
最大4台をカスケード接続して
64chをUADプラグインで処理
UAD-2 Live Rackは、PAのライブのミックスでUADプラグインを使えるようになるプロセッサーです。Quadコアで、使えるプラグインの数が異なる2つのバンドル(Core:12種類、Ultimate:約90種類)をラインナップしており、両バンドルともANTARES Auto-Tune Realtimeが標準で含まれています。

MADIでコンソールと接続し、16chをUADプラグインで処理することが可能。サンプリング・レートが44.1kHz/48kHzのときは4台まで、88.2kHz/96kHzのときは2台までのUAD-2 Live Rackをカスケード接続でき、最大64ch(44.1/48kHz時)が扱えます。UAD-2プラグインはAPPLE Mac上の専用ソフトでコントロールできますが、MacとUAD-2 Live Rackの接続はThunderbolt 3ですので注意が必要です。使用するMacがThunderbolt 1/2のみ対応の場合、Thunderbolt 3(USB-C)とThunderbolt 2の変換アダプターを使えば接続が可能になります。
フロント・パネルはインジケーターとリセット・ボタンのみ。リア・パネルにはAC電源端子×2、Macと接続するためのThunderbolt 3端子×2、ワード・クロック入出力端子、UAD-2 Live Rackがクロック接続の終端に来るときにオンにするワード・クロック・ターミネーション・スイッチ、FireWire 800端子×2(現状は機能しません)、コンソールと接続するためのMADI IN/OUT(オプティカル)が備わっています。

セットアップ方法の前に、UAD-2 Live Rackの肝となるUAD-2プラグインの魅力についてお話ししたいと思います。UAD-2プラグインは、レコーディング・スタジオで使われてきたアウトボードの名機やコンソールのチャンネル・ストリップ、著名なギター・アンプなどがモデリングされたプラグイン群です。Neve 1073&EQコレクションやSSL 4000 E、Marshall Plexi Super Lead 1959、Ocean Way Studiosなど、数多くの種類がこれまでにリリースされてきました。音の再現はもちろん、機器のつまみの再現性もとてもリアルです。
僕は2015年にApollo 8 Quadを購入し、UADプラグインはPAにおいて重要な存在になっています。ボーカルに必ず挿しているのが1176。メーターの振り方と聴感は実機と同じ感覚です。ほかにも、声にまとわり付くことなく自然なリバーブを得られるLexicon 224、アコースティック・セッションやストリングスに必ず使うEMT 140、ボーカルにひずみを加えたり、倍音を利用してバラードに適した温かい音色を作れるStuder A800など、多くのプラグインを使っています。
的確かつ素早い操作を可能にする
Live Rackアプリケーション
では、実際に操作してみましょう。テストに使うコンソールはYAMAHA QL5です。QL5の背面スロットに同社のMADIインターフェース・カードのMY16-MD64を挿し込み、OPTICAL IN/OUTを使ってUAD-2 Live Rackとオプティカル・ケーブルでつなぎます。コンピューターはMac Miniを使用し、変換アダプターを使用してUAD-2 Live Rackと接続。また、タッチ操作に対応したディスプレイも用意しました。
Mac Miniには専用ソフトのLive Rackアプリケーションを立ち上げます。ソフトではViewと呼ばれる6つの画面を切り替えて各機能にアクセスし、的確かつ素早くUADプラグインの処理を行うことが可能です。ViewはLive Rackアプリケーション画面左上のマークで切り替えができますし、操作の必要に応じて自動的に移動します。1つ目のView“INSERTS”では、選択されているチャンネル・バンク内の全チャンネルとインサートされているプラグインがアイコンで表示されます。

横列にch1からch16まで並んでいて、とても見やすいですね。チャンネルの+マークをクリックするとプラグインをセレクトできるブラウザーが表示されますので、インサートしたいものを選択します。プラグインはカテゴリー(DELAY、DYNAMICS、EQUALIZATIONなど)で分かれており、プリセットも数多く収録。自分のプリセットを保存することもできます。ch1〜ch16はモノラルですが、ステレオのエフェクトやドラムなどのバスにプラグインを使用するときは、2chをステレオ・リンクさせることも可能です(後述のGAINS Viewで設定します)。
“CHANNEL”というViewでは、1つのチャンネルにインサートされているプラグインのパラメーターがすべて表示されます。ズーム機能も付いているので、設定状態が把握しやすく、本番中の操作も安心して行えそうです。

続く“GAINS”Viewでは、各チャンネルの入出力ゲインの設定、レベル・メーターの確認が行えます。また、チャンネルのステレオ・リンクもこのViewでできます。

次は遅延補正のためのView、“DELAY GROUPS”です。ここで一緒のグループに設定されたチャンネルは、すべて同じだけ遅延するようになります。例えば、ドラム・キットに立てた2本のマイクの内、1本にレイテンシーの発生するプラグインをインサートした場合、位相が合わなくなってしまいます。そこで同じディレイ・グループに設定してあげると、同じだけ遅延が発生するようにもう片方のチャンネルをそろえてくれるのです。ディレイ・グループの最大補正値はSHORT(100サンプル)、MEDIUM(200サンプル)、LONG(1,000サンプル)から選択できます。

“SNAPSHOT”ViewではLive Rackの全設定を保持したスナップショットを保存/変更/リコール/書き出し/取り込みが可能です。
最後のViewである“SETTING”では、サンプリング・レートやクロック・ソース、MIDIチャンネルなど、ハードウェアに関する設定を行います。
Live Rackアプリケーション画面下の黒帯部分、インフォバーについても説明しましょう。インフォバーではソフトの操作モードを切り替え可能で、EDIT/SAFEから選択できます。EDITは通常のモードで、SAFEは特定のパラメーター設定や構成を制限したモード。SAFEにすることで、本番中の意図しない操作を防ぐことが可能です。ちなみに、モード切り替えセクションの隣には、現在有効となっているスナップショット名が表示されます。
クロック設定セクションでは、クロック・ソースをINTERNAL/WORD CLOCK/MADIから選ぶことができます。コンソールと接続する場合はMADIを選びましょう。コンソールのワード・クロックにロックされます。その隣のテンポ設定セクションでは、クリックによるタップまたは数値入力でテンポを設定できます。テンポ同期するディレイなどのプラグインはここの設定に従います。
インフォバーの右端はリソース・メーターで、DSPの稼働状況などが表示されます。UAD-2 Live Rack1台で16chの処理が可能ですが、使用するUADプラグインによってDSP使用量が違いますので、多くのプラグインを使う際はメーターに注意しましょう。
スナップショットや電源の二重化など
ライブ現場での使用に便利な機能を搭載
UADプラグインが使えるプロセッサーを搭載したデバイスに、オーディオ・インターフェースのApolloシリーズがあります。僕にとってApollo 8 Quadはライブに必要不可欠な存在です。しかし、なぜUAD-2 Live Rackは“ライブ・サウンド用”となっているのでしょう? それは、ライブの現場で便利な機能が幾つも備わっているためです。その機能について説明していきましょう。
まずはSNAPSHOT Viewで解説したスナップショット機能。リハーサルなどでセットアップされたプラグインのパラメーターのスナップショットを保存することができ、リコールが可能です。Macに接続したMIDIコントローラーなどを使ってリコールの操作もできます。さらにSOUNDCRAFT VIシリーズのコンソールと接続していれば、MIDIコントローラーなど不要でコンソール上からリコール操作が行えます。曲のイメージに合わせてセットしたリバーブやディレイのパラメーターを簡単にリコールできるのはライブ・シーンで不可欠ですね。同じプラグインをリコールした場合、音切れの心配もありません。また、スナップショットをリコールしたときに、特定のチャンネル設定が変更されないようにするためのアイソレート機能もあるので安心です。スナップショットのファイルやフォルダーはMacにエクスポート、MacからUAD-2 Live Rackへインポートすることができるので、アーティストごとに作成した設定を安全に管理することが可能になっています。
UAD-2 Live Rackには2つの電源端子が備わっていますが、これもライブ現場に対して配慮された部分です。2系統の電源があることで、1つの電源が落ちたとしてもプラグイン処理を継続できる安心感があります。Live RackアプリケーションやMac自体がシャットダウンした場合は、最後に設定したプラグインの状態をキープ。本体のフロント・パネルに動作状態が表示されますので、問題があったときにも素早く気付くことができるでしょう。
最後に、筆者がライブ・シーンでどのようにUADプラグインを使っているのかを紹介しましょう。ボーカルの処理ではCambridge EQを使っています。5ポイントのパラメトリックEQで、ハイパス/ローパス・フィルターも装備。まず、ハイパス・フィルターでハンドリング・ノイズ、フロア・ノイズを軽減します。次に、ボーカル・マイクの近接効果によってブーストされる低域をカット。その後に1176LNをインサートします。そうすることにより、近接効果による不要なコンプの動作が抑えられます。

アコースティック楽器のリバーブにはEMT 140を使います。デフォルトではとても低域感が厚いので、インプットのハイパス・フィルターで125Hz以下をカット。プリディレイは20msに設定し、プレートのタイプはライブの会場に合わせて選びます。弊社に実機のEMT 140がありますが、UADプラグインの方が格段にS/Nが良いです。S/Nの良さはすべてのUADプラグインに言えることでしょう。Lexicon 224に至っては、あえてシステム・ノイズを付加するためのスイッチがあるくらいです。

さまざまな機能を紹介しましたが、一番のポイントはLive Rackアプリケーションの操作性でしょう。これまでライブの現場でApolloシリーズを使っていた方も、新たにUAD-2 Live Rackを導入する価値は大いにあります。これまでUADプラグインを試したことがないという方にとっても、あこがれの機材を使える喜びが得られ、最新プラグインで革新的な音作りに挑戦ができるとても魅力的な製品だと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年9月号より)