
外部機器の制御がコンソール選択の決め手
取材に応じていただいたのは、J-WAVEの放送技術部で副部長を務める新井康哲氏。まずはコンソール更新の経緯から話を聞いた。
「オープン時から使っていたSTUDER 928が15年経過するということで、経年劣化も見られてきたため入れ替えを検討し始めました。定石としては放送用の卓を選ぶところですが、PA用のものと比べてマーケットが限られるためどうしても価格設定が高くなります。われわれとしては音質を妥協することなく価格を抑えたい。しかし、多くのPA用の卓には放送に必要な機能が備わっていないんです。そんなときにM-5000がリリースされました。PA用を基本としながらも、放送にも使えるものが出てきたなと感じましたね」
放送用の卓とPA用の卓、一番の違いは「外部制御の有無」だという。
「卓から外部機器を制御する、逆に外部機器から卓を制御する機能です。例えば、CDプレーヤーをスタンバイさせておいてフェーダーを上げると自動的にスタートしたり、逆にブース内のカフを使って話す人が手元でマイクのオン/オフを行った場合に卓のチャンネルをミュートできたり。M-5000はそれらに対応可能です。また、モニター・バスを2系統持っているので、日本のラジオ局に多いコントロール・ルームとブースが分かれた構成に対応できる。さらに、このスタジオは設置スペースも限られるため、コンパクトさも魅力でした。このサイズで、24フェーダー+4つのユーザー・アサイン・フェーダーを持っていて、われわれのニーズに応えてくれます」


本社との伝送にもREACを使用
M-5000を導入したことによりワークフローが大きく変わることはなかったが、その機能性を生かし仕事内容はアップデートされている。
「“さ行”の歯擦音が気になるとき、内蔵のディエッサーを使って抑えています。以前はディエッサーがなかったのですが、EQで処理すると歯擦音が気にならない部分も抑えられてしまうのがネックでした。EQもポイントが増え、エフェクトも内蔵のリバーブが非常にクオリティが高く、ダイナミクスがチャンネルごとに2系統使えるのも便利です」
本社とのデジタル伝送もEtherSoundからREACにアップデート。I/Oラックはサテライト・スタジオにS-4000S-3212、本社側にはS-2416を設置。最大で24chの音声をやり取りできる上、伝送を二重化したリダンダント・システムによって冗長性も増している。1Gbps対応のコンバーターを必要とするDanteなどと違い、REACは100Mbpsのコンバーターで運用可能なため、EtherSoundで使用していたものがそのまま使えたのもメリットだったという。
さらに、Dante対応の拡張インターフェースXI-DANTEも導入。M-5000からのDante信号をBSS AUDIOのコンバーターでBLU Linkに変換し、BSS AUDIO BLU-160に接続している。
「先ほどお話ししたカフのオン/オフは接点での制御となるのですが、M-5000のGPIOはチャンネルやミュート・グループのオン/オフはできないため、BLU-160で接点信号をRS-232Cのシリアル信号に変換したものをM-5000に送り、ミュート・グループを経由してチャンネルのオン/オフを行なっています。ミュート・グループを使うことで、例えばゲストにカフのオン/オフをお任せできない場合にも、ナビゲーターのマイク・チャンネルとコンビにしておけば、ナビゲーターのカフ操作でオン/オフできます」
このカフに関する操作は、ユーザー・アサイナブル・セクションにまとめられている。
「8つのボタンと4つのツマミが3面使えるのもほかの卓にはない特徴ですね。機能ごとにレイヤーを分けられるので管理しやすいです。カフとエフェクトのセンドをオン/オフするレイヤーと、ブース/コントロール・ルームそれぞれのモニター関係のレイヤーと分けて使っています」
操作性で見ると、“コンフィギュラブル・アーキテクチャー”と呼ばれる入出力の考え方も特筆すべきだろう。128あるチャンネル・ストリップのイン/アウトの割合を自由に設定できるというものだ。
「放送用途はステレオ・インプットが多いですから、モノラルを少なめ、ステレオを多めというバランスで設定できるのは便利ですね」


音質の良さから96kHzで運用
最後に、音質について質問してみると新井氏は「よくこの価格帯でこの音が実現できたなと思います」と驚きを隠さなかった。
「J-WAVEは最終段が48kHzなので、使い始める前は48kHzで運用しようと考えていましたが、試用時に96kHzで使ってみたところ、値段でいうと倍か3倍かくらいの違いを感じました。それほど音がよかった。そこで、96kHzでの運用を前提にシステムを組んでいきました」
その音の違いは、エンジニアだけでなく制作スタッフにも聴き分けられるレベルであるという。「96kHzで使って初めて真価を発揮すると思います」というM-5000のポテンシャルが生かされた番組作りに今後も期待したい。

