
EMI RS124をベースに
サイド・チェイン・フィルターも搭載
このRETRO INSTRUMENTS Revolverはアビイ・ロード・スタジオで使用されていたEMI RS124に着想を得て開発が行われたそうです。なるほどその通りで、筆者もこのRevolverのサウンドを聴いたときの第一印象はまさにザ・ビートルズのそれでした。Revolverという名前の由来にも納得です。RS124とは、1959年、アビイ・ロード・スタジオ(当時はEMIスタジオ)に導入されたALTEC 436Bを当時のスタジオの技術者がさまざまな改造や変更を施し、最終的にはアビイ・ロード・スタジオ独自のコンプレッサーにしたものです。FAIRCHILDなどと同様にザ・ビートルズのサウンド・メイキングに一役も二役も買った名機です。この2chコンプのRevolver、サウンド的にはもちろんALTEC 436BやRS124の要素を十分に感じるわけですが、それだけではありません。オリジナルの機器よりも非常に扱いやすくなっており、サウンド的にもさまざまな用途に適応できるポテンシャルを持っています。これは今の時代にRETRO INSTRUMENTSのオリジナル新製品として世に出る証だと思います。筆者としては、操作性、サウンド的にも、とても好印象なコンプレッサーに仕上がっていると感じました。
ざっとRevolverのスペックを紹介すると、モデルとなった436BやRS124には無かったハイパス・サイド・チェイン・フィルター(90/250Hzで−6dBのロールオフ)、ステレオ・リンク・スイッチ、連続可変式のデュアル・スレッショルド(両チャンネル兼用)、アタック・タイム調整ノブ(2~40ms)、リリース・タイム調整ノブ(200ms~2s)などの機能が追加されました。インプット・レベルは−20~+20dBu、アウトプット・レベルは−30~+18dBu、クリップ・レベルは+23dBu(1%dist)というスペックです。
特筆すべき点はデュアル・スレッショルドに連動して、レシオの値が1.5:1から5:1までの範囲で連続可変し、アンプ・サチュレーションも同時に変化することです。若干のコツが必要ですが、ここを使って非常に幅の広いサウンドを作り出すことが可能だと思います。RETRO INSTRUMENTSの製品全般に言えるのですが、音楽的なひずみ感が乗るだけで、サウンドに癖や特徴、つやが生まれ、ついいろいろなトラックにかけたくなってしまう魅惑的な機材です。

リズム・トラックの味付けの濃さも自由自在
ギターはビートルズ・サウンドを再現可能
さて、本機のコンセプトでもある、ステレオ・バス・コンプとして使ってみましょう。ドラムなどのリズム・トラックに使用した場合、まずは素晴らしいの一言です。エンジニア的な観点からすると、上手に決められた器に収めることもできるし、その器に入れることにより味付けを濃くすることも、薄くすることもできます。ダイナミックにすることや、滑らかにすることも可能です。ただ、非常に幅広いアンプのマージンを持っているためか、UREI 1178のようなひずみ感を前面に出したエフェクティブなサウンドは苦手なようです。しかし、リズムでこれだけ多種多様な使い方ができるだけあって、さまざまな楽器でも同様の非常に優秀な結果が得られました。
ステレオ・バス・コンプとしてだけでは非常にもったいないので、レコーディング時にも試してみましょう。ボーカルで使用する場合、デュアル・スレッショルドの調整がレシオの調整を兼ねているので、UREI 1176のようにレシオの感じを決めた後、インプットと、アウトプットでレベルとかかり具合を調整するスタイルになります。サウンド的には非常にナチュラルで、それぞれのツマミの調整による不適格な失敗は起こりにくいタイプです。恐らくニーの設定が緩やかなので、深めにコンプレッションさせてもひずんだり抜けの悪いサウンドにはなりづらいのでしょう。ボーカルの中低域の暴れが滑らかになり、太さも増し、まとまった感じが好印象です。同じRETRO INSTRUMENTSの176に似ていますが、それよりは味付けは薄めに感じました。
さて、今度はギターに使用してみたところ、笑いが止まらないほどザ・ビートルズの音になります。もちろん、何をやってもというわけではありませんが、レシオを深めにして、リリースは遅め、アタックは速めにして気分的にはRevolverにおまかせで、サウンドすべてを委ねる形です。ギターのアタック感は均等になり、グルーブはそのまま非常に厚みのあるサウンドになり、ほかの楽器とのなじみも増し、なおかつ存在感は維持するイメージです。さまざまな楽器やシチュエーション、モノラル・トラックやステレオ・トラックなどすべてに好印象なデュアル・チャンネル・コンプレッサーはあまり存在しないのですが、Revolverのコスト・パフォーマンスのすごさには頭が下がります。まだ未知数な部分ではありますが、このポテンシャルをずっと劣化させず、故障なく使うことができれば、Revolverを購入検討の視野に入れない理由が見つかりません。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年9月号より)