
今回テストする製品
Typhon-AX12-BT(83,000円/1台)
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SPECIFICATION
▪スピーカー構成:12インチ径ウーファー+1インチ径ツィーター
▪最大音圧レベル:129dB SPL@1m
▪指向性:100°(水平)×80°(垂直)
▪周波数特性:50Hz~20kHz
▪外形寸法:344(W)×558(H)×340(D)mm
▪重量:16.2kg
DSP内蔵のアクティブ・スピーカー。12インチ径ウーファーと1インチ径ツィーターを搭載する2ウェイ仕様で、クラスDバイアンプ駆動となっている。最大音圧レベルは129dB SPL。4種類のEQ設定や90Hzのハイパス・フィルターを備えるほか、Bluetooth接続にも対応している。

Titan-12Z(65,000円/1台)
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SPECIFICATION
▪スピーカー構成:12インチ径ウーファー+1インチ径ツィーター
▪最大入力:2,000W
▪最大音圧レベル:132dB SPL
▪指向性:100°(水平)×80°(垂直)
▪周波数特性:50Hz~20kHz
▪クロスオーバー:2.1kHz
▪外形寸法:384.6(W)×582.7(H)×318.6(D)mm
▪重量:15.7kg
仮設PAおよび固定設置のどちらにも対応すべく設計された、12インチ径ウーファーと1インチ径ツィーター搭載のパッシブ・スピーカー。最大音圧レベルは、2,000W(ピーク)で132dB SPLとなる。トランスデューサーから効率良く放熱するIRIS Xコンプレッション・ドライバー技術の採用により、熱によるひずみの発生や損傷を軽減している。

フラットなTyphon-AX12-BT

今回レビューしてもらうのは、PAエンジニアの玖島博喜氏。Typhon-AX12-BTの設営中に「取っ手が上下に付いているのは良いですね。比較的軽いのも扱いやすいです」と音出しの前からレビューしてくれた。テスト会場は秋葉原にあるキャパシティ200人ほどのライブ・ハウス、TwinBox AKIHABARA。デモ演奏はシンガー・ソングライターの片山遼がアコースティック・ギターを弾きながら歌い、ドラマーの小島"じんぼちゃん"億洋がカホンとウィンド・チャイムを演奏するアコースティック編成。
ボーカルはSHURE SM58、アコースティック・ギターはライン出力、カホンはSHURE SM57で、ウィンド・チャイムはBEHRINGER C2をマイキングした。これらをミキサーでサミングし、ステレオでTyphon-AX12-BTから出力。出音のファースト・インプレッションを玖島氏はこう語る。
「出過ぎている周波数帯域が無く、かなりフラットな特性だと思いました。過度なDSP補正で位相が悪くなっている感じも一切ありません。レスポンスもすごく良い。ライブ前のチューニング作業が楽になるスピーカーだと思います」

多くのニーズに応えるDSP機能
Typhon-AX12-BTにはDSP SETTINGというEQプリセットが備わっている。FLAT/MONITOR/BASS/PUNCHの4種類が用意されており、リア・パネルのボタンを押すだけでモードの切り替えが可能。なお、先ほど試したのは初期設定のFLATモードだ。「この機能のおかげで、さまざまな場所で使えそうですね」と玖島氏は話す。

早速それぞれのモードをチェック。PUNCHモードはクラブのモニター・スピーカーに良さそうと玖島氏。
「低域と高域がブーストされ、スピード感が増す印象ですね。DJは整い過ぎた音を物足りないと感じる方が多い傾向にあるのですが、この音なら爆音の中でも気持ち良く聴こえそうです」
BASSモードに関しては「サブウーファー無しでやる際に重宝すると思います。誇張した感じではなく、自然な変化です」と話す。メイン・スピーカーとして使用しながらMONITORモードを試したのだが、意外にも演奏者からの評判が高かった。小島がステージ上から感想を伝える。 「外音から低域の回り込みが少なくなって、ナカオトが気持ち良く聴こえますね。アコースティック編成だとこれくらいの低域がちょうど良いです」

一方片山は、「アコギがシャキッと聴こえて良いですね。ほかのプリセットより粒立ちがよく感じました」とコメントしてくれた。

2系統の入力端子のうち、chBはBluetooth接続にも対応。玖島氏はこう印象を語る。 「有線と比べても遜色無い音質です。ステレオ・リンクがすごく簡単なことに感動しました。本体のBluetoothボタンを押して、後は出力側でペアリングするだけ。先にペアリングした方が、自動でLchに割り振られるんです」
一方chAは、マイク入力端子も兼ねている。マイクを直でTyphon-AX12-BTに接続した際は、満場一致で“ミキサー経由よりも直接つないだ方がクリア”という感想が出た。玖島氏は「高品質なプリアンプが内蔵されているおかげでしょう。ミキサーを通さない方がいい音でした」と説明する。

押し出し感に優れるTitan-12Z
次はパッシブ・タイプのTitan-12Zをテスト。パワー・アンプはCO-FUSION CF-2.6を使用した。「中低域の押し出し感がすごく気持ち良いですね。芯を感じるサウンドでエフェクトのコントロールがしやすく、しっかりとボーカルも聴こえてくる。それでいながらツィーターとウーファーの音のつながりが自然で、ナチュラルで優しいサウンドという印象。聴いていて耳が疲れにくいです。例えるなら優等生のTyphon-AX12-BTに対して、Titan-12Zは奥ゆかしい子みたいな感じ」と玖島氏が特徴について語る。さらにこう続けた。
「今回のようなアコースティック編成はもちろん、ジャズにもすごく合いそうな気がします。主張しないキャラクターを考えると、BGMを流すにも良さそうです。一方、ギターがガッツリひずんだロックに使うなら、サブウーファーと組み合わせた方が良いかもしれません」

最後に今回テストした総評を玖島氏に語ってもらった。 「WHARFEDALE PROは“パンチの強いスピーカー”というイメージが強かったのですが、Typhon-AX12-BTはフラットかつ器用なモデルで驚きました。昔のイメージが残っているエンジニアには、ぜひ試してもらいたいですね。野外でも室内でもオールマイティに使いたかったらTyphon-AX12-BT。この品質のスピーカーでマイクとBluetooth入力が組み合わせられるのは素晴らしいです。DSP SETTINGが優秀なので、音響の方が居ない場所でも簡単に使えると思います。アコースティックをメインでやるライブ・ハウスなら、Titan-12Zが良いと思いました」

(本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年8月号からの転載となります)