
新たにFM Drumを搭載
マレットやシンセ・リフのような音も獲得
DrumBrute Impactは64ステップ・シーケンサーを搭載したアナログ・リズム・マシンです。全体的なレイアウトはDrumBruteから受け継がれており、トップ・パネル上半分にシーケンサーやユーティリティ・コマンド、下半分に10種類あるサウンドのパラメーター、8つのパッドなどが並んでいます。タイトに設計されたパネル・レイアウトが非常に操作しやすくなっていると感じました。リア・パネルにはMIDI IN、OUTやUSB端子、CLOCK IN/OUTを装備。メインのMix OutputのほかにINDIVIDUAL OUTSというステレオ・ミニの出力端子が用意されており、KickとSnare、Hi Hats、FM Drumを独立して出力できます。
キックのサウンドはPitchノブとDecayノブのバランスでさまざまな表情を作ることができます。アタックの芯は一定ですが、Pitchノブで低域の周波数帯が変化するため、文字通りインパクトのあるかなり前に出てくるサウンド・キャラクターにもなります。Tom Lowとの組み合わせにより独特の中低域を生み出せるところも好感が持てました。
スネアはホワイト・ノイズを多く含むSnare 1とクラップに近いサウンドのSnare 2があり、バラバラで鳴らすことも、一緒に鳴らして1つのサウンドとしてまとめることもできます。想像以上に多くのバリエーションを生成可能です。
タムはHi/Lowの2種類を搭載。アタックを主張する音ではなく、こちらをメインのキックとして使うのも面白いでしょう。Pitchノブを10時くらいにしてKickと組み合わせて鳴らすことが、前述した“独特の中低域”を作る鍵になります。
Cym/CowとClosed Hat、Open Hatという3種類の金物はエディットできるパラメーターが少ないものの、アナログらしい“シャリ感”のあるハッキリとしたサウンド。高域が多くても耳障りなところは一切無く、浮遊感のある揺らぎがとても気持ちよく聴こえます。例えるならトラップやベース・ミュージック的な鳴り。ディケイがかなり伸びるので曲間のアクセントとしても活用できると思います。
新たなインストゥルメントとしてFM Drumが搭載されています。4つのパラメーターを用いて、ひずんだキックからマレットのような音色、シンセ・リフのようなものまで幅広く音色のエディットが可能。Carrier Pitchノブで軸となる周波数を設定し、ほかのパラメーターを操作していけば、モジュレーションの変化を分かりやすくとらえることができます。
サウンドに変化をもたらすColor
複雑なリズムが作れるポリリズム・モード
新たに追加された機能として“Color”というモードがあります。これは各インストゥルメントにさらなる変化をもたらす機能。例えばKickの場合はColorをオンにすることでひずみが付加され、よりパンチのある音にすることが可能です。

グライムなどで使われるサステインの長いキックが一瞬で生み出せました。そのほか、Snare 1やCymbalではトーン、Tom Hi / Loではディケイが変化し、Snare 2では音色がクラップになるなど、効果はさまざま。筆者のお気に入りはFM Drumに組み込まれたPitch Envelopeです。ピッチをマイナス方向にスウィープするため、ダンス・ミュージックでよく使用される“トゥーン”というFM独特の音色が生成できます。Colorモードのオン/オフはシーケンス上でステップ入力が可能なため、小節の頭のキックだけひずませるといったことが簡単に設定できるところも本機の魅力です。
DrumBruteの出力段に搭載されていたSTEINER-PARKERフィルターはDistortionに置き換えられ、オンにしてツマミを上げていくと全体の音がひずんでいきます。ドラム用に設計されているこのDistortionは、激しくひずむというよりもゲイン・ブースターといった印象。ドラム全体のキャラクターを決定付ける非常に便利な機能です。金物はDistortionを付加することでより高域の伸びが良く聴こえます。
また、筆者が興奮した点としてポリリズム・モードが挙げられます。こちらは文字通りステップ・シーケンス上でポリリズムを設定することができる機能ですが、驚くべきはそのシンプルさです。Shiftボタンを押しながらステップ・ボタンの16をオンにするだけでモードに入れるため、後はインストゥルメントを選択し、Last Stepボタンを押しながらステップ数を設定するだけで、イーブンなキックと3連符ハイハットの組み合わせや複雑でブロークンなリズムなどを即座に作成可能。さらにRandomやSwingといった機能との掛け合わせで予想の付かない展開を作り出せるため、作業に没入している間にどんどんと新しいビートがあふれてきます。シーケンスを止める必要が無いため、特にライブ・パフォーマンスにおける即興性や予定調和を打破するウェポンとして活躍する機能です。
DrumBrute Impactは多機能かつ分かりやすいパネル・レイアウトによって、現代のダンス・ミュージック制作にマッチした一台だと感じました。コンピューターとUSB接続し、ARTURIAのソフトウェアMIDI Control Center(Mac/Windows対応)を使って本体設定の管理やパターンの作成/保存などができるので、ライブでも役立ってくれるでしょう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)