
Pro Tools×2と同時接続可能
高度なモニター・コントロール機能も内蔵
Pro Tools|MTRXは基本的なデジタルI/Oを備えた2Uのベース・ユニットに、拡張カードを組み合わせて使います。ベース・ユニットはDigiLink(Mini)×2、BNCのMADI I/O(最大64イン/64アウト)、AES/EBU(8イン/8アウト)、8つのカード・スロットと、MADIオプティカル入出力用のミニ・モジュール・スロットで構成されています。このベース・ユニットに各種カードを組み合わせます。
また、Pro Tools|MTRXはPro|Mon 2というモニタリング・コントロール機能を搭載しており、内部のマトリクスを使用して、2chステレオから5.1ch、7.1ch、9.1ch、最大64chまでのマルチチャンネル・フォーマットのモニター・セクションとして動作させることができます。このコントロールはWindows/Mac上で動作するDadmanというソフトを使用し、イーサーネットを介して行います。DadmanはEuconデバイスとして使用可能。つまりEucon対応のコントローラーに接続することができます。

Pro Tools|MTRXは最大8枚のカードをインストールして、最大48chのアナログ入出力(合計)と後述のデジタル入出力を追加可能。Pro Tools側から見ると、最大64イン/64アウトのI/Oとして機能します。カードは、5枚まではパワー・サプライ×1基で動作しますが、6枚以上の場合は2台目のパワー・サプライを積む必要があります。
そして驚くことに、2つあるDigiLinkコネクターに2台のコンピューターをつなぐことで、2つのPro Toolsシステムから1台のPro Tools|MTRXを共有することが可能です。内部マトリクスで2台のPro Toolsを直接接続してデジタル・ドメインで信号をやり取りすることも可能となっています。
8chのA/Dカードにはライン専用の8 Line Pristine AD Card(248,000円)とマイクプリを搭載した8 Mic/Line Pristine AD Card(355,000円)の2種類があります。またマイク/ライン切り替え式のA/Dカードにはトークバックやトラック制作システムに最適な2chの2 Mic/Line Pristine AD Card(151,000円)も用意。各マイク・プリアンプは音色変化の少ない、リレー・ベースのゲイン・サーキット搭載して高音質を実現しているとのことです。またそのゲイン・コントロールは、Pro Tools SoftwareやDadman、Eucon対応のコントローラーからリモート操作できます。D/Aカードは8chの8 Pristine DA Card(248,000円)が用意されています。
8系統の入出力(計16ch)を持つAES/EBUカードの8 AES3 I/O Card(195,000円)は、サンプル・レート変換機能を内蔵しており、デジタル間でのシームレスな接続を可能にしています。Dual SDI/HD/3G Card(325,000円)もサンプル・レート変換機能を内蔵しています。
また、MADIは標準搭載されていますが、カードでの追加(248,000円)や、先述したミニ・モジュール(38,900円)でオプティカル端子の追加も可能です。そのほかイーサーネット端子に関連してDanteモジュールが追加でき(68,000円)、最大64chが扱えます。
システム同期はBNCコネクターのワード・クロックと、AES11のビデオ・ブラックバースト(VBB)I/O入力があります。サンプル・レートは高精度内部クロックおよびPLLによりDSD64(2.8MHz)、DSD128(5.6MHz)、PCM 44.1〜384kHzに対応しています。もちろんPro Toolsでの使用は192kHzまでのPCMです。
さらに、Pro Tools|MTRXはAVIDのコントロール・サーフェスであるPro Tools|S6、S3、Pro Tools|Dockなどと組み合わせて、マイク&ライン入力、ライン出力、デジタル入出力、キュー出力、モニター出力など、すべてを1台で完結することができます。他のハードウェアを使わずモニター・セクションが組める強力なインターフェースです。これらのコントロール・サーフェスが無い場合でも、Dadmanからルーター・マトリクスを操作することで、Pro Tools|MTRX単体でも強力なデジタル・パッチ・ベイを持つネットワーク・ オーディオ・インターフェースの中心として十分な価値を発揮します。
スムーズで密度の高い音
プリ内蔵カードでコンパクトなシステムも
とにかく強力で何でもできそうなPro Tools|MTRXですが、肝心の音はどうなのでしょうか? チェックしてみましょう。今回はAVID HD I/Oと比較しました。
AD/DAの音色は期待を裏切ることがありませんでした。HD I/OとPro Tools|MTRXの8ch AD/DAカードはそれぞれ10万円ほどの価格差がありますが、値段相応、いやそれ以上の価値のある音がしています。
A/Dカードのプリアンプは、SSL、API、NEVEと比較試聴をしました。API、NEVEと比べるとソリッドな音色で、今回試した中ではSSLに一番近い印象。マイクプリ付きの8chカードが通常の8ch A/Dカードと比べて約12万円高と考えれば、素晴らしいコスト・パフォーマンスです。スタジオでの標準プリとしてはもちろん、ライブ収録であればMADIやDanteでPA側から音声をもらい、収録用の追加マイクをPro Tools|MTRXのプリアンプを通して録音するという、コンパクトでありながらハイクオリティなシステムができると思います。
D/AもHD I/Oと比べて密度が高くスムーズで、マスタリング・スタジオでの使用も可能な高品質な音です。筆者は普段PRISM SOUND ADA-8XRをPro Tools用インターフェースとして愛用していますが、かなり近い印象の音がします。ADA-8XRは発売からかなり時間のたつ製品ですが、最高峰とも呼べるクオリティのものです。それに匹敵する最新機種が出てきたという印象で、AD/DAの拡張性を考えると、今までならADA-8XRをチョイスするハイエンド・スタジオでもPro Tools|MTRXを採用することになるのではと思います。

アナログ8ch入力/8ch出力の構成でHD I/OとPro Tools|MTRXとでは倍以上の価格差がありますが、Pro Tools|MTRXの音色と拡張性を考えれば、むしろ安いと感じました。これからはPro Tools|MTRXが、プロ・スタジオでのPro Tools用インターフェースの第一候補になると思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)