの接続端子にはUSB-Cを採用しており、USB-C to USB-Aケーブルが付属。USBクラス・コンプライアントに対応しているため、MacおよびiOSデバイスで使用する場合は、接続するだけですぐに認識される(iOSデバイスはカメラ・アダプター経由での電源供給が必要)。専用ドライバーをインストールすることで、低レイテンシーでの運用も可能。サンプリング・レート96kHz、サンプル・バッファー32で動作させた場合、Mac/Windows共に2.5msのレイテンシーで、コンピューターへの入力モニタリングが行える。
それでは入出力周りを見ていこう。インプットはch1とch2がHi-Z入力に対応するマイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)で、ch3/4がライン入力L/R(TRSフォーン)。ch1とch2は、48Vファンタム電源ボタンに加え、遅延の無いダイレクト・モニタリングを可能にするMONボタンを各チャンネルに装備する。MONボタンは長押しすると、モニタリングの定位をセンターとL/Rで切り替え可能。ch3/4もフロント・パネルにある3-4ボタンからダイレクト・モニタリングが行えるが、こちらの定位はステレオで固定されている。ダイレクト・モニタリングとコンピューターからのプレイバックは、3-4ボタンの上にあるノブで音量バランスをミックスできる。
アウトプットはch1/2のモニター出力L/R(TRSフォーン&RCAピン)とch3/4のライン出力L/R(TRSフォーン&RCAピン)、ヘッドフォン出力を装備。モニター出力とヘッドフォン出力は、個別の音量調節ノブが設けられている。ch3/4はキュー・ボックスへガイド・クリックを送るなど、さまざまな用途で活躍するだろう。専用ドライバーをインストールすれば、ループ・バック機能も使用可能だ。このライン出力はDCカップリングされているので、同社のCVコントロール・プラグインVolta(別売り)を使えば、アナログ・シンセも鳴らせる。MIDI IN、OUTも完備されている点もうれしいところだ。
ワイド・レンジでSN比の良いマイクプリ
出力はしっかりした低域で落ち着いた音像
実際にAPPLE MacBookで使ってみて筆者が一番驚いたのは、マイクプリの品質。ダイナミック・マイクをつないで声を録音してみたところ、低域から高域までワイド・レンジに音がよく通った。ひずみが少なくSN比も良いので、抜けが良い割に安っぽい感じがしない。実際にスペック上でも、入力換算雑音(EIN)が同社ラック・タイプのオーディオI/O、828ESより1.5dBu低い−129.5dBuという数値を誇っている。入力ゲインを上げていっても音が割れず、スムーズにレベルが上がる。出力ゲインの低いリボン・マイクではつまみを最大近くまで上げる必要が生じたが、その際もSN比の良さが現れていた。コンデンサー・マイクではアコースティック・ギターを録音。低価格機では高域が細くなりがちな印象があるが、M4はそれを感じさせない奇麗に整った高域でキャプチャーしてくれた。もちろん出力側のDACが優秀なこともその要因だろうが、マイクプリの素性もかなりのものだと思う。
出力側もチェックしたところ、うたい文句通りかなりの高音質だ。一般的に低域の出音はOSのバージョンなどの細かな条件で異なるケースがあるが、今回試した10.12や10.14では、価格よりワンランク上のしっかりした低域と落ち着いた音像を再生してくれた。さすがに高域のディテールは高級機に及ばないが、音楽制作におけるトラッキング目的では全く問題を感じない品質だ。ヘッドフォン出力も十分高品位。300Ωや470Ωのヘッドフォンを使っても、余裕を持って駆動できた。
ループバック機能のテストも実施。Webブラウザーで映像を見ながらマイクで話し、それをAPPLE QuickTimeで録画してみたところ、音質の良さを確認できた。
新開発のDAWとなる、MOTU Perfomer Liteが付いてくる点も見逃せない。機能制限はあるものの、初心者にはありがたい特典であろう。さらにABLETON Live Liteと6GB分のサンプル・パックも付属してくる。機能を絞って価格を抑えつつも、高音質を追求したM4。スマート・デバイスで使える点も含め、これまでのMOTUとは違う購入層も得ることは間違いない。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)