サウンドの核となる部分はそのままに
横幅だけワイドになっていく印象
StageOneは音源の奥行きや広がり感を調整するステレオ・イメージャー系のプラグイン。Mac/Windowsで動作し、AAX/AU/VSTに準拠しています。音響心理学に根ざした独自のアルゴリズムを使用し、従来の位相差やM/S処理のみを使って広がりを生むプラグインとは一線を画する製品です。ステレオ素材の広がりを拡張するのはもちろん、モノラル素材を自然にステレオ化することも可能。エフェクトは用途ごとにWIDTH、DEPTH、MONO SPREADの3つのセクションに分かれており、目的に応じて広げ方をセクションごとに設定したり、それぞれを組み合わせて使うことによって、望んだ空間効果を得られる仕組みになっています。
それでは具体的にどのようなことができるのか、各パラメーターを見ていきましょう。まずは画面左にあるWIDTHからです。こちらはステレオ音像の“幅”を広げるエフェクトで、センターに定位した音以外を左右に広げていきます。モノラルとの互換を保ったまま、サイドの成分だけを広げていくので、定位の気持ち悪さは皆無。この系統の機能はつまみを上げれば上げるほど広がりが増す反面、芯が無くなって細い音になってしまうことが多いのですが、StageOneではサウンドの核になる部分はそのままに、横幅だけワイドになっていく印象でした。控えめな設定で使うと、サミング・ミキサーを通したときのような、ごく自然な広がりが出せて便利です。ハイパス・フィルターも付いているので、低域だけ広がらないように使えば、ビートの重心が散らかることもありません。
自然に前後感を調整できるDEPTH
ティルトEQでトーンを変化させられる
次はDEPTHです。こちらは“奥行き”をコントロールするパラメーター。つまみを上げると元音に対して反射音が追加され、徐々に距離が遠くなるような効果を生みます。説明だけ読むとリバーブの初期反射音で同じ効果が得られそうな気がしてしまうかもしれませんが、StageOneで処理した方が圧倒的に控えめかつナチュラルに前後感をコントロール可能。リバーブの効果がそこそこ鳴りのある部屋のシミュレーションだとすると、こちらはデッドな部屋でマイクを後ろにずらしていったような雰囲気のサウンドです。もちろんマイクを立てる時点で狙った音作りができれば一番ですが、オンマイクで録った素材を受け取ったり、打ち込みの音源がドライな音だったりしたときの後処理ではできることが限られてきます。これまでは、リバーブを薄くかけて奥行きを付けるか、プリアンプのシミュレーターなどを通して距離感を作る手法が採られるケースが多かったと思います。ただし、その場合には奥行き感は得られるものの、ぼやけたり濁ったりと副作用も多く、元の音をピュアなイメージのまま鳴らすのが困難でした。その点、StageOneではかなり自然なかかり方で、うまく使えば元からこういう音で録ったようにも聴こえます。
DEPTHの右側にあるCOLORというパラメーターは、反射成分のみにかかるティルトEQで、反射音の明るさをコントロール可能。ティルトEQとは、ある周波数を支点にしてシーソーのようにかかるタイプで、低域を上げると高域が下がるような形で全体のトーンを変えられるEQです。COLORを動かすことによって、部屋の明るさや重心が変化するような効果がありました。
最後のMONO SPREADは、中央に定位した音を左右に広げる効果があります。WIDTHはステレオのサイド部分のみに作用しましたが、こちらは中央部分だけに作用するのです。このように、モノとサイドを分割して処理できるという点は他社製品と比べて画期的だと感じました。通常のステレオ・イメージャーは欲しい広さまで幅を広げると中抜け感が出てきてしまうので、音色の密度を取るか広がりを取るかの2択になってしまいます。しかし、StageOneではWIDTHをいくら広げてもスカスカな感じにはならず、それに合わせてモノの広がりを調整してあげれば、頭の中でイメージしていた広さを演出できるのです。
また、MONO SPREADは完全にモノラルで録音された素材にも有効。モノの素材をパンで振ると、定位がはっきりし過ぎて“この場所に居ます!”と主張しているような存在感になりがちです。楽器の数が多い楽曲ではそれで問題ないのですが、音数が少ないときにバチっと位置が見えると、音楽性によってはアマチュアっぽいサウンドに聴こえてしまうことも。少し幅を広げてあげるだけでそれらが解消し、古い真空管マイクで録音したような、空気感のある音に変化します。不思議ですが、素材によってはStageOneをかけた後の方が、かける前より自然に感じることもあるほどでした。
繊細な調整をするためのプラグインなので効果に派手さは無いですが、知ってしまうとこれ無しでミックスするのが難しくなりそうです。特に打ち込み素材のみでワンランク上の空気感を出したい人にはお薦めできます。正直、秘密兵器として人に教えたくないような気分になりました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年7月号より)