Danteリダンダントや電源二重化で
過酷なライブ現場にも対応
まず目に入ったのはシックなフロント・パネルだ。大きく赤いアジャスト・ダイアル、見やすく明るい有機ELディスプレイ、8ch分の8セグメント・レベル・メーターを搭載。分かりやすいボタン配置で初見でもすぐに操作可能なレイアウトとなっている。PAやライブ・レコーディングにおいてこれほど見やすいレベル・メーターがフロント・パネルでしっかり監視できる点はとてもうれしい。
チャンネル選択スイッチを押すと、ディスプレイにそのチャンネル情報が表示される。マイク・ゲインは1dB刻みで0〜60dBのコントロールが可能だ。チャンネルごとに48Vファンタム電源、位相反転、ハイパス・フィルター(80Hz)、PAD(−10dB)を備えるほか、ライン入力への切り替えも行える。
パネル左側のインジケーターは、Danteネットワークへの接続状況と、ネットワーク上のサンプル・レート、そして二重化された電源部の稼働状況が監視できる。
さらにRESETボタンを押し、ダイアログでOKを選択すると、全チャンネルの設定をリセットできる。単体使用でさまざまな現場が続いても安心な機能だ。またアジャスト・ダイヤルを押し込んだ状態でRESETボタンを押すことで、パネル・ロックも可能となっている。
先述したように、電源二重化は本機の大きな特徴。それぞれ別の場所から電源を引き込んでおけば、片側がトラブルで落ちてしまっても安心だ。ただフロント・パネルのインジケーターがあるのみで、どちらか片側の電源が落ちてもアラート表示はしてくれない。また、付属の電源ケーブルのインレット側にロック機能が付いている点も、過酷なライブ現場に耐えられる仕様を見越してくれている気がする。
リア・パネルには8ch分のアナログ・インプット(XLR/TRSフォーン・コンボ)、各プリアンプのアウトとなるAES/EBU出力×4、Dante用のネットワーク・ポート×2(EtherCon各1系統)、ファームウェア・アップデート用のUSB端子、2系統の電源(IECインレット)を搭載している。
AES/EBU出力は残念ながらDanteネットワークには乗っておらず、ほかのDante機器からのパッチはできない。とはいえ、プリアンプの音をDanteとは切り離したマルチトラック・レコーダーへ直接入力し、バックアップ録音などに使用できる。
SN比に優れ透明感あるシルキーな音質
2種類のゲインが取れるGC機能搭載
今回はスタジオとライブでのレコーディングでテストしてみた。スタジオでは男性ボーカル、女性ボーカルを収録。AES/EBUからオーディオ・インターフェースへデジタル入力してみると、まずS/Nの良さにとにかく驚かされた。試しにゲインを最大の60dBまで上げてみたのだがとてもクリアで、サーっというノイズさえ感じさせない。さらにサウンド面ではライブ向けを意識している設計とは思えないほどのクオリティ。さすがと思わせるレスポンスと、透明感のある質の良さだ。どんなマイクをつないでもそのマイクのクオリティを最大限に引き立ててくれる。ビンテージのNEVEとは少しニュアンスが違い、シルキーなサウンドが特徴だ。また、操作は本体フロント・パネルのみだったが、特に不便に感じることはなかった。
続いて、ライブ・レコーディングでの試用。他機器が混在しているDanteネットワーク内に接続し、オーディエンス回線を本機に立ち上げてみた。Danteネットワーク経由でAUDINATE Dante Virtual Soundcardが立ち上がっているコンピューターで収録。Windows対応のリモート・コントロール・ソフトを立ち上げ、Discoverボタンをクリックするとネットワーク内のIPスキャンが始まる。すぐにServer IP欄にネットワーク内のRMP-D8がリスト・アップ。あとは使用したいRMP-D8のIPを選択し、Tcpボタンを押すとあっけなく接続される。Recallボタンをクリックすると、現在の設定をリモート・コントロール・ソフトへ読み込むことが可能だ。
また、AUDINATE Dante Controllerから見たRMP-D8は、8chプリアンプにもかかわらず16chの出力を持っている。ch1〜8は各マイク・プリアンプのゲインがそのまま出力されるが、ch9〜16は各チャンネルのGC(Gain Compensation)が出力される。本体のチャンネル選択を長押し、もしくはリモート・コントロール・ソフト側でGCボタンを押すと、ch9〜16からch1〜8と同じ信号を6dB下げた状態で出力。さらにGCが有効な間は±12dBの操作をしても、GC出力は連動せず“当初の設定ゲイン・レベル−6dB”をキープしてくれるという機能だ。これはライブ・レコーディングにおいては非常に有効。通常、PAのFOHエンジニアが本番中にゲインを操作するとDante分岐しているすべての機器も追従してしまう。各社さまざまな方法でこれを避けるための工夫をしているが、このGCは6dBのヘッド・マージンを持たせるという点で、一歩先を行く機能である。
RMP-D8は、設定の中にYAMAHA IDを表示させる機能があるが将来的にYAMAHA製Dante対応デジタル・ミキサーからのリモート・ゲイン・コントロールができるようになる予定。さらなるPA〜ライブ・レコーディング用途での活躍に期待したい。近年Dante対応機器が増えつつある中、ハイクオリティなサウンドを求める向きにお薦めの一台である。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年11月号より)