S-Logic plusテクノロジーを搭載し
自然な形での音像構築を可能とする
本機のドライバーにはSignature DJと同様の50mm径マイラー・ドライバーを採用し、S-Logic plusテクノロジー・システムも搭載している。S-Logicとは、ULTRASONEが特許を持つ技術で、発音源であるドライバーを鼓膜の軸上から意図的にオフセットした位置に組み込む機構を指す。人間は外耳に反射する音信号を聴き分け、音源の距離や方向を把握している。それが体感的に慣れ親しんだ自然な聴き方である。しかし一般的なヘッドフォンでは鼓膜の軸上、両耳のすぐ脇で発音するため、音像は頭の中に集まるようにイメージされる。この自然界では起こりえない現象に直面した脳は、少しでも自然な状態に補正をしようとフル回転で働き、音楽を聴いているにもかかわらず、脳自体は疲労困ぱい。さらに不自然な状態で音を聴くため、音量を上げてしまうことにもつながり、耳の感度が低下する原因にもなっている。
しかしS-Logicのヘッドフォンは発音源であるドライバーを鼓膜の軸上から意図的にオフセットした位置に組み込むことで、ドライバーから発した音は、そのまますぐに内耳の中に投入されず、外耳に反射する。このため人間の脳は本来感じるはずのイメージどおりに音を受け取ることができ、脳への負担が軽減され、自然な形で音像の構築と、音の聴き取りやすさが実現する。終日ヘッドフォンをつけたまま過ごすことも多いプロフェッショナルのために耳と脳への負担を抑え、長時間のリスニングであっても疲れにくいヘッドフォンを提供している。さらにS-Logic plusでは、イア・カップの形状、バッファー・ボード、カップの空間ボリュームなどを追求し、音響的特性への影響についてより深く追求し昇華させている。
またULTRASONEのもう一つの特徴であるUltra Low Emissionは、ドライバーから発生して人体に到達する電磁波を低減する技術で、もともとは潜水艦を探知機に検知されないように開発された強力に電磁波を誘導する性質を持つ“ミューメタル”という軍用の特殊金属素材を電磁波発生源と人体の間に設置することにより、電磁波が人体に到達する前に進行方向を曲げ、結果的に最大98%の電磁波をシャットアウトするよう設計されている。この技術により電磁波から開放され、長時間使用するプロユーザーから子供まで誰もが安心して使えるヘッドフォンを提供している。
バランスの良い音像で
大音量でも聴き取りやすい
では、音色や装着感などについてチェックしていこう。まずは装着感。本機にはヘッド・パッド、イア・パッドにプロテイン・レザーを採用し、ソフトな装着感を保ちつつも、タフに使用してもすり減りにくくなっている。また装着した際、頭部に自然にフィットするので、長時間の使用でも耳やこめかみが痛くなりにくいのも良い。
続いて音色だが、著者が普段から使用しているSignature Proと比べると、設計思想やドライバーの違いから音の傾向は若干違っているが、バランスの良さと、発音のクオリティの高さはさすがにULTRASONE製品だけあって間違いの無い出来である。Signature PROに比べ少し中低域に音が集まるが、大音量の中での使用を前提としているモデルなので、聴き取りやすさといった部分では、こちらのモデルの方が優れている印象だ。もし著者が選ぶとすれば、ミックスやマスタリングにはSignature Proを、録音やライブのDJ的使用ではSignature DXPといった選択がベストではないだろうか。 タイトでいてかつ正確に表現される低域は大音量の環境での音のチェックに最適で、またそういったクラブ的な音を好むユーザーであればリスニング用としてもお薦めである。Signature DJと同じ50㎜径のドライバーを使った本機は、特に低域の再生感が心地良く、EDMなどの低域を強調した音楽は、コンサート気分で気持ち良く聴けるだろう。
楽器の分離や超高域のニュアンスはさすがにSignature Proに軍配が上がるが、逆に細かなニュアンスがシビア過ぎて疲れることもある。ボーカルの子音やドラムのハイハットなどといった超高域などが強調されると、ともするとそれが気になって演奏に集中できないことがあるが、音の芯である中域に程よく音域が固まっているので、レコーディングなどは、Signature DXPの方がより演奏に集中できるようになるだろう。単純なことではあるが、こういったことが良いテイクを取るのには必要なのである。
以上、ヘビー・デューティでコスト・パフォーマンスに優れた本機は、DJの現場はもちろん、レコーディングの現場にもぜひお薦めしたいモデルである。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より)