「ANALOGUETUBE AT-101」製品レビュー:FAIRCHILD 670の設計を踏襲したステレオ真空管リミッター

ANALOGUETUBEAT-101
最近、ヨーロッパやアメリカのさまざまなメーカーからFAIRCHILD 670のレプリカやVariable MUタイプのハードウェア・コンプレッサーがリリースされています。各社が真空管のセレクトやアンプの設計、時代に合わせた機能追加などをしており、そのどれもが魅力的。自分もMANLEY Stereo Variable Mu Limiter CompressorやKNIF Vari Muなどを所有し愛用しているのですが、いまだに物欲は消えず、知らない音を求めてインターネットでいろいろなコンプのサンプルやフォーラムをあさっています。そんな中、サンプルの音を聴いたりして引っかかり、今回試すことになったのが670を再現したステレオ真空管リミッター、ANALOGUETUBE AT-101です。

現行品の6368真空管や
SOWTER製のトランスを採用

AT-101は670に倣った設計で、電源も含めすべての回路が真空管を中心に構成され、その真空管もオリジナルの670と同様に6386を使用しています。ただしオリジナルの6386がGENERAL ELECTRIC製だったのに対し、AT-101は現行品の
JJ ELECTRONICのものを採用。6386は、ほかの真空管に比べてかなり独特な周波数特性を持つらしく、AT-101の音も非常にユニークで開放的な感じに聴こえます。決してトランスペアレントな音ではありませんが、ほかの真空管よりもずっと音楽的に聴こえるのです。トランスは、オリジナルで使われていたUTCのものではなく、SOWTERが手掛けているUTCタイプの現行品です。

▲リア・パネルの左側にはオーディオ・インL/Rとオーディオ・アウトL/R(共にXLR)をレイアウト。そのほか多くの真空管やトランスが備わっている ▲リア・パネルの左側にはオーディオ・インL/Rとオーディオ・アウトL/R(共にXLR)をレイアウト。そのほか多くの真空管やトランスが備わっている

AT-101は、オリジナルと同じくトゥルー・バイパスに対応していません(オプションでトゥルー・バイパス仕様にすることは可能)。そこで今回は、ケーブルを抜き差ししてAT-101を通す音と通さない音を比べてみました。チェックに使ったのは複数の楽曲のステレオ・ミックスで、マスタリングを想定して使用。入力してみると、AT-101を通すだけでワイドかつオープンになりました。また、上下左右に離れて聴こえていた各楽器が距離を縮めるかのようにまとまり感が増します。670のイメージよりも、随分ハイファイに聴こえます。

平坦なグルーブが大きくうねり始める
アタック&リリース・プリセットの効果

通すだけの状態でも、TIME CONSTANTというパラメーターの影響を受けます。これは670にもあるもので、アタック・タイムとリリース・タイムの設定を組み合わせたプリセットです。オリジナルと同様に、パネル右上のノブでポジション1〜6の全6種類を選んで使います。音については、ポジション1が一番オープンでクリアに聴こえ、2は程良くまとまり周波数のバランスも良い感じ、4は歌や中域の楽器を中心にまとまるイメージ。この1/2/4は、楽曲のテンポやジャンルを問わず同じ印象です。他方3/5/6はテンポやジャンルによって少し異なる印象で、全体としては低域を中心にまとまるので、1/2/4に比べると暗い感じはしますが、平坦なグルーブが大きくうねってくるような効果が得られます。例えば、2拍目は引っ込むけれど4拍目は出てくるような感じで、そうしたグルーブの変化が魔法のように楽曲にハマることがあります。

ここで、TIME CONSTANTの各ポジションについてアタック/リリース・タイムを見てみましょう。
●アタック・タイム:ポジション1/2/6は200μs、ポジション3/5は400μs、ポジション4は800μs
●リリース・タイム(−10dBリダクション時):ポジション1は0.3s、ポジション2は0.8s、ポジション3は2s、ポジション4は5s、ポジション5はオート・ファンクション(単独のピークに対して2s、連続したピークに対しては10s)、ポジション6もオート・ファンクション(単独のピークに対して0.3s、連続したピークに対しては10s、持続した高レベル・プログラムに対しては25s)

マスタリングで使うにあたっては微調整向きではありませんが、アタック/リリース・タイムを細かく調整できるようなVCAコンプと併用すればよいかもしれません。またバンド数が多めのベルEQと併用するなど、AT-101の魔法をキープしながら周波数バランスを取る方法は幾つかあると思います。

パネル上の要素は、TIME CONSTANT以外も基本的には670と同じです。VUメーターにはリダクション量を目視するための“ZERO”とチューブ・バランス(L/Rの真空管をマッチングさせるためのバイアスの値)を目視する“BAL”の2つのモードが用意され、モード切り替えノブの下にVUメーターの針の位置とバイアスをマイナス・ドライバーで調整するためのネジが付いています。ZEROのネジは、針の位置だけでなくチューブ・バランスにも影響があり、チューブ・バランスが変わるとゲインも変化します。インプット・ゲインのノブは1dBステップ、スレッショルド・ノブは連続可変のタイプが基本ですが、オプションでステップ式のものに換えることが可能。オプションでは、LAT/VERT(M/S)機能やVCAスタンバイ(休憩時間などに真空管へ電気が通らないようにし、消耗を防ぐ機能)を追加したり、パネルを好きな色にできたりもします。ただしサイド・チェイン機能については、同社モノラル・リミッターAT-1にしか備えることができないそうです。

今回AT-101を使ってみて、オープンかつまとまりの良いサウンドが印象に残りました。魔法のように音楽的なゲイン・リダクションが行える素晴らしい機材です。

link-bnr3

サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)

ANALOGUETUBE
AT-101
オープン・プライス(市場予想価格:2,700,000円前後)
▪チャンネル数:2(ステレオ) ▪アッテネーター:1dBステップのオリジナル“T”アッテネーター(全21ステップ) ▪真空管:新開発の6386トライオード真空管 ▪オーディオ・パス:トランスを用いたバランス伝送 ▪外形寸法:482(W)×343(H)×279(D)mm ▪重量:22kg