「NATIVE INSTRUMENTS Massive X」製品レビュー:ルーティングなど新機能を搭載してアップデートされたソフト・シンセ

NATIVE INSTRUMENTSMassive X
2007年に登場して以降、エレクトロニック・ミュージックのトップ・クリエイターたちに愛用されてきたNATIVE INSTRUMENTS(以下NI)のソフト・シンセ、Massive。そのMassiveをベースに、シーンの今後10年先を担うであろう後継モデル、Massive Xがついに発売されました。ソフト・シンセを使う人なら恐らく誰もが気になっている製品ではないでしょうか。

オシレーターはウェーブテーブルを採用
10種類のモードで波形に色付け

 Massive Xは単体での販売と同時に、NIのパッケージ製品Komplete 12、Komplete 12 Ultimate、Komplete 12 Ultimate Collector’s Editionにも付属。既にこれらをお持ちの方は、無償でダウンロードができます。Massiveユーザーはクロスグレードでの購入も可能です。現時点ではMassiveのようなスタンドアローン版は無く、プラグイン・バージョンのみ(Mac/Windows対応、AAX/AU/VST)の提供となっていることにご注意ください。また、プリセットについてもMassive X自体とは別にインストールする必要があります。Massive XをインストールするとNative AccessにFactory Libraryが表示されるので、そこからダウンロードすることで350種類以上もの豊富なプリセット・サウンドを手にすることができます。NIのKomplete Kontrol、Maschineなどを使用しているのであれば、8個のノブを使ってアサイン済みのパラメーターをそのまま操作することが可能です。

 グラフィックはMassiveから完全に一新され、白を基調にかなり洗練された印象です。同じルックスのノブがぎっしりと並んでいたMassiveと比較して、よりグラフィカルで機能や用途が理解しやすいものになったと感じました。最上部の黒いセクションがヘッダー、その下から中心部までの上半分の白い部分がオーディオ・モジュール、真ん中の黒い帯がナビゲーション・バー、下半分の白い部分と黒い帯がエディターと、大まかに4つのセクションに分かれています。オーディオ・モジュールの左半分にはオシレーターが2基、右半分に縦線で区切ってノイズ・ジェネレーター、フィルター、インサート・エフェクト、アンプ、マスター・エフェクトの順に並んでいます。

 オシレーターはウェーブテーブル方式を採用。波形が描かれたノブの上部にあるテキストをクリックすることで、サイン波、矩形波など基本的な波形を収めたものから非常に個性的なものまで、11種類のカテゴリー別に分けられた合計170以上のウェーブテーブルから選択できます。ウェーブテーブルでは1つのプリセットの中に複数の波形が組み込まれているので、ノブを回していくことで波形が変化し、その模様がグラフィカルに表示されるところが楽しいです。このオシレーターには各10種類のモードがあり、波形ノブの隣にある画像をクリックして選択することで、元の波形に違った個性を持たせることができます。その中でも特筆すべきは、フォルマント系のGorillaモード。

▲オシレーターには10種類のモードが用意されており、グラフィックをクリックすることで選択が可能。ゴリラの雄叫びをほうふつさせるフォルマント系のGorillaモードには、King/Kang/Kongという3種類のサブモードが用意されており、サウンドの荒々しさや太さを3段階で調節できる ▲オシレーターには10種類のモードが用意されており、グラフィックをクリックすることで選択が可能。ゴリラの雄叫びをほうふつさせるフォルマント系のGorillaモードには、King/Kang/Kongという3種類のサブモードが用意されており、サウンドの荒々しさや太さを3段階で調節できる

 名前の通りゴリラの雄叫びのようなサウンドを、効果の強さを調整するOverとフォルマント量を調整するBendで作り上げます。荒々しく攻撃的な音を生み出せてグッときました。オシレーターの下の段にあるのはメインの波形に当てるモジュレーション波形で、PM1、PM2の2つのノブを回してモジュレーションをかけます。後述のルーティングによっては、オシレーターをモジュレーション・ソースとして利用できるAUXもあります。

 右隣には2基のノイズ・ジェネレーターがあり、6種類のカテゴリーに分けられています。一般的なノイズから雨や鳥の鳴き声のようなリアルな音、果てはかなりエキセントリックな合成音、機械音など豊富な102種類のソースから選択。サウンドにエッセンスを加えることができます。

 その右のフィルター部では、アシッド向けのものや激しいひずみを生むものから、デュアル・フィルターやコム・フィルターを含む9種類の個性的なフィルターがあります。選択後さらに細かくフィルターの形状を選ぶことで、サウンドに鮮烈なキャラクター付けが可能です。

 インサート・エフェクトは最大3つを使用することができ、それぞれA、B、Cのテキスト部をクリックして11種類の中から選択。OSCの名が付くものはオシレーターとして使用可能なもので、サブオシレーター的な使い方もできます。つまり合計で5基のオシレーターを持つということですね。これらは後述のルーティングにより、直列または並列で接続できるほか、2つのオシレーター、2つのノイズ・ジェネレーターに対してさまざまな場所にパッチングすることが可能です。

 アンプ部のパラメーターはいたってシンプルで、レベルとパンとフィードバックの量をコントロールできます。マスター・エフェクトは最大で3つ使用可能で、それぞれX、Y、Zに9種類のエフェクトの中からアサイン。これもルーティングにより、直列/並列に接続することができます。

モジュラー・シンセに迫るRouting
並列/直列による幅広い音作りを実現

 オーディオ・モジュールの下にある黒い帯のナビゲーション・バーを見てみましょう。左端にVoiceとRoutingの2つのタブがあります。Voiceを選択すると下半分のエディター部にパラメーターが表示されます。ここではピッチ・ベンドやボイス数、ユニゾンなどを調整し、音に厚みや広がりを持たせます。モノフォニックにすることもできますが、Unisonモードで最大6ボイスまで重ねることが可能です。最初は6ボイスというのは少ない気がしましたが、実際のところ音の太さを考えれば6ボイスあれば十分だなと感じます。その右隣のタブが、Massive X最大の特徴の一つであるRoutingです。

▲Massive Xの新機能であるRouting。オシレーターやノイズ、フィルター、エフェクト、アンプをパッチして、インプットからアウトプットまでの直感的な音作りが可能だ ▲Massive Xの新機能であるRouting。オシレーターやノイズ、フィルター、エフェクト、アンプをパッチして、インプットからアウトプットまでの直感的な音作りが可能だ

 オシレーターやノイズ・ジェネレーターから発信する音に、フィルター、エフェクト、フィードバックなどをモジュラー・シンセのように自由な配置で接続します。各セクションの右側にある点をクリックすると、接続先の候補となるセクションの左側の点がライト・アップされるので、そこをクリックまたはドラッグ&ドロップすれば結線されたことに。各セクションの左側が入力、右側が出力となり、マスター・エフェクトX、Y、Zの下にある右端の矢印が最終のアウトプットです。つないだ線をダブル・クリックすると接続を解除できます。マスター・エフェクトもX→Y→Zの直列か、XとYが並列でZに直列、またはすべてが並列の3パターンがあります。マスター・エフェクトを介さずダイレクトにアウトすることも可能です。とにかくいろいろと試してみることで、思いがけない効果を生むことができて楽しいですね。

 逆に言うとこのルーティングを把握していないと、どのパラメーターがいったいどこに効いているのか分からないままいじっていることになります。気になったプリセットを少しいじってみる程度ならいいのですが、プリセットによってはつながっていないモジュールもあり、そんなパラメーターを幾らいじっても音に変化は出ません。最初から自分の音作りに取り組みたい方は、まずここを確認しましょう。Routing上では、オシレーターはOscillator1、Oscillator2、ノイズ・ジェネレーターはNoise1、Noise2、フィルターはF、3つのインサート・エフェクトはA、B、C、マスター・エフェクトは上述の通りX、Y、Zです。これらを結線することからスタートし、音を作りながら結線を変えてみて変化を楽しむというのがよいかと思います。

パフォーマーやトラッカーを含む
17基のモジュレーション・ソース

 ナビゲーション・バーをさらに右に進んでいくと、P1、P2、P3と書かれた黄色いボタンがあります。これをクリックすると下部エディターにパフォーマーが表示されます。これはペン・ツールなどを使って複雑かつ長時間にわたるオートメーションを自在に書き込める機能。P1〜3を押した際に左に表示されるグリッド・マークをクリックして、モジュレーションのパターンをキーボードにアサインすることも可能です。

▲オートメーションが描けるパフォーマー・セクション。作成したパターンは、各パラメーターにアサイン可能だ。パターンを下段の帯部にアサインし、キーボードからトリガーすることもできる ▲オートメーションが描けるパフォーマー・セクション。作成したパターンは、各パラメーターにアサイン可能だ。パターンを下段の帯部にアサインし、キーボードからトリガーすることもできる

 E1、E2、E3はエンベロープ。E1が上部のアンプに対するADSRになります。

▲エンベロープ・セクションには“Modulation Envelope”“Exciter Envelope”という2種類のエンベロープが用意されている。Modulation Envelopeは一般的なエンベロープだが、Exciter Envelopeは1周期だけのLFOというイメージに近く、アタック部分にエンベロープをかけるというような使い方ができる ▲エンベロープ・セクションには“Modulation Envelope”“Exciter Envelope”という2種類のエンベロープが用意されている。Modulation Envelopeは一般的なエンベロープだが、Exciter Envelopeは1周期だけのLFOというイメージに近く、アタック部分にエンベロープをかけるというような使い方ができる

 L4、L5、L6とL7、L8、L9はLFOです。

▲LFOセクションには“Switcher LFO”と“Random LFO”の2種類が用意されている。なおナビゲーション・バーのE2〜L9は、2種類のエンベロープと2種類のLFO計4つの中から任意で一つ選択可能だ ▲LFOセクションには“Switcher LFO”と“Random LFO”の2種類が用意されている。なおナビゲーション・バーのE2〜L9は、2種類のエンベロープと2種類のLFO計4つの中から任意で一つ選択可能だ

 E2からL9は、2種類のエンベロープと2種類のLFOの中から自由に選ぶことができます。例えばE2にLFOをアサインした場合、表示がL2になります。つまりLFOとエンベロープ合わせて9個のモジュレーション・ソースとして使用可能ということです。それぞれ下に図解が出ていますが、これは静止画なので、今後パラメーター設定によって図が動いてくれるようにアップデートされるのではないかと期待しています。T1、T2、T3、T4はトラッカーで、ピッチやベロシティなどによって変化をもたらすことができます。

トラッカー・セクションでは、ピッチ(ノート・ナンバー)やベロシティに応じた変化を生むことができる トラッカー・セクションでは、ピッチ(ノート・ナンバー)やベロシティに応じた変化を生むことができる

 一番右のVRは、選択したソースにランダムなモジュレーションを付加することが可能です。

 P1~T4はすべて十字アイコンをドラッグ&ドロップして、さまざまなパラメーターに対するモジュレーション・ソースとしてアサイン。アサイン後にノブをドラッグすることで、モジュレーションする可変範囲を色の付いた線で設定します。

エディットでどこまでも太く鳴るサウンド
加工の手間が不要な即戦力のノイズ

 ここまで見てきたように、独創的な発想、斬新で豊富な音源波形、自由なルーティング、多彩なモジュレーションやエフェクトで、これまで聴いたことがない未来の音を奏でる可能性に満ちたシンセであることが分かってきました。そして何よりも音の太さ。この太い音をエディットすれば、どこまでけたたましく奏でることができるのかとわくわくさせてくれます。

 そして、個人的に気に入ったのはノイズの充実ぶり。日常生活の環境音、都会の喧騒や工事現場、自然界のささやきなど、サンプリングしたら面白いなと思う音に出会うことは多いものの、録ってみたところで実際は多くの周波数帯が含まれていてサウンド・シェイプする作業がなかなか思うようにいかないことを経験した人は多いと思います。しかし、Massive Xのノイズ・ジェネレーターにはこういうのが欲しかったと思える音がたくさん入っており、フィルターとエフェクトを足しただけで非常に良い感じのサウンドが簡単に作れました。

 ルーティングに関しても、自由度が高いというのは実際のところハードルの高さにもつながるのですが、一度理解してしまえば音作りの楽しさをあらためて実感できます。これまでの音に飽き足らず新しいサウンドを探す上級者向けである一方、ルーティングをシンプルにして必要なモジュールだけを使うことで、初〜中級者がシンセサイザーの構造や発音を学びつつ音を組み上げていくのにも適しているのではないかとも思いました。用意されているオートメーションやモジュレーションをフル活用しなくてもよく、オシレーター(ノイズ含む)、フィルター、アンプ、エフェクトの構成に簡単なモジュレーションを足しただけで、楽曲制作に使える音は十分に作ることが可能。そこから一歩先に進みたければ新たなシンセやツールを導入しなくとも、ここにすべて用意されているという考え方でもいいと思います。Massive Xを手にするすべての人に未来は開かれている。そんな気持ちにさせてくれる製品だと思いました。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年11月号より)

NATIVE INSTRUMENTS
Massive X
フルバージョン:22,963円 Massiveからのクロスグレード:17,408円
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS 10.12以降 ▪Windows:Windows 7以降、64ビット ▪共通:INTEL Core I5以上のCPU、4GB以上のRAM(6GB以上を推奨)、インターネット接続環境とOpenGL 2.1以降に対応するグラフィック・カード(ダウンロード時およびアクティベート時)