DDPでの書き出しが可能
32ビット/192kHzの新エンジン搭載
T-Racks 5には大きく分けて2つの使い方があります。1つ目はスタンドアローンとして、2つ目はDAW上でプラグインとして使うという方法です。今回のアップグレードでは、フル・スクリーンまでの画面拡大が可能になったり、ラウドネス・メーターやVUメーターなど、音楽制作だけでなく放送/配信用にも対応したメーター類が追加。さらに現在のCDプレスには欠かせないマスター音源の納品フォーマット=DDPでの書き出しや、4種類のエフェクト・モジュールも新たに加わり、これまでのものと合わせると計38種類となりました。また、ビット/サンプリング・レートも32ビット/192kHzに対応し、オーディオ・エンジンも新しくなっています。
なお、T-Racks 5は同梱されているモジュール数の違いによって、幾つかの購入オプションが用意されています。9モジュールがバンドルされたT-Racks 5(149.99ユーロ)、22モジュールがバンドルされたT-Racks 5 Deluxe(299.99ユーロ)、38モジュールがバンドルされたT-Racks 5 Maxの3つです。ちなみに後述の4種類の新モジュールは、すべてのバンドルに同梱されています。また、ある特定のモジュールだけをピンポイントで欲しいという場合は、モジュールを個別に購入することも可能です。
4種類のエフェクト・モジュールが追加
全体的に癖の無いクリアで素直な音質
早速スタンドアローン版で立ち上げ、処理をしたい音源を読み込むと、画面左下のCLIP LISTに表示されます。このCLIP LISTの順番がそのままアルバムを作る際の曲順になります。あとは、画面左上のMODULEから好みのモジュールとプリセットを選んで調整するだけ。波形表示もでき、フェード・アウトの処理も可能です。最後は画面左下のEXPORTを押して、それぞれWAVやDDPなどのフォーマットを選択すれば書き出し完了。説明書を見なくても画面上で簡単に作業ができます。また、曲間の調整やISRCなどのコード入力はAlbum Assembly画面で編集可能です。もちろん、PQシートも書き出せます。
肝心な音の方はというと、全体的に癖の無い素直な音質になったという印象。同社はプロの間でも評価の高いマスタリング・ツール、Lurssen Mastering Consoleも発売していますが、傾向は似ています。また、オーディオ・エンジンが新しくなったためか、各モジュールのかかり具合もよりクリアになった印象で、どの音楽ジャンルにおいても良質なマスタリングが可能でしょう。
T-Racks 5 MaxをDAW上でプラグインとして使う場合、私がよく使うモジュールはBrickwall Limiter、Stealth Limiter、Master EQ 432の3つ。リミッター系はつぶれ方がアナログっぽく、これでもか!というほどレベルを入れ込むことができます。Master EQ 432は、コンソールでミックスしていたころによく使っていたマスタリング・イコライザー、SONTEC MES 432 Parametric Disk Mastering EQをモデリングしているので気に入っています。音質的にはスタンドアローンとプラグインでの使用時の大きな違いはありませんでした。
ちなみにT-Racks 5全グレードに新しく追加された4種類のモジュールには、真空管タイプのコンプレッサーDyna-Mu(画面①)、1画面でマスタリング処理がほぼすべて行える“オール・イン・ワン”のプロセッサーのOne(前ページの画面内)、スペクトラム・アナライザーや10バンドのパラメトリックEQを搭載したEqual(画面②)、リファレンスとなるトラックを解析し、その特性を適用することができるMaster Match(画面③)が追加されました。特にMaster Matchは“自分のイメージする曲の質感に似せたい!”というときに便利。面白い機能なので一度使ってみることをお勧めします。
ーブ仕様のコンプレッサー/リミッター・モジュール
T-Racks 5 Maxは、DAW上におけるプラグインとしての音作りからプレス工場納品用のマスター制作まで、音楽制作におけるすべての過程で使える便利なソフトウェアです。特にコンプレッサー系のモジュールは、良い意味で“アナログとデジタルの中間”という印象で、とても扱いやすいでしょう。宅録ユーザーからプロまで使える便利な機能を搭載したプラグインが数多く存在していますので、ぜひ皆さんの音楽制作にも取り入れてみてください。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より)