「APOGEE Apogee FX Rack Bundle」製品レビュー:ネイティブ/DSPで動作可能なEQ&コンプレッサー・プラグイン集

APOGEEApogee FX Rack Bundle
今回チェックするのは、APOGEEが発売したApogee FX Rack Bundleというプラグイン集。CPUネイティブのプラグインとして動作するほか、近日中に同社オーディオI/OのElementsシリーズやEnsemble Thunderb oltのDSPでも動作するようになるとのことだ。

パッシブEQをモデリングしたEQP-1A
オリジナルに無い機能を備えるOpto-3A

Apogee FX Rack BundleにはEQP-1A、Opto-3A、ModEQ 6、ModCompの4種類が収録されている(Macで動作、AAX/AU/VSTに準拠)。4つのプラグインはそれぞれ単独でも販売されているが、MacへはApogee FX Rackと呼ばれる1つのプラグインとしてインストールされる。よって、DAWではまずプラグイン・スロットにApogee FX Rackをインサートしてから、その画面内でiLok認証された任意のエフェクトを立ち上げる手順となる。1つのApogee FX Rack内に直列できるプラグインは6つまで。同じエフェクトを6つ接続することも可能だ。もちろんCPUネイティブ・プラグインとして使う場合は、Apogee FX Rackを複数インサートすることができるので、他社製プラグインと自由に組み合わせられる。では、それぞれのエフェクトを詳しく見ていこう。

EQP-1AはパッシブEQのPULTEC EQP-1Aをモデリングしたプラグイン。PULTECのハードウェアを復刻生産しているPULSE TECHNOLOGIESとの共同開発で、ライセンスと品質承認を得ている。パラメーターを見ただけでは音作りの幅が狭い印象だが、実際はかなり幅広くかつ自然なサウンドが得られるEQだ。例えば、同じ60HzをBOOSTで増幅、ATTENで減衰させても、ATTEN側はBOOSTよりも少し上の周波数から減衰するという特徴がある。増減具合だけで強調されるポイントやカーブが連続的に変化することになり、キックのローエンドなどを音楽的に音作りすることが可能だ。

▲PULTECのパッシブEQをモデリングしたEQP-1A。オリジナルと同様に、低域のブーストとアッテネートを組み合わせた音作りが行える ▲PULTECのパッシブEQをモデリングしたEQP-1A。オリジナルと同様に、低域のブーストとアッテネートを組み合わせた音作りが行える

Opto-3Aは、有名な光学式コンプレッサー/リミッターを元に開発されたプラグイン。アタック・タイムやリリース・タイムはソースに応じて自動で変化するタイプなので、操作パネルは非常にシンプルだ。プラグインの下部にはオリジナルには無い追加パラメーターも装備していて実用性が高い。HF CONTOURではコンプレッションで失われがちな高域を補正可能。HIGH PASSではコンプの制御信号側の低域をカットできる。一般的にはカットするほどコンプ後の音像がクリアになるが、コンプならではの圧縮感は減ってしまう。楽器と曲調に応じて微調整したくなる重要なパラメーターだ。DRY/FXではエフェクト音とドライ音のバランスを調整できるので、手軽にパラレル・コンプレッションができる。

▲Opto-3Aは光学式コンプレッサーを元に開発されたプラグイン。オリジナルのコンプには備わっていない高域補正やハイパス・フィルター、ミックス・バランス調整の機能が搭載されている ▲Opto-3Aは光学式コンプレッサーを元に開発されたプラグイン。オリジナルのコンプには備わっていない高域補正やハイパス・フィルター、ミックス・バランス調整の機能が搭載されている

6バンドを備えるModEQ 6
ディエッサーとしても使えるModComp

ModEQ 6は多機能な6バンドのパラメトリックEQ。ローパス、ハイパス、2つのピーク/シェルフ、2つのピーク/ノッチという構成だ。Q幅のモードはProportionalと、より細い設定が可能なConstantという2種類が用意されている。バンド数は限られているがパラメーターの可変幅は広く、シェルビングにもQを装備するなど、自在なEQカーブの設定ができて実用性は高い。スペクトラム・アナライザーの表示速度はSlowとFastのほか、ノイズ・チェックにも便利なHoldがある。各バンドのソロ機能は周波数ポイントの特定だけでなく、極端なエフェクト用としても使えるだろう。

▲6バンドのパラメトリックEQ、ModEQ 6。各バンドはソロ機能を備えその帯域だけを試聴することが可能だ。増減量によってQ幅が変化するProportionalと、より精細にQ幅をコントロールできるConstantの2種類のモードを用意している ▲6バンドのパラメトリックEQ、ModEQ 6。各バンドはソロ機能を備えその帯域だけを試聴することが可能だ。増減量によってQ幅が変化するProportionalと、より精細にQ幅をコントロールできるConstantの2種類のモードを用意している

ModCompは、デジタルならではの幅広いレベル制御を可能にしたコンプ/リミッター・プラグイン。リアルタイム表示される入力波形を見ながらスレッショルドを設定できる。レシオは1:1~30:1、ニーは0~1.0の範囲で調整する。アタック・タイムは0.1msから設定できるので幅広いソースに対応可能。Opto-3Aのアタック・タイムは1.5ms程度なので、突発的なピークを持つ音源にはModCompが向いているだろう。

▲多機能なコンプレッサーのModComp。入力信号の波形はリアルタイムで表示され、その左側にあるコンプレッサーのカーブを見ながら調整できる。Punch/Easy/Levelという3種類からコンプレッション・タイプを選択可能だ。サイド・チェイン・コンプにも対応しており、入力信号に対してEQをかけてディエッサーのように使うこともできる ▲多機能なコンプレッサーのModcomp。入力信号の波形はリアルタイムで表示され、その左側にあるコンプレッサーのカーブを見ながら調整できる。Punch/Easy/Levelという3種類からコンプレッション・タイプを選択可能だ。サイド・チェイン・コンプにも対応しており、入力信号に対してEQをかけてディエッサーのように使うこともできる

画面右下からSide Chain Viewという画面に切り替えられるのだが、この画面ではコンプ動作の制御信号に対してEQが可能。ModEQ 6のようなQ可変タイプの1バンド・シェルビング/ピーキングEQとハイパスが同時に使えるので、ディエッサーとしての動作も設定できる。Opto-3Aとは違ってソースに合わせた細かい調整が可能な設計だ。

Apogee FX Rack Bundleに収録されたプラグインの中で、EQP-1AとOpto-3Aはボーカルのケアに最適なプラグインだ。ディエッサーにも使えるModCompと合わせて、歌の録音用にラインナップされたのが今回のバンドルなのだろう。

モニター音にのみエフェクトを適用して
素のまま録音できるDualPath Monitor

先述したように、Apogee FX Rack Bundleのプラグインは近日中にアップデートが行われ、ElementsシリーズまたはEnsemble ThunderboltのDSPでも動作するようになる。対応オーディオI/Oと組み合わせることで以下のような使い方が可能だ。

●Printモード
APOGEEオーディオI/Oのコントロール/ミキサー・ソフトであるApogee Control上で、Apogee FX Rackエフェクトをかけ録りするモード。エフェクトがかかりつつもDAWを経由しないダイレクト・モニタリングが可能である。

●DualPath Monitorモード
エフェクト処理をせず素のままでDAWに録音しつつ、ダイレクト・モニタリングの経路にはApogee FX Rackエフェクトをかけてモニターできる。さらに、DAWの録音済みトラック側にもApogee FX RackをCPUネイティブでインサートすると、Apogee Control側とDAW側のプラグインをリンクできるというのがポイント。DAW側のプラグインを操作するだけで、その設定がそのままApogee Control側のプラグイン側にも反映されるという仕組みだ。もちろんダイレクト・モニタリングなので、DAW側のバッファー・サイズを大きく取ってもまったく遅延は気にならない。このDualPath Monitorモードなら、エフェクトをかけ録りするわけではないのでシビアにパラメーター設定を詰める必要も無く、いつものプリセットですぐ録音を開始することが可能になる。ボーカル録音用にハードウェア・コンプを用意できないという人などは待ち望んでいた機能だろう。

Apogee FX Rack Bundleのプラグインは、低レイテンシーにもこだわった仕様である。試しにEQP-1Aをモデリングした他社製プラグインとCPUネイティブのAPOGEE EQP-1Aを聴き比べてみた。APOGEEの方がやや負荷が高いのだが、処理速度が速く、DAWの遅延補正をオフにしても元音から遅れずに処理できている。また、Apogee FX Rack内に6つのEQP-1Aを立ち上げて試してみたが、この場合も遅延は感じられなかった。

デジタル入力にもプラグインを使用可能
ドラムのマルチ録音でも重宝する

今回、DSPでの動作に対応したベータ版のプラグインとEnsemble Thunderboltを使って、Opto-3Aを除く3つのプラグインを試すことができた。使用してみると、DualPath Monitorの実用性が非常に高いことが分かる。DAW上のApogee FX Rack側からEnsemble Thunderboltのインプットを選ぶだけで、Apogee Controlにも同じ設定のプラグインがアサイン&リンクされた。EQP-1Aを1つ立ち上げた状態でのDSP使用率は4%。ElementsシリーズとEnsemble Thunderboltはプラグイン処理能力の差が無く、EQP-1Aは計40ものインサートが可能だそうだ。

Apogee Control上ではアナログ・インプットだけでなく、ADATやS/P DIFにもプラグインがアサインでき、DualPath Monitorが可能になる。ドラムのマルチ録音などでは重宝するだろう。また、DAWを閉じてもソング上に設定が残るので、曲データを開くだけでApogee Control側の設定まで呼び出しできるのは大きなメリットだ。特にコンプレッサーは演奏側の強弱次第で常に気を使って調整すべきエフェクトなので、かけ録りでの失敗は怖いだろう。DualPath Monitorモードであれば、少し深めにエフェクトしておいて気持ち良く歌い、録音後にじっくりとパラメーターを最適化するという作業をスムーズに行える。

ベータ版ではEnsemble Thunderboltのマイクプリなどの設定までCPUネイティブのApogee FX Rack上で変えることができた。これならApogee Controlとの連携が取れたAPPLE Logic Pro以外のDAWでもより快適に録音作業が進められるのではないかと思う。

オーディオI/OのDSPで動くエフェクトは一般化しつつあるが、かけ録りで使うことに関しては賛否両論がある。素のまま録音しておいて、後でエフェクト設定を決めるという形を採ることも多い。また、APOGEE製品はSoft Limitという優れたクリッピング防止機能をADコンバーター前段に搭載しているため、これまでかけ録りエフェクトの必要性は低かったとも言える。そんな中発表されたApogee FX Rackのエフェクトだが、DualPath Monitoringこそ同社の提唱するメインのワークフローだと考えていいだろう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年5月号より)

APOGEE
Apogee FX Rack Bundle
55,000円
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS X 10.12.6以降(Mojave対応)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、iLok License Manager ▪対応DAW:APPLE Logic Pro X、AVID Pro Tools 12、Pro Tools|Ultimate(Pro Tools 11以前のバージョンは非対応)、ABLETON Live 10、STEINBERG Cubase 9.5(VST3は未対応)、そのほかAU/VST1&2対応のDAW