手鍵盤とペダルを1鍵で同時発音可
美麗な残響で生音とのなじみも良好
Symphonic Organは、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5 Playerをエンジンに採用しており、Mac/Windowsに対応しています(AAX/AU/VST/NKSまたはスタンドアローンで動作)。音源を起動すると、Symphonic OrganとWarpsという2つのパッチ、Advancedというフォルダーがあります。まず、メイン・パッチにあたるのがSymphonic Organで、基本的にこれを呼び出しておけば間違いありません。ちなみにこのパッチは、マニュアル(手鍵盤)やペダル(足鍵盤)が1つの鍵盤で鳴るようになっているので、さくっとモックアップを作りたいときにとても便利です。僕が使用してきたこれまでのパイプ・オルガン音源ではそれらが別々でしか収録されていないものも多く、打ち込みの際に手間になってしまうことがありましたので、ここはお気に入りポイントです。さらに良いのが、マニュアルやペダルがそれぞれ個別にも収録されている点です(後述のAdvancedフォルダーから呼び出せます)。このおかげで打ち込みにこだわりたい人に向けてもすきが無い出来になっており、まさにユーザー・フレンドリーなSPITFIRE AUDIOの真骨頂といったところでしょうか。
音を鳴らしてみてまず思ったのが、とても素直な鳴りをしているということです。残響もとても奇麗ですので、SPITFIRE AUDIOのほかの音源はもちろん、他社製の音源や生音とも違和感なく溶け込みました。マイクは遠近で6種類用意されており、中でも一番クローズなものは非常にデッドです。これはスタジオ収録など比較的デッドな空間で録音された生音と混ぜる際に、とても使いやすいのではないでしょうか。一番遠いマイクでも残響はそこまで長くなく、あくまで自然なものになっていますので、リバーブのノリがとても良いです。またそれぞれのマイク音量を調整しブレンドして使うということも可能なので、残響にこだわりたい方は徹底的に追及できます。
打ち込む際も鍵盤ごとのアタックの違いなどは全然感じませんでしたので、どんなフレーズでも柔軟に使えます。そのお陰もあり、ベタ打ちでもかなり本物のように鳴りますね。
独自エンジンEDNAでのシンセ的音作り
鐘の音など即戦力のサウンドも収録
次にWarpsというパッチです。これは収録しているオルガンの音を用いて、いわゆるシンセ的な音を再構築して鳴らせるというものです。EDNAエンジンによる50種類のWarpsプリセットの中から幾つか音色を触ってみたところ、パッドやテクスチャー寄りのものが多く、適当に鍵盤を押さえているだけでもインスピレーションが湧き出てきます。エンベロープやゲート、FXなども充実しており、つまみを適当にいじっているだけでも楽しく、まるでアナログ・シンセサイザーのようです。このような特色から、シーンによってピンポイントでの活用がとても有効だと思いました。ハマったときの効果には、ほかの音源では得られないものがあると思います。
最後にAdvancedフォルダーですが、ここには前述したマニュアルやペダルごとのパッチやFXが収録されています。マニュアル16種類、ペダル13種類、追加の低音、8種類のアンサンブルから音色選択も可能ですので、打ち込みを追及したいときはこれらを組み合わせて使用するのがよさそうです。
Advancedファルダーの中で個人的にヒットしたのが、FXパッチです。この中にはストップ・ノイズや鐘の音色が収録されており、この鐘がとても秀逸で鳴らすだけで雰囲気抜群。薄暗い教会でバンパイアがコウモリに変身して飛び立つようなイメージです。文字で書くと伝わりづらいですが、これは一聴の価値があると思います。このような飛び道具が大好きな僕としては、うれしい誤算になりました。僕の今後の楽曲でもし鐘が鳴っていたとしたら、それはSymphonic Organだと思ってください。
オルガン専用音源というとどうしてもそろえるのが後回しになりがちで、総合音源のものを使っているという人も多いと思います。今回のSymphonic Organは、値段とクオリティの両方を考えた圧倒的コスト・パフォーマンスの良さから、そうした方の最初の一つにとてもお薦めです。
またプロ・ユースとしても、オルガン音源はひとまずこれを持っておけば当分良いかなという印象です。SPITFIRE AUDIOの音源は新作が出るたびチェックしており、今回紹介したSymphonic Organが僕の新たなお気に入りに加わったことは言うまでもありません。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)