右側のイア・パッド内部のみが赤
L/Rを簡単に識別可能
まず筆者は、DIRECT SOUNDのヘッドホン作りのコンセプトである“大音量の環境下で演奏するミュージシャンの聴覚を守り、より優れた音を届けたい”というコンセプトに大いに共感します。特に、EX29 PlusはDIRECT SOUNDが提供するヘッドホンの中でもトップ・クラスの遮音性能を持ち、周囲の音を最大36.7dBカットするという実力。これは独自の音響技術により作られた“パッシブ・ノイズ・アイソレーション機構”によるもので、ハウジングの設計などを突き詰めることによって、電源を一切使わずに高い遮音性能を実現しています。ヘッドホンに内蔵されたマイクで周囲のノイズを拾って解析し、逆位相の音を発生してノイズを打ち消す“ノイズ・キャンセリング機能”とは大きく違います。
EX29 Plusの外観は、全体的にミニマルなデザインと高級感のある黒で統一されおり洗練された印象。また、ハウジングにはシンプルなロゴがあしらわれており非常におしゃれです。完全にシンメトリーなデザインですのでL/Rがどちらなのか一見分かりませんが、実は右側のイア・パッド内部のみが赤になっているため、一度覚えてしまえば簡単に識別することができます。これなら照明が暗めのライブ・ハウスなどでもいちいちL/Rを迷うことなく、イア・パッド内を見るだけで簡単に装着することができますね。
そのイア・パッドは、耳全体をすっぽりと覆うくらいの大きなサイズが印象的です。ハウジングの下部分からは30cmくらいのケーブル(ステレオ・ミニ)が出ており、そこに付属の着脱式プレミアム・ケーブル(ステレオ・ミニ)を接続する形となっています。ちなみにこのプレミアム・ケーブルは、2.4mと余裕のある長さです。
もちろんヘッドホン全体の作りも頑丈。ヘッドホン・バンドの耐久性も高く、現場での過酷な使用環境でも耐えられるように設計されています。また、折りたたんでコンパクトなサイズにすることができますので、筆者のように毎日バックパックにヘッドホンを詰め込んで移動している人にとって、こういった仕様は非常にありがたいですね。
ローミッドを程良く強調
バランスが良い“アナログライク“な音
それでは実際に使用してみしょう。装着した感じは、見た目の通りイア・パッドが完全に耳全体を包み込み、ぴったりと固定されます。耳を押さえつける圧力が一般的なヘッドホンに比べて強めで、これが密閉性と遮音性を高くしている理由なのでしょう。ただし、力が強いと言ってもイア・パッドはちょうど良い柔らかさなので、耳が痛くなることはありません。2時間ほど着けっぱなしにしてみましたが、特にストレスを感じませんでした。筆者はきつめにピッタリと付ける方が好みなのでそう感じたのかも知れませんが、人によっては長時間着けているとつらくなる方も居るかもしれませんね。しかし、この密閉性のおかげで周囲のノイズを遮音し、よりクリアにモニタリングができているようです。
EX29 Plusの音質ですが、一聴したときの印象は“太くて存在感のある音”でした。特にローミッドの押し出し感が素晴らしく、目の前で音が鳴っているかのような印象。最近はローエンドの主張が強いヘッドホンも多いようですが、EX29 Plusはそれほど主張し過ぎず、低域から高域までバランスが良い“アナログライク“なサウンドで非常に好印象です。
定位感も素晴らしく、楽器がどの位置でどう鳴っているかが非常に分かりやすいですね。特にボーカル帯域における表現力の繊細さには感心しました。例えばメイン・ボーカルとコーラスの距離感において、ミックス・エンジニアが意図する音像がまさに“ダイレクト”に伝わってくるような感じがあります。このあたりはEX29 Plusの遮音性の高さと相乗効果となっているような印象です。
またEX29 Plusは、近年のダンス・ミュージック系の音楽とも相性が良いでしょう。全体的な音のキレや低域楽器のアタック感が非常に程良く強調されて、サウンドにスピード感が出るイメージでした。
サウンド・エンジニアやミュージシャンは、ライブ・ハウスやコンサート会場など大音量の環境下でモニタリングする場合、ついついヘッドホンの音量を上げ過ぎてしまうので耳を痛める可能性が大いにあります。そういったときにEX29 Plusを使用すれば、高い遮音性で周囲のノイズを軽減して適正な音量でモニタリングを行うことができます。これなら長時間使用する場合でも、耳に大きな負担がかかることは少ないでしょう。特に大音量のライブで、ヘッドホンやイヤホンを通して再生されるクリック音やトラックをモニタリングしながら演奏するドラマーやミュージシャンにはぜひともお薦め。クラブでプレイするDJも大音量の中でモニタリングすることが多いと思いますので、使ってみてほしいと思います。EX29 Plusは、自身の耳を守りながらよりクリアなモニタリングを可能にするヘッドホンと言えるでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)