
プラグインやバスなどの文字検索搭載
相対グリッドでのペーストに対応
まずは2018.7の主な新機能を見ていきましょう。
●プラグイン名のテキスト検索機能
思わず“やったー!”と心の中でガッツポーズです。最近プラグイン・メーカーでは“全部入りのサブスクリプション”があって、私ももれなく加入しています。そんなわけでプラグインのリストは年々長く膨大になってしまい、目的のプラグインにたどり着くまで30秒くらい目を凝らして探しているなんてことはしょっちゅうでした。プラグイン・リストを開くと中段に“Search”があり、ここに検索ワードを入れると目的のプラグインにあっという間にたどり着けます。

●バス&入出力の検索機能
プラグインと同様にバスや入出力を名前で検索できるようになりました。同じように“Search”メニューが増え、例えば“PianoReverb”と名前を付けたバスに一発でアサインできるのです。
●バス&アウトプットのマルチ選択機能向上
複数のトラックを選択しながら、その特定のモジュール(例えばセンド)から複数の出力へ、チェックボックス形式でアサインできるようになりました。複数のトラックを選択し、そのセンドのフェーダーから複数のAUX(リバーブ、ディレイなど)へ同時アサインできるようになったのです。
●相対グリッドでのペースト
Pro Toolsは相対グリッド(REL GRID)があり、グリッドからはみ出しているクリップもドラッグ&ドロップで指定単位(例えば1秒とか1小節とか)での移動/コピーができましたが、今回はコピー&ペーストにも対応しました。ちょっと前にはみ出しているMIDIクリップをコピーして、目的の小節頭にポジションを移動。ペーストするとちゃんとMIDIクリップは前にはみ出しています。MIDIループを作るときにはメチャ便利。オーディオにおいても同様に行えます。

●さかのぼりレコーディング機能の改善
ほかのDAWソフトでも同様の機能はありますが、Pro Toolsでは2018になってから搭載されました。プレイバックしている途中に何気無く弾いたMIDI演奏を常に記憶し、後からトラックに反映してくれる機能です。僕もこの機能が搭載されてからPro Tools作曲に移行しようと腹を決めました。2018.7からはクイック・パンチ・モードでも動作するようになり、本当にいつでもどこでもMIDIを記録してくれている安心感が備わりました。
複数トラックにまたがるプリセット
MIDI編集の高機能化も
続いて、2018年上半期に加わった、主な新機能を紹介していきたいと思います。
●トラック・プリセット
ほかのDAWにも同様の機能がありますが、Pro Toolsの場合は強力です。プラグイン・チェインのプリセットはもちろんですが、お気に入りのトラック設定を保存しておけば、トラックにインサートしたプラグインやトラック上のオーディオ/MIDIクリップなどを全部、あるいは部分的に呼び出すことができます。また、複数のトラックを一度に保存して、例えば“CM制作用マスター・セット”なんてものも作れます。人から受け取った作業中のセッションにサクッと私のセットアップを加えられるのです。いやー、便利!


●トラック・コンピング
Pro Toolsは1つのトラックの中で複数の録音テイクから選択してOKトラックを組み上げるプレイリスト機能があります。とても便利な機能ですが、複数のトラック、例えばボーカルに2本以上のマイクを使用した場合などは、プレイリストで仕上げるのが大変でした。それが、トラック・コンピング機能により、複数のトラックにわたり、プレイリストの一斉選択/編集が行えるようになったのです。ボーカルのみならず、生のドラム・トラック編集にもとても有効です。
●さまざまなMIDI編集機能の向上
MIDI編集機能のこまごましたところで、たいへん便利なショートカットが効くようになりました。例えばMIDIノートを選択して、↑↓キーで半音階移動ができますが、shiftを同時に押すと一挙にオクターブ単位で移動できます。同様にショートカット・キーと矢印の組み合わせで、5度音程の移動、音符の開始位置や長さの調整、コピーなどを行えます。
●トラック・コミット
最後に、Pro Tools 12.3からの機能“トラック・コミット”を、念を押すように伝えておきたいです。他社でも同様の機能を見かけますがPro Toolsのは強力で、どんな小さなクリップも部分的に一瞬にしてオーディオ化してくれます。プラグインを駆使して作り込んだフレーズは作業が進んでくるとCPUを圧迫してきます。これをオーディオ化して解放できるのです。そして、必要あればいつでも戻ってやり直せます。
これらのアップデートにより、私にとって今はPro Toolsをメインの作曲ツールとして存分に使いこなせています。長年ほかのDAWと併用してきましたが、他社DAWからWAVファイルをインポートすると音質のニュアンスが違っていたりすることに悩まされてきました。作曲中に聴いている音を、そのままミックスに持っていけることはものすごく重要です。そしてMIDIをオーディオ化した後の編集とミックスについては、はっきり言ってPro Toolsが無敵です。
編集ウィンドウ上で直接MIDIエディット
昔からの特徴をあらためて見直す
ここで他社DAWから乗り換えたときのTipsを紹介しましょう。ほとんどのDAWはメイン・アレンジ画面のトラックにパートやクリップと呼ばれる帯が並び、それをダブル・クリックすることでMIDI編集画面を開きエディットするというワークフローだと思います。もちろんPro Toolsでも編集ウィンドウ上でクリップをダブル・クリックしてMIDIエディターを開くことができます。しかしある日、気付きました。Pro ToolsはMIDIもオーディオもアレンジ画面編集ウィンドウで全く同等な扱いです。つまり、MIDIトラックの表示を“クリップ”から“ノート”に変えると、別編集画面を開かずともエディットできます。トラックの高さをそこそこ大きくしておけば、MIDIレコーディングしたすぐ後でミス・タッチの削除やノートの移動をそのまま行えます。オーディオの録音をした後で、すぐさまエディットできるのと同じだったのです。そして拡大表示したければEキーを押せば、ピアノなどのレンジの広いデータも一望できます。このように、ほかのDAWよりも1ステップ少ない操作で編集が行えたのです。
データの一括コピー&ペーストやリピートなどを行いたい場合には、表示をクリップに変えて操作すればよいのです。長年、ほかのDAWで染み付いた挙動が、逆に効率性を削いでいたと言えるでしょう。皆さんの参考になれば幸いです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年10月号より)