
ばらつきが無くしっかりとしたアタックで
べた打ちでも良く鳴ってくれる
Woodwinds ProはNATIVE INSTRUMENTS Kontakt Playerをエンジンとしており、Mac/Windowsに対応しています(AAX/AU/VSTに準拠)。サウンドはドライな音色で収録されており、オーケストラに特化した同社の木管音源Symphonic Woodwindsと比べると、より汎用的なシーンで使えるようになっている音源です。フルートやオーボエ、クラリネットはもちろん、ベース・フルートやコントラバス・クラリネットなども収録されており、大きい編成の楽曲を制作したい方にもお薦めできます。ソロとセクションがそれぞれ収録されている点も見逃せません。リバーブやOSTINATUMというアルペジエイターのような機能も装備しています。
起動してみて最初に感じたのは、アーティキュレーション変更のアイコンが音楽記号になっており、直感的に分かりやすいユーザー・インターフェースになっているということです。また、現在選択されている奏法が画面上に表示されるのもポイント。他社製音源だと、キー・スイッチに割り当てられている奏法の確認にひと手間ふた手間余計にかかることもありましたが、Woodwinds ProではKontakt画面のキーボードにマウス・カーソルを置くだけで分かります。ユーザー・フレンドリーなSPITFIREの仕様に早くもテンションが急上昇です。
フルートのソロ音源を立ち上げて鳴らしてみたところ、レガートの奏法でもアタックがしっかりとあり、速いフレーズでも難無く演奏ができました。アタックのばらつきも少ないので、いわゆるべた打ちでも良く鳴ってくれます。僕が携わるゲームや劇伴の現場ではスピードを求められることも多いため、このクオリティの高さはとてもありがたいですね。制作タイトルによってはデモを打ち込みで作っておいて、後から生録音に差し替えることもよくあります。そこで重要なのは、いかに打ち込みに時間をかけず、クライアントやミュージシャンに自分の意図する音楽を的確に伝えるか、ということです。そのようなシーンでもWoodwinds Proは重宝するでしょう。
ダイナミクスはエクスプレッションとモジュレーションで表現するベーシックなタイプですが、エクスプレッションの効きが他社製音源と比べてとても広いです。急激な音量変化を表現しようとすると、他社製音源ではエクスプレッションとモジュレーションだけでは足りず、さらにボリュームを直接いじることもあったのですが、Woodwinds Proではその必要が無く、個人的にうれしいポイントです。
6つのマイクを組み合わせ可能
スライダー1本でもバランス調整ができる
Woodwinds Proのサウンドは一聴してすぐに気に入ってしまいました。その理由としては、収録音の良さが挙げられます。全体としてドライ寄りに収録されている音源ですが、完全なデッドというよりは少し広めのスタジオで録ったサウンドという印象。ロンドンのエア・スタジオにあるスタジオ1でレコーディングされており、その自然なアンビエンスは聴いていて心地良く、そのほかの音源との混ざり具合もとても良く感じました。リバーブのノリも非常に良く、ミックスを行う際も苦労がありません。
マイクはClose 1、Close 2、Tree 1、Tree 2、Ambient、Outriggersという6セットが用意されており、それらを自在に組み合わせて音を作ることができます。音を作り込みたい人には無限の可能性を感じさせてくれる作りになっており、いろいろな組み合わせを試しているだけで時間を忘れて楽しんでしまいました。

しかし、時間をかけずに手早く音作りをしたいという方もいますよね。どちらかと言うと筆者もそのタイプなのですが、そこはユーザー・フレンドリーなSPITFIRE、やはり抜かりがありません。マイクのミックス・バランスをスライダー1本で操作できる機能が付いており、イメージする音をすぐに出すことも可能です。よくあるクローズ/ファー・マイクの切り替え方式ではなくミックス・バランスなので、より細かい調整が手軽に行えます。さらに優れているのが、このスライダーを操作すると6つのマイク・レベルもその都度適切に調整されるということです。スライダーで好みの音にあたりをつけ、それぞれのマイクの微調整を行うということが可能です。

個人的に一番ヒットした音色は、クラリネットのソロです。今まで使用していた他社製音源ではどちらかというと細めの音が多かったのですが、Woodwinds Proは太さがしっかりとあり、木管楽器特有の温かさが感じられました。春の陽気のような、穏やかなソロにピッタリの音色です。
機能に対して要望を言うとすれば、音源内でリバーブの細かな調整ができると良いと思いました。また、EQなども付いていないため、音源だけで音作りを完結させたい人にはあまり向いていないかもしれません。とはいえ、別途エフェクトを使う方も多いと思いますので、さほど問題にはならないでしょう。この価格で100GB越えの圧倒的なサンプル容量と音質を実現しているあたり、SPITFIREは音源を使う側のことをよく考えているんだなとあらためて感じます。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年5月号より)