最上位機種と同様のウェーブガイドで
広いリスニング・ポイントを実現
JBL PROFESSIONALと言えば数あるスピーカー・メーカーの中でも長い歴史を持ち、オーディオ・ファンの間でも根強い人気があるのをご存じの方も多いはず。同社は以前にパワード・スタジオ・モニターのLSR 3 Seriesを発売しており、そのドライバーを改良して大幅に再現性能を上げたものが今回発売した3 Series MKIIというわけだ。306P MKIIはスタジオ・モニターの定番機として長きにわたって使用されているYAMAHA NS-10Mとほぼ同サイズで、前面は高級感のある光沢ブラック仕様。また、電源を入れるとJBLのロゴが青白く点灯する。驚いたのは6.5インチのパワード・スピーカーにもかかわらず約6kgと非常に軽いことで、片手でも持ち上げられてしまうくらいの重量だ。ちなみに筆者が普段から使用しているGENELEC 1031Aは約13kgで、本機はその半分以下の重量ということになる。スタジオを移動するようなエンジニアにとってはこの辺りも魅力の一つに入ってくるのではなかろうか。
入力形式はXLR端子とTRSフォーン端子で、入力感度は+4dBuと-10dBVのいずれかを選択できる。出力ゲインのつまみはカチカチと可変する21段階のクリック付きのため、左右の音量バランスを取ることが容易となっているのはうれしいところだ。ほかにも高域(4.4kHz)に±2dB、低域(50Hz)に-1.5dBもしくは-3dBを選ぶことができるシェルビング・フィルター・スイッチを装備しており、設置環境に応じて適正なモニター・バランスに調節できる。
気になる音響設計について見ていこう。ウェーブガイドに同社フラッグシップ・モデルM2のために開発されたイメージ・コントロール・ウェーブガイドを搭載することで、広いリスニング・ポイントを実現しているとのこと。また、背面には低域ポートがあり、開口の両側に丸みを持たせたスリップ・ストリーム設計を採用。これにより伸びと深みのある低域を実現しているそうだ。スペック表を見てみると周波数レンジ39Hz~24kHz、最大音圧レベル110dB SPLと、レコーディング・スタジオで使用するにあたり問題は無いが、クロスオーバー周波数は1,425Hzと少し低めにも思う。しかし、数字だけでは分からないのが音響機器なので、実際に音を聴いてみよう。
ユニット・サイズ以上のローエンド
はっきりした輪郭の自然なサウンド
まず、さまざまなジャンルのCDを聴いてみる。ロック・ギターのトゲトゲしさやヒップホップの酔いそうなローエンドの押し売りもなく、歌モノも自然でスムーズなサウンドだ。最近のハイエンド機に多い解像度が高いタイプのスピーカーではないが、筆者的には音楽的なサウンドで好印象だった。
次に実際のスタジオ・ワークに持ち込んで使用してみた。まず、最初に気付いたのがエンジニア席の狭い範囲だけがスウィート・スポットでは無いということだ。アウトボードを触ろうとエンジニア席から横に動いたときも聴こえ方がさほど変わらなかった。これは前述のウェーブガイドが大きくサウンドに影響しているのだろう。特にモニタリングがしやすかったのはキックとベース。ドラムなどの、アタック・タイムが速くピークが多い楽器でも大きめの音量で聴くことができるし、ローエンドはウーファーの口径からイメージするよりも充実している。
さすがに同軸スピーカーのような定位感は求められないが、リスニング・ポイントが広いからといって音像がぼやけて破綻することもなく、はっきりと輪郭があるように感じた。本機の輪郭がはっきりしているのはバスレフのポートが背面にあるからだと推察できるが、背面にバスレフがあることはデメリットにもなりうる。レコーディング・スタジオのような広い空間ではスピーカー背面の近くに壁などの反響面を無くし、低音が回り込まないように造られているが、自宅環境などのスピーカーの背面に十分なスペースが取れない環境では、壁からの反響で余計な低音に悩まされることも出てくるだろう。しかし、本機は前述の背面に付いている低域シェルビング・フィルターを入れることによって、この問題を解決できるのだ。ちなみに筆者の環境では“もう少しだけ高域があったらリバーブが見えやすくなるのでは”と思い、高域トリムを+2dBで使用してみたところ良い感触だった。
実際にさまざまな楽器を聴いてみて感じたのは、自然なサウンドで周波数レンジのつながりがスムーズであるということだ。そして、テストをした後に価格を見て驚いた。なんというコスト・パフォーマンス! このクオリティならレコーディング・スタジオに一つ置いてあってもいいのではと思う。また、打ち込みでもバランス良くモニタリングすることができるので、宅録をする方にもお薦めできる製品だ。
撮影:川村容一(メイン写真)
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号より)