「ELECTRO-VOICE RE520」製品レビュー:ステージ・ユースに向けた超指向性ボーカル用コンデンサー・マイク

ELECTRO-VOICERE520
 ELECTRO-VOICEからハイエンドのボーカル用コンデンサー・マイク2機種が発売された。RE520とRE420である。ELECTRO-VOICEは、これまでRE20やPL80、N/D408、N/D757など数々の名機を世に送り出しているブランドで、個人的には2016年に発売されたND96を愛用しているので、今回も楽しみである。ここではRE520を中心にレポートしよう。

ポップ・フィルターやショック・マウント
ローカット・スイッチなどを装備

 RE520とRE420の大きな違いは指向性で、RE520は超指向、RE420は単一指向である。両機種共に、金属製ハンドルおよび衝撃に強く凹みにくいという“Memraflex”グリルを採用。ヘッドの部分には“マルチステージ・ポップ・フィルター”なるものが使われ、吹かれやポップ・ノイズの低減に効果を発揮するとのこと。また、内蔵ショック・マウントによるハンドリング・ノイズの抑制や150Hzのローカット・スイッチも特徴に挙がっている。持った印象は重くもなく軽くもなく、細過ぎず太過ぎず、ハンドルの感触も悪くない。グリルは、実際に衝撃を加えてはいないのだが、頑丈そうだ。

▲RE520のグリルを外したところ。一番上にマイク・ユニットがあり、その下に150Hzのローカット・スイッチが配置されている ▲RE520のグリルを外したところ。一番上にマイク・ユニットがあり、その下に150Hzのローカット・スイッチが配置されている

 今回は、まずライブ・ハウスでチェックしてみた。その日に出演したとあるアーティストには、声との相性の良さから長年使用しているマイクがあるのだが、発売から30年を超えているためハンドリング・ノイズやハウリング・マージンなどの問題も多く、代わりを探していたところだった。マイク選びのポイントは、低域の太さと高域の伸びである。その視点で自分の声を入れてチェックしてみたところ、基本性能がしっかりしていることに驚いた。現場に居合わせたベテラン・エンジニアも同じ感想を抱いており、その日は本番には使わなかったものの、今後への期待が膨らんだ。

ハウリング・マージンが大きく
音質は中低域に粘りがある

 次にスタジオへ入り、チューニング済みのメイン・スピーカーとモニター・スピーカーをセットした環境でチェック。比較対象はPAの定番マイクだ。試してみると、SN比やハンドリング・ノイズの面にも特別問題は無い。また、カブってくる音の周波数レンジが広くハウリング・マージンも十分に取れたので、ダイナミック・マイクと同じような扱いでよいと感じた。モニター音に関しては、通常、特に低域を処理しがちなので、EQでカットしていったときにどこまで粘り強くレスポンスが残るかが要だが、RE520では十分な印象。この帯域は歌いやすさに余裕を与える部分で、実際にボーカリストからも“もう少し欲しい”と言われることがよくある。声を張り上げずに歌を表現する上で、大事な帯域なのだ。RE520では、そこをきちんとカバーできるのではないかと思う。

 また、本体のローカット・スイッチを入れてもスカスカになるわけではなく、RE420のデフォルトの量感くらい(後述)となる。ミュージシャンからの音質の要望に応える際、元から無い帯域は作り出せないので、この低域の質感は特筆すべきところだ。ちなみにローカット・スイッチはグリルの内部にあるので、オン/オフを確認するときは取り外す必要がある。

 総じて“コンデンサー・マイクもここまで来たか”という印象だ。ステージ向けのコンデンサー・マイクには恐らく30年近くの歴史があるだろうが、高域の伸びや繊細な再現性が長所に挙げられる反面、カブリの多さやハウリング・マージンの小ささ、音の細さなどが欠点とされることがあった。しかしRE520のサウンドは、中低域から中高域にかけてはダイナミック・マイクを思わせる太さ。高域は、伸びてはいるがチリチリとした感じではなく、低域もルーズな太さではないため“これは使える”と思った。私見だが、ELECTRO-VOICEは中低域に特徴があるという印象である。RE20やPL80などもそうだが、特にN/D757Bは現在も探し回っている機種だ。RE520にもその感じが踏襲されていて、中低域の密度が濃い。そこへコンデンサー・マイクならではの高域と低域の伸びが加わったという印象である。同様のチェックはRE420でも試みた。そん色ない良好な音質ではあったが、中低域はRE520に軍配が上がった感じ。だがRE420は単一指向性なので、用途に合わせて使い分けてみるのもよいだろう。

 RE520は基本性能がしっかりとしているので、自分のマイク・ライブラリーにぜひとも加えてみたい。そして、このマイクに合うボーカリストが見つかることを今から楽しみにしている。自らのマイクを所有するボーカリストも多くなってきた昨今だが、定番機種から選んでいる場合も多く、ほかの機種を試す機会に恵まれないという人も居るだろう。特にコンデンサー・マイクは、ステージにおいては少し冒険になってしまうこともある。しかしRE520やRE420は、価格的にも購入を勧められる製品なので、今後そのようなチャレンジもしてみたい。

▲同時発売のRE420(46,500円)。単一指向性のボーカル用コンデンサー・マイクで、ハウリング耐性の高さやポップ・フィルター、ローカット・フィルター、ショック・マウントなどを備えている ▲同時発売のRE420(46,500円)。単一指向性のボーカル用コンデンサー・マイクで、ハウリング耐性の高さやポップ・フィルター、ローカット・フィルター、ショック・マウントなどを備えている

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年10月号より)

ELECTRO-VOICE
RE520
46,500円
▪形式:コンデンサー ▪電源:48Vファンタム ▪周波数特性:40Hz〜20kHz ▪指向性:超指向 ▪感度:5.6mV/Pa(−45dBV/Pa)@1kHz ▪最大音圧レベル:150dB SPL(1% THD) ▪セルフ・ノイズ:17dB SPL(A-weighted、0dB=20μPa) ▪ダイナミック・レンジ:133dB ▪SN比:77dB ▪出力インピーダンス:200Ω ▪外形寸法:49.5(Φ)×192(H)mm ▪重量:332g(本体のみ)