「QSC CP12」製品レビュー:12インチ径ウーファーを搭載するDSP内蔵のパワード・スピーカー

QSCCP12
QSCから小型のパワード・スピーカーCP12が登場した。今回はカーネーションのリーダー直枝政広氏による、ギター1本で行われた教会のソロ・ライブでテストを実施。デモ機を使用するには少し勇気がいるシチュエーションではあるが、スペックを見て直感的に“使える”と思い、現場に持ち出した。

3系統の入力端子を装備
プリセットを6種類備える

“使える”と思った最大のポイントは、コニカル・ホーンの角度が75°であること。未知の音場では水平と垂直の角度の違いにとらわれずに、狙いたい方向にスピーカーを向けるだけで済ませたいときがあるのだ。筆者の私感だが、定指向性ではないため周波数帯域が上がるにつれて角度は狭くなるが、物理の法則通り(!?)で良いのではと感じるときが多々ある。

ではスペックを見ていこう。1.4インチ径のツィーターと12インチ径のウーファーを装備。パワー・アンプ部は高域200W、低域800WのクラスD設計だ。最大音圧レベルが126dBとなっているため、実際に運用する際は110dBくらいまでだと思われるが、この大きさならそれだけあれば十分だ。過入力になった際にかかるリミッターは、作動しているのがバレにくいかかり具合になっていて、LEDの点滅がリミッターのリリースにしっかり追従してくれる。

6種類のプリセットを切り替えられる、ボイス・コントロール機能を実装。デフォルト、ダンス、フロア・モニター、スピーチの4種類に加え、デフォルトとダンスには、サブウーファー使用時のためのプリセットが用意されている。これらを切り替えるつまみの背が低いのは好感が持てる。なぜなら、つまみは一番外傷を受けやすい部分だからだ。

入力端子はライン(XLR/フォーン・コンボ)、マイク/ライン(XLR/フォーン・コンボ)に加え、ステレオAUX(ステレオ・ミニ)を装備。マイク/ラインにはブースト・スイッチ(+25dB)が備えられており、こちらをオンにしていると、ボイス・コントロールをダンスにしていてもマイクはスピーチ・モードになるという実用的な仕様になっている。ダンスのレッスンでの使用を想像してもらえると分かりやすいだろうか。出力端子にはミックス・アウト(XLR)がスタンバイ。個人的にファンタム電源やBluetooth接続が無いのは好ましい。リアには斜傾がありフロア・モニターとしても使えるほか、別売りの専用ヨークを用いることでウォール・マウントにも対応している。

▲リア・パネル。入力端子にライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)とマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)に加え、ステレオ AUX(ミニ・ジャック)を備える。マイク/ライン・インには、ゲインを上げるMIC BOOSTボタン(+25dB)がスタンバイ。出力端子はミックス・アウト(XLR)を搭載する ▲リア・パネル。入力端子にライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)とマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)に加え、ステレオ AUX(ミニ・ジャック)を備える。マイク/ライン・インには、ゲインを上げるMIC BOOSTボタン(+25dB)がスタンバイ。出力端子はミックス・アウト(XLR)を搭載する

小規模の会場で有効な音響特性
モニターとしても使いやすい作り

結論から言うと、比較的低価格ながらも使い方をしっかり考えればプロの現場でも使用できる製品で気に入った。QSCのスピーカーらしいメリハリのある質感が受け継がれているのは好印象だ。今回の会場は美しい響きの教会だったため、PA音と会場の響きが自然に混ざるように工夫。本機を客席の1/4を占める壁ぎわをフォローするのに使用したのだが、本機のそばにいる人から遠くにいる人までをカバーできた。

サウンドは50Hz周辺が豊かに出ていて、高域は16kHz辺りまでしっかりと伸びている印象。ボイス・コントロールをデフォルト・モードで使用したのだが、150Hzと500Hz辺りに4dBほどのディップを持っていた。これは小さいスペースでは有効な音響特性であろう。

ほかのボイス・コントロールもテスト。ダンスは昨今の楽曲向きのいわゆるドンシャリ・サウンドなのだが、小音量時のラウドネス・スイッチとしても使用できると思った。スピーチは低域がロール・オフされていて、中高域をややブースト。アメリカのメーカーだけあって、アメリカ英語にマッチする質感だ。フロア・モニターは低域にロール・オフし、中高域が少し抑えられている。

筐体の背が低いため、フロア・モニターとしても使用しやすい。転がしたときの角度が魔法の55°になっていて、扱いやすということも評価ポイントとして挙げられる。メッシュ・ガードには踏まれてもダメージが目立ちにくい凹状が採用されていて、現場で使用することに対しての気遣いを感じる。ステレオで聴いたときに感じたのは、非常に定位が分かりやすく、はっきりとしたサウンドだということだ。

ただパワード・タイプは電源の引き回しが必要なため、配置を変えることが多い現場では不便かもしれない。現在は電気用品安全法によって禁止されているため不可能だが、昔あった電源線を内蔵したライン・ケーブルがあれば合わせて使いたいと思った。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年3月号より)

QSC
CP12
オープン・プライス(市場予想価格:59,800円前後/1本)
▪形式:2ウェイ・パワード・スピーカー ▪ユニット構成:1.4インチ径ツィーター×1、12インチ径ウーファー×1 ▪最大音圧レベル:126dB SPL@1m ▪パワー・アンプ最大出力:1,000W ▪カバレージ:75° 線対称 ▪周波数特性:49Hz〜20kHz@−6dB ▪外形寸法:350(W)×516(H)×323 (D)mm ▪重量:約13.7g(本体)