
トランスフォーマーレス設計で
高感度/ローノイズな仕様
TM1は金メッキされた1インチのラージ・ダイアフラムを持つコンデンサー・マイク。本製品は買ってすぐにレコーディングに使えるよう、パッケージ化されており、ショック・マウントとポップ・ガード、6mのXLRケーブル、専用ダスト・カバーが同梱されます。ナレーションなどで複数本を同時購入するケースや、1本目のコンデンサー・マイクとしての購入を検討している宅録ユーザーには親切なセットですね。
指向性は単一指向性の固定でトランスフォーマーレス設計。感度は−34dB、SN比は88.5dBと高感度/ローノイズな仕様となっています。最大SPLは138dBで、人間の耳が痛いなと感じるレベル程度までの大音量でも耐えられるでしょう。これらのスペックは同価格帯のマイクのみならず、業務用と比較してもそん色ないレベルです。周波数レンジは20Hz~20kHzで、周波数特性表を見ると1.5kHz、5kHz、10kHzあたりにピークがあり、ボーカルをきらびやかに集音するのに適したチューニングになっているのが見て取れます。また、ポップ・ガードはショック・マウントに取り付ける方式になっており、非常にコンパクトに設置することが可能です。
高域がきらびやかに持ち上がり
低域はツルッとした音質
それでは実際に試してみましょう。まず開封して思ったのが、カタログで見るよりグリルが輝いているなという印象でした。グリルは目の粗い網と、細かい網が重なって二重になっており、多少の吹かれならコチラだけで吸収してしまいそうな雰囲気で好印象です。
今回はプリアンプにSHEP/NEVE 31102、AVID HD I/Oを通してPro Tools HD 12にレコーディング。ボーカルやアコギを、NEUMANN U87、AKG C414B TLIIでも録音して、比較しながら試聴しました。
まずはアコギからチェックしましたが、TM1は、ノイズも少なくかなりゲインが高い印象です。U87と比較してみたところ、10dB近くゲインを下げて録ると、同じくらいの音量で録音することができました。音質は高域がきらびやかに持ち上がり、低域はツルっとしています。ハイ上がりな特性のC414B TLIIと比べてもかなり高域が派手なので、オケに埋もれない音色で録ることができるでしょう。周波数特性表で見て取れる通り、1.5kHz、5kHz、10kHzがブーストされたような音なので、弦の輪郭や空気感がよく出ていて、ハイファイに聴こえたのだと思います。試しにU87やC414B TLIIで録った音をEQで5kHzや10kHzを突いて派手めなミックスをしたものと試聴比較しましたが、TM1で録った音の方が自然なサウンドに聴こえました。打ち込みなど、ハイエナジーなサウンドと同時に鳴らすときに、あらかじめ高域にEQをかけるのが分かっていれば、TM1を使って録った方が脚色が少ない音で録れると言えるでしょう。
次に、ボーカル録音での音を聴いてみました。こちらもやはり印象は変わらず、ブライトなサウンド。5kHzあたりがブーストされていると、子音がキツく出過ぎるのではないかと心配していましたが、不思議とそうでもなく、倍音を強調するエキサイターをかけて録ったような質感に近かったです。ちょうど
2~4kHzあたりのキンと聴こえる帯域が上下の周波数に比べて凹んでいるので、派手さの割に耳障りに感じることも無く扱いやすい音質だと思いました。一方でローの量感は少し物足りない雰囲気がありましたが、宅録で使う際にはむしろ無駄な音が少なく処理が楽なのではないでしょうか。足りないと言ってもすっぱり切れているわけでは無く、EQで補正してあげれば十分にふくよかな音になりました。
低価格マイクでは、キンキンと突き刺さるようなトーンのものも多いですが、TM1は持ち上がったピークの周波数が絶妙で、狙って派手なサウンドを作ったように聴こえます。ケーブルやポップ・ガードもセットになっているので、これから宅録を始めるけれど生音の扱いが苦手と言うユーザーが、録っただけで処理済みの音を出せるマイクとして活躍するのではないでしょうか。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号より)