
背面や左右に十分なスペースがなくても
伸びのある低域特性を実現
側面のパッシブ・ラジエーターとメイド・イン・フランスならではのセンスの良いルックスに目を奪われてしまいますが、前面ユニット部分もかなり特徴的な仕様です。ウーファー部分には、亜麻繊維のフラックス・サンドイッチ・コーンが採用されています。優れた内部ダンピング特性と素早いレスポンス、湾曲剛性があり、程よく締まりのある低域、自然な中低域を実現。色付けの少ないサウンドが大きな特徴です。ウーファーの径は同シリーズのShape 50と同じ5インチ。2つあるウーファーのうち、上部が40〜2.5kHz、下部が40〜180Hzの周波数を再生できます。また、Mシェイプ・インバーテッド・ドーム・ツィーターは緩やかな指向性を持ち、広範囲のリスニング・ポジションにも対応。材質は高い剛性を備えたアルミニウムと優れたダンピング特性を持つマグネシウムで、そのドーム形状とともにひずみを抑えています。
側面のパッシブ・ラジエーターは、スピーカー背面や左右に十分なスペースを確保できない場所でも、伸びのある低域特性を実現してくれます。バスレフ方式は、音響設計がきちんと施されていない小さな部屋などで十分な効果が得られない場合がありますが、このパッシブ・ラジエーターのおかげでShape Twinを壁に近付けて置くことも可能です。
背面はシンプルで明快。XLRとRCAピンの入力端子、ハイパス・フィルター、3バンドEQという作りになっています。ハイパス・フィルターは–12dB/octで、FR(フルレンジ=バイパス)と45/60/90Hzの4ポジションが選択可能。EQはLFが250Hz以下をシェルビングで±6dB、LMFは160Hzをピーキングで±3dB、HFは4.5kHz以上をシェルビングで±3dB調整できます。ノブは固定式でなく無段階可変式なので、より細かく設定を追い込むことが可能です。
スッキリとしてバランスの良い低域
耳に痛くないシルキーな高域
それでは、実際に音を聴いてみましょう。チェックは筆者の自宅スタジオにて、まずは最近の洋楽を中心に自分のリファレンス音源などを一通り聴いてみました。第一印象は“お、分かりやすい!”。調整無しでもここまで分かりやすいサウンドが出てきたことに驚きました。あっさりK点越えです。スッキリ感がありながら低域は少な過ぎず、ブーミー過ぎず、超低域までバランス良く聴こえています。ただ単に低域が出ているだけでなく、キックやベースの質感も好印象で、側面のパッシブ・ラジエーターとフラックス・コーン・ウーファーの相性の良さが伺えます。また、スピーカー本体が上下に長いのでリスニング・ポイントが気になっていましたが、スピーカーを無理に低いところへ置いたり、イスをすごく高く上げる必要もなく、普通に中央のツィーター位置へ耳を合わせれば良さそうです。とはいえ、“緩やかな指向性”と前述したように、前後左右に動いても音の印象はさほど変わりません。複数人での作業や軸を外れてのアウトボード調整時にも快適に作業ができそうです。2つのウーファーの効果もあってか各帯域のバランスも良く、耳に痛くないシルキーな高域が大変気持ち良く感じられます。解像度は抜群で、ディレイのフィードバック音の数が増えて聴こえるほど。これだけ解像度が高いと、“ヘッドフォンで聴いたら思ったよりディレイやリバーブが多過ぎた”などの誤差も少なくなり、作業もはかどりそうです。
背面部の3バンドEQもいじってみました。音が派手に変わることはなく、緩やかなかかり方をします。特筆すべきは160Hzを調整できるLMF EQです。部屋鳴りや反射に影響しやすいこの帯域を単独で調整できるようにしてあるのはユーザーとって大変有益で、ここを少し抑えることによりボーカルの抜け感がさらに上がりました。
次に筆者がバンド録りしたミックス前のデータでチェックしてみましたが、これもまた余裕でK点を越えてきました。録音時の演奏のニュアンスがしっかりと再現されており、中域の質感、表現力も想像以上に良い感じ。この後ミックスしていくにあたり何が必要か、何がこのままで良いかも明確に見えてきました。新しいサウンドが作れそうでワクワクします。試しにコンプやEQで処理もしてみましたが、その効果も分かりやすいので、必要以上にいじってしまうことも少なくなりそうです。
Shapeシリーズのコンセプトにあるように、卓のメーター上に置くよりもDAWをメインにしたスタジオや小規模ルームで最大限の力を発揮しそうなスピーカーです。高い解像度と分かりやすい低域を再現できるこのスピーカーは、作品のクオリティを上げるための大きな選択肢になることでしょう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)