
合計16ポイントのEQやディレイ
クロスオーバーなどの設定を行える
CDI 4|300は設備用のためXLRとスピコンの端子が付いていないが、パネルを付けてしまえば可搬型のパワー・アンプとしても使用可能。2Uサイズ、重さが7.3kgなので2台入りで使用しても一人で持ち運ぶことができる。入出力は4チャンネルあり、出力は8Ωで300W×4chとなっている。また、チャンネルごとにロー/ハイインピーダンス接続の切り替えも可能である。
フロント・パネルにはタバコの箱大ほどのカラー液晶ディスプレイが中央にあり、その右側にはディスプレイ操作をするMENUボタンとBACKボタン、ボリュームの設定などを行うエンコーダー、電源ボタンがある。ディスプレイの左側には、チャンネルごとの状態を示すシグナル・レベル・インジケーターとSELECTボタン、MUTEボタンがそれぞれ付いている。電源ボタンやエンコーダー、各ボタンは控えめに配置され、シンプルで飽きのこないデザインだ。液晶ディスプレイには、4つのチャンネルがそれぞれ見やすく色分けされている。
リア・パネルには出力コネクター、入力コネクター、外部制御機器との連動に利用できるGPIO/AUXポート、コンピューター接続のためのイーサーネット・ポートが装備されている。

次にDSPによる信号処理機能の各パラメーターを見てみよう。ディレイにおいては、ディレイ・タイムの設定がフィートとメートル単位で行えるので便利だと感じた。パラメトリックEQは最高8バンドまで使用でき、ゲイン量は小数点以下1桁までの細かいステップで動かせるので、精度の高い調整が可能だ。クロスオーバーの設定もできるので、サブウーファーなどの使用もできる。さらにパラメトリックEQとディレイがアウトプット側にも入っている。つまり、EQにおいてはインプットとアウトプットの両方で合計16ポイントもの調整が可能ということだ。各パラメーターの設定はシンプルで、特にマニュアルを見ることもなく感覚的に操作ができた。
またSPEAKER TUNING機能を搭載しており、JBL PROFESSIONALのスピーカー・プリセットが本体に内蔵されている。使用するスピーカーのシリーズ/モデルを設定するだけで、クロスオーバー/出力パラメトリックEQ/出力ディレイ/リミッターの各パラメーターを最適な設定にすることができる。インプット側でもディレイとパラメトリックEQが使えるので、好みの音も簡単に作ることができるだろう。
システム設定では現在のアンプ情報を表示することができ、使用している電源電圧、パワー・サプライや各チャンネルの温度をリアルタイムで把握することができる。
無信号が30分以上続くと自動的にスタンバイ状態になるAPDモードも搭載している。また、スタンバイ状態から再び信号を検出すると0.5秒以内に復活するので実用的だ。このモードはデフォルトでオンになっていたので若干戸惑ったが、気になるのであればオフにするといいだろう。
プリセットの保存と呼び出しは簡単。ライブ・ハウスなどでオペレートをするとき、コンソールではなくパワー・アンプでコントロールしたいことも多々ある。何度も行くような現場だと、一度作成した設定を保存しておけば時間短縮にもつながる。また、違うスピーカーをドライブしたときにもデータを記録しておけるのは助かるし、すぐにデフォルト設定に戻せるところもありがたい。
ゲイン設定は、AMP GAIN MODEで26/34/37dBから選択ができる。これはほかの機材とのマッチングを取るには有効で、用途に合わせて使い分けるといいだろう。この設定もプリセットに保存することができるので大変便利である。
全体的にクリアで明るいサウンド
専用ソフトウェアで設定や監視が可能
まずは普段からよく使っているモニター・スピーカーで、CDI 4|300と他社のパワー・アンプを聴き比べ。声やリファレンス音源でのチェックでは、低域はもたついた感じが無く、全体的にクリアで明るいサウンドという印象だ。
実際に多目的ホールでのダンス発表会でCDI 4|300を使用してみた。12インチ/2ウェイのモニター・スピーカー4台を本製品一台で鳴らしてみたところ、音量は十分でまだまだ余裕が感じられたし、クリアなサウンドの印象はここでも変わらなかった。
ちなみにCDI DriveCore Seriesは、無償でダウンロードが可能な専用ソフトウェア、CROWN Audio Archtectからアンプ設定の変更や運用状況の監視を一元的に行うことが可能。音響システムの構築作業を効率化することができる。LANケーブルを使ってコンピューターとCDI 4|300を接続してみたところ、最初は認識に少し手こずったが、一度つながってしまえばCDI 4|300のディスプレイで操作するより楽だろう。イーサーネット・ポートは1つしか付いていないが、ハブを利用すれば複数台をコントロールすることもできる。またBLU Linkに対応した上位機種のCROWN CDI 4|300BLでは、最大256チャンネルが48kHzのサンプリング・レートで送受信できるので、煩雑な結線が必要なシステムを構築する場合には、この選択肢もありだと思う。
PA黎明(れいめい)期のスピーカー・マネージメントは、チャンネル・ディバイダーとグラフィックEQだけであったが、昨今はシステムの中に幾つものEQパラメーターが存在する。そういった意味では、逆にパワー・アンプだけに任せるという方法がスムーズな気もする。中小の現場の台所事情からすると、良い音は出したいがコストの面からはちゅうちょすることもあるが、プロセッサーと一体になったパワー・アンプはカスタマイズの自由度が高く、コンソールで行っていたチューニング作業を任せることができるので、アナログ卓を使ったとしても、チューニングのコントロールやストアができ、パーソナルな音作りも可能になる。またクロスオーバーを内蔵しているので、2ウェイや3ウェイのシステムを大切に使っているライブ・ハウスなどでも、簡単にシステム構築ができる。このCDI 4|300はとても機能的であり、コスト・パフォーマンスにも優れているパワー・アンプと言えるであろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より)