出力トランスなどの主要部品は
当時の設計図を元に再現
U67は、無指向/単一指向/双指向というの3つのポーラー・パターンを有する真空管マイク。日本のレコーディング・スタジオにも数多く導入され、かつて筆者が所属していたサウンドインスタジオは十数本ほど所有している。そこでは優秀なメインテナンス・エンジニアである大槻博也氏によって常にベストな状態に維持されており、筆者にとっては“真空管マイクのスタンダート”的な存在でもある。ただ、さすがに約60年前に発売されたマイクだけあり、完ぺきにメインテナンスされた個体でもそのコンディションはさまざま。ペアで使うことは少しばかりちゅうちょすることも事実であった。
1990年代初期に入るとU67はU67Sとして限定的に復刻されたが、若干高域がチューニングされた音になっていた。2008年に同社は創設80周年を記念し、U67サウンドをK67カプセルとFETで再現したTLM67を発売。しかし、残念ながらこれはオリジナルのU67とは全く別物であった。
今回発表された新しいU67は、1960年代に製造されていたオリジナルのU67と同じ仕様とのこと。出力トランスをはじめとする主要部品は当時の設計図を元に細心の注意を払って再現され、K67カプセルも搭載されている。当然、新しいU67の外観はオリジナルのU67と全く一緒。本体正面には指向性切り替えスイッチを採用し、背面には−10dBのPADとハイパス・フィルター・スイッチも装備している。ビンテージであるU67の多くは、スイッチの爪が折れており“酷使されているんだなあ”と感じる部分だ。
新しいU67は真空管マイクということもあり、専用の電源ボックス=NU67Vが用意されている。これもオリジナルのU67の電源ボックスと、形だけでなくパネルの質感まで似た作り。今回の復刻版に対するNEUMANNの本気度を感じる。 またNU67Vはトロイダル・トランスを備えたリニア電源で、オリジナルのU67にも対応。ほかには、これらをつなぐ専用ケーブル(7ピン)、ショック・マウント、ビンテージ風ケースが付属品として同梱され、これらは“U67 Set”と命名されている。
なめらかな高域と力強い中域
シャープな輪郭のサウンド
さて、肝心の新しいU67の音はいかに。今回比較対象として使用したオリジナルのU67は計3本で、いずれもかなりエイジングしているものの、ダイアフラムを洗浄したりなど丁寧にメインテナンスされたマイクだ。
U67と言えば、ボーカル録りに使われることが多い。まずはバラードの王様と呼ばれる男性ボーカリストでテストしてみた。一聴した途端、新しいU67は“まさにイメージ通り!”という音を出してきた。それはなめらかな高域、力強い中域、そしてスムーズでタイトな低域。とてもパンチがあり、オケの中での存在感も抜群である。緻密(ちみつ)さという部分では、現代のデジタル領域向けにチューニングされたマイクには一歩及ばない部分もあるが、NEUMANNの伝統的な質感とでも言おうか、声の芯を損なわず、柔軟な人肌感のある官能的な音。“さすがU67!”と思わず叫びたくなるサウンドだ。ボーカリストいわく“グッと来て、歌いやすいよ!”とのこと。
続いてソロのバイオリンでテスト。こちらもスムーズで耳当たりの良い音だ。一つ驚いたのは“背面からのカブり音”が、オリジナルのU67と新しいU67では全くと言っていいほど同じということ。筆者はバイオリンなどのソロ楽器を収録するとき、マイクを無指向にしてスタジオの響きも同時にキャプチャーすることが多い。ちなみに同じK67カプセルを搭載するTL
M67や限定版のU67Sでも試してみたのだが、このような音は得られなかった。
最後の検証はピアノ。協力してくれたのは、女優としても大活躍中のアーティストである。どの音域においてもレスポンスが良く、生き生きとしたサウンドが実にU67らしい。とても力強く、繊細で立体的な音像を得ることができた。アーティストの感想は“きらびやかで、鍵盤タッチのニュアンスがとってもリアル!”だそう。
すべての検証において共通して言えるのは、オリジナルのU67よりも新しいU67の方が若干“硬め”のサウンドで、音像の輪郭がよりシャープだということ。恐らくそれはエイジングによる“差”だと予測する。以前、とあるエンジニアの大巨匠にオリジナルのU67について話をする機会があったのだが、彼は“発売当時のU67はとっても硬い音がしてね。NEUMANNはなんでこんなマイクを出したのか?と初めは思ったよ。でもね、何度ピンポンしてもしっかり聴こえる音だったんだ”と言う。ここにもU67の音が硬い理由が分かるだろう。
ちなみにNU67VをオリジナルのU67に接続して、オリジナルの電源と聴き比べてみたのだが、筆者を含めてスタジオに居た全員が音の違いを感じることはできなかった。よってオリジナルと新しいU67両者の微細な音色の差は、マイク本体に由来するものだと言えるだろう。
新しいU67がとらえた音は分厚く、それでいてすがすがしいところが往年のNEUMANNサウンドを感じさせる。“微粒子”というよりは“粘度”と表現した方が適切だろうか、しっかりと音が寄り添っている印象だ。U67 Setは、オリジナルのU67の音を見事に再現し、1960年代の音をリアルに感じることができる。もしかすると、創業者ゲオルグ・ノイマン氏からの時空を超えたサプライズなのかもしれない。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年2月号より)